窮地
あ〜頭が髪の毛が焼けてモンブランになる〜
「…ねえグリース」
「どうした?」
「帝国を出たら…次は、どこにいくの?」
「そうだな、帝国で2人目の勇者と会った後は…聖国の勇者にも会いたい。俺は全ての勇者を見て、話して彼らを知りたいと思っている。当然だが紫電の勇者を殺すことを忘れたわけじゃない、安心しろ」
「大丈夫、信じてる」
2人目の勇者を探す事にしたグリースとアンリは帝国の中心地にある商店街に足を運んでいた。
商店街はかなり賑わっており、この国が豊かであることがひと目でわかる。
しかも、こう言った繁華街は歩くだけでいろいろな出店の店主から声をかけられる。
「そこの兄ちゃん!串焼きどうだい!」
「じゃあ三本もらおうか」
「ところで、この帝国にいる勇者のことなんだが…怪力の勇者以外にはどんな勇者がいるんだ?」
グリースは串焼きを手渡す店主に勇者について質問する。店主はその質問についてポカンとしていたが、すぐに答えは返ってきた。
「ん?なんだアンタたち帝国の人間じゃないのか、この国にはもう勇者は怪力の勇者しかいねえよ」
「…もう?以前はいたのか?」
「そりゃあな、あの人がいなかったら今の帝国は存在しないさ。あの方は我々の英雄だよ」
そう言った店主の顔は笑顔だった。グリースは串を食べ終え、置いてあったゴミ箱に串を捨てて出店を後にした。
それから数分歩くと、何やら前が騒がしい事に気づく。
帝国の憲兵が誰かを探しているらしい。
「…嫌な予感がするな」
「私も」
グリースたちは来た道を引き返そうとした時、憲兵たちの叫び声が聞こえた。
「いたぞ!【勇者殺し】だ!」
グリースたちは嫌な予感が的中したことを確信し、憲兵から離れるため走り出した。
帝国なきを走り回って何分が立っただろうか、すでに帝国内は憲兵の監視で溢れかえっていた。
グリースたちは商店街の入り組んだ裏道に潜んで憲兵たちをやり過ごしていたが、見つかるのは時間の問題だった。
「…地味に窮地だな」
「どうする?殺す?」
「それは最後の最後に取る手段だ」
しかし、このままではその手段を取らざる終えなくなる。グリースは必死に頭を働かせて帝国を出る策を考える。
そして、思いついた唯一の策は…
「なあ、アンリ。今日はいい天気だとは思わないか?」
「…?」
首を傾げるアンリの前でニヤリと笑うグリースの右手が赤い光を発した。
「こっちに来たか?」
「いや、大通り一帯に交通規制をかけたが見つかっていない」
「ならやはり裏道だ、裏道をしらみつぶしに見ていけば必ず見つけられる。幸い裏道から帝国に出るルートは無い、奴らが逃げ切ることは不可能だ」
その頃、憲兵たちは逃げるグリースを探して走り回っていた。大通り一帯に憲兵を配置して交通を制限し、グリースたちがいると思われる裏道から大通りに逃げられないように大規模な包囲網を作ったのだ。
あとは時間さえかければ必ず捕まえられる。
王国から脱獄犯が侵入してきたと聞いたときは肝を冷やしたが、蓋を開ければ大したことのないものだった。
…憲兵全員がそう思っていた。
その時だった。
ゴウッという音とともに一目見て三軒ほどの空き家がまるで爆発したように『火を吹いた』のだ
「なっ!?」
「火事か!!」
仲間の憲兵たちも突然のことに驚きを隠しきれず叫び声を上げる。
人間にとって火という存在はとても恐ろしいものである。料理や暖房と言った生活に欠かせない便利なものである一方、一歩間違えると財産の全てを失いかねない脅威となる極端な存在。
そして、火は燃えるものがあればどんどん周りに広がっていく。
「今すぐ水属性の魔術師を呼べ!火が燃え広がる前に消し止めるんだ!!」
「水魔術を使えるものはいるか!」
「早く住民を避難させろ!」
憲兵たちは慌てて火事の対処に追われていく。住民もパニックになり憲兵の迅速な対応の邪魔になったり野次馬となったりと大騒ぎだ。
今日は快晴、物を燃やすにはもってこいの天気だった。
「…なんとか、うまくいったな」
「さすがグリース、私をうまく使う」
グリースがとった作戦は簡単な物だった。
商店街で売られている油を盗み、火の魔術剣で火をつけた後に複数の空き家にばら撒く。
ちなみに近くの空き家には魔術剣で直々に火をつけた。
それだけだったが、それができたのはアンリの盗みの技術と分身の能力が必須だった。
アンリの分身は持ち物の『交換』ができた。
分身同士、もしくは分身と本体で持っている物を入れ替えることができるのだ。
例えば、『無手』から『火のついた油が入っている皿』と言った具合に。
「私は私、そこにある私が持っているものは…どこかの私が持っているもの」
アンリはそう言って空き家にいる『アンリ』と自身の持っている油を交換した。
…一瞬でアンリの手から油が消える光景はまるでマジックだった。
「お前が急にリンゴや金を出したのはこんなカラクリだったのか」
「…知らなかったの?」
「本来は空き家まで持っていってもらう予定だったよ」
注目を逸らすには皆がもっと注目する何かを生み出せばいい、とてもシンプルでわかりやすい理論だったがそれだけ効果も絶大だった。
グリースたちは穴だらけの交通規制を突破し、帝国の東にある門に到達した。
しかし、そこには彼がいた。
「ようグリース、待っていたぜ」
彼はいつもと変わらない笑顔でグリースたちを待っていた。
「…シテン」
「お前、脱獄犯だったのか。しかもあの【勇者殺し】…俺よりビックネームじゃねえか?」
シテンはゆっくりとグリースとの距離を縮める。グリースはシテンの静かな闘気に後ずさった。
「確かに俺は脱獄犯だ、だが俺にも譲れない正義があった!神速の勇者のような理不尽を俺は許せなかったんだ!!」
「正義…か。」
グリースは必死にシテンに語りかける。
シテンはじっとその言葉を聞いていた。
「俺の故郷の人間は善人ばかりとは言えなかったが、それでも彼らなりに真剣に生きていた!それを!あいつらは自分勝手な理由で踏みにじった!!」
そして、ついにシテンが口を開く。
「なあグリース。この世で一番…美しく純粋な感情ってなんだと思う?」
「…なんの話だ?」
それはたった一つの質問、グリースの必死な語りかけを無視した唐突な問いかけだった。
「俺はな?グリースが何のために王国から逃げたのか、どうして神速の勇者を殺したかなんて知らねえ」
でも、とシテンはつづける。
「お前の…その純粋な『怒り』はわかる」
そう言ってシテンは門の前まで歩き出し、右手で門を殴りつける。
ドゴンッ!!と轟音とともに地響きが起こり、門が金具ごと吹き飛ばされてポッカリと四角い穴が開いたような門だったものができ上がる。
「…行け、ここは俺に任せろ」
「いいのか?」
シテンは笑顔でサムズアップをする。
とも
「人のために動くのが、俺の正義だ」
グリースは無事に帝国を脱出する事に成功した。そして、彼らは三大国の最後の一つ『聖国』に向かう。
雲の子を散らすハサミを持ったテディベア




