35魔術師ウーデット
登場人物
ウル(主人公)狼に転生し、レンディールの僕となる。(★3シルバーウルフ)
レンディール 人間のモンスター使い。俺のご主人様。
リーザ レンディールの仲間モンスター。(★2イーグル)
ガルガン レンディールの仲間モンスター。(★2サーベルタイガー)
パワー ウルの仲間モンスター。(★3ポールベア)
朝になり、俺はセンターで目が覚めた。
今朝はパワーがいない。
船で虎島に戻るにしても明日からになる。
アムルさんから報酬は貰ったものの、まだ懐に余裕があるとは言えないので、俺達は今朝も依頼を探しに行くことにした。
朝なので、護衛の依頼がちらほら見かけるが、馬島北町や馬島南町行きで、俺達が受けられるようなものはない。
日付が今日で護衛以外の依頼を当たってみよう。
1件目
モンスター使いステッド登録番号3810
仲間のグリーンドラゴンが攫われたため探しだし救出する手伝いをお願いしたい。
無事救出できたら全員で3000ジュエル。
救出の手掛かりが掴めたら全員で1000ジュエル。
★3グリーンドラゴンかあ。
モンスター使いだから契約しているはずだよなあ。
他人のモンスターを攫って何をするんだろう。
とりあえず、話を聞いてみないと何とも判断できないが、1日で終えるのは難しそう。
2件目
メディカル医院代表メディ
医院のシルバーウルフが行方不明になったので探してほしい。
無事見つけてくれたら2500ジュエル支払います。
何と言うか、モンスターがいなくなったという依頼がやたら多いな。
昨日もダイアウルフがいなくなっていたし。
何か関係があるのだろうか?
成功報酬だし、1日で解決できない可能性が高いな。
護衛以外は2件だけか。
まだ、早朝だしこんなものかもしれない。
昨日の依頼はと。
マーチャ商会の依頼は受けている人がいる。引き受けた人の名前が書いてある。
魔術師ウーデットの依頼は2人も受けてから断っている。余程厄介な依頼だったのだろう。
同じ依頼を複数のモンスター使いが受けてバッティングしないよう、受ける依頼には登録番号と名前を書いてその旨を示すことになっている。
そして、話を聞いて断った時にはその記入を横線で消すことになっている。
これにより、マーチャ商会の依頼は他のモンスター使いが引き受け中、魔術師ウーデットの依頼は2人のモンスター使いが話を聞いて断ったということが分かるのだ。
まだ朝早いから依頼の中心は護衛だよなあ。
それ以外は、上の2件と昨日の魔術師の依頼だけか。
ステッドさんの依頼は受けたら一緒に行動することになるだろうから、ダブルで受けるのは難しいよなあ。
魔術師の依頼は2人も断ったことからも厄介そうだが、ただの実験の助手で必須能力に目途が着くなら美味しそうに見えるんだけどなあ。正直、いなくなったモンスター探しはそれだけで受けるには、どちらもあまり美味しく見えない。
「ご主人様、2人も断っているみたいですけど、一応魔術師の依頼の話を聞きに行ってみませんか?」
他の依頼があまり美味しくないこともあり、魔術師の依頼は実は能力的な問題か何かで実は美味しい依頼かもしれないと言う、かすかな期待も込めて言ってみた。
「そうねえ。出来そうかどうか話を聞くだけ聞いてみてもいいわね。捜索依頼はあまり美味しそうに見えないのよね。」
どうやら、ご主人様も俺とほぼ同じ考えみたいだ。
俺達は、依頼書にある魔術師の家を訪ねた。
ご主人様は魔術師ウーデットの家の呼び鈴を鳴らす。中から長いひげの魔術師が出てきた。
「モンスターセンターから派遣されたレンディールです。依頼を受けるためにやってきました。」
ご主人様が言う。さしあたり、2人も断った理由が分かるといいのだが。
「おお、来てくれたか。お前さんは話だけ聞いて断ったりせんじゃろうなあ。」
「それは、内容次第です。実験の助手とのことですが、言葉が話せないモンスターでも可能ですか?」
ご主人様がしっかり釘を刺している。
「ワシの話が理解できるほどの知恵があれば大丈夫じゃろう。」
よし、俺にもできるみたいだ。
「それで、何の実験ですか?」
ご主人様が内容を突っ込んでいく。
「実はの、師匠の遺産の中から目的の魔法の品を探したいのじゃ。」
それが実験?
依頼内容は魔法の品探しじゃないの?
「依頼内容は、魔法の品探しですね。無事見つけたら5000ジュエルと言うことですか?」
もし本当ならすごく美味しい依頼だ。2人も断るとは思えない。何かあるな。
「そうじゃ。
じゃが、結構厄介なことになっていてな。
同じような品が大量にあってどれが目的の品なのかが分からないのじゃ。
最初は1つ1つワシが魔力を当てて調べておったが埒が明かなくての。助手を頼んで代わりに見つけてもらうことにしたのじゃ。」
魔法の品に魔力を当てるとか危なくないのだろうか?
「魔法の品に下手に魔力を当てるのは危ないかと思いますが。」
ご主人様も俺と同じことを思っていたみたいだ。
「大丈夫じゃ、面倒くさいが安全な方法が分かっておる。やってもらうのはその方法じゃ。」
なんだ、多少面倒でも安全な方法があるなら問題ないな。人海戦術で片づければ問題ない。
「で、その安全な方法とは?」
「この水晶に手を当てて心の中で『おお愛しのジュリエッタよ。我が想いを受け止めてくれ。』と願ってからその水晶に口づけをするのじゃ。もし、目的の品であれば水晶が光り輝くはずじゃ。ちなみに、ジュリエッタのところは自分の好きな人物に置きかえて願ってみてくれ。」
ご主人様が絶句する。
横を見ると、同じような水晶玉が1000個ぐらいある。
前に来た人も、恥ずかしいことをやらされることが分かって断ったんだな。
「ご主人様。これなら危険もないですし、人海戦術で片づければ5000ジュエル貰えますよね。
これなら俺にもできそうですし、やりませんか?」
とりあえず、前に来た2人が断った理由は分かった。
人海戦術でできるなら、捜索よりも時間が読めるだろう。
ちょっと恥ずかしいことさせられる分、報酬が高いと考えれば悪くはないと思って言ってみた。
「ウル、本当に受ける気なのね。
私は断ろうかと思ったけど、ウルが受けると言うなら、私も頑張ってみるわ。」
ご主人様を引き込んじゃったかな。
だけど、捜索よりは絶対美味しい依頼だと思う。
とは言え、できるのは俺とご主人様だけだろうから、リーザとガルガンは横で見ていてもらう。
さて、はじめるか。
ジュリエッタのところはご主人様にしておこう。ずっと一緒に冒険したいからな。
おお愛しのご主人様。我が想いを受け止めてくれ。
俺はそう強く願って、水晶に口づけした。
すると、「ブッブー残念。」という声がして水晶は光を失い黒くなってしまった。
なんだこれ?
イラっとする。
「ほう、こちらのシルバーウルフは魔力を扱うのに慣れておるみたいじゃのう。」
魔術師は俺がしっかりと仕事をこなすことが分かって満足そうだ。
ご主人様もやってみるが、水晶は反応がない。
「反応しない水晶もあるのでしょうか?」
ご主人様が聞くが、
「いや、強く願えば、全部シルバーウルフのやったように反応があるはずじゃ。
強く念じないとうまく反応しないから、難しいなら口で台詞を喋ってみるとうまくいくかもしれん。」
ご主人様が再び絶句する。
「ご主人様、少しずつでいいですから無理しないでください。最悪俺が片づけますから。」
とりあえず、フォロー入れておかないとご主人様が危ないかも。
「ウル、私も頑張ってみるから1人にさせてね。」
ご主人様が水晶玉をいくつか持って、部屋の隅の方へ行ってしまった。
とりあえず、ご主人様に無理をさせてもいけないし、俺がある程度頑張らないとな。
俺は、次の水晶を片付けに行った。
とは言え、こんなのを1000個も作るこの人の師匠ってよっぽどの暇人だな。
さっさと片づけて5000ジュエル貰おうと思っていた俺の考えは甘かった。
早く進めようと思って中途半端な気持ちで水晶に口づけしても反応しないし、本当に集中して真剣に願って口づけするとブッブー、ざんねーん。と馬鹿にされるような台詞が返ってくるし、これは精神的にかなり来るわ。
確かに依頼書通り危険はないけど、ひたすらこんなこと続けると思うと気が狂いそうだ。
報酬が破格だったからやろうと思ったが、断った2人が正解に思えてきた。
ご主人様を変なことに巻き込んでしまったかなあ。
ちょっと一息入れてご主人様の方を見ると、終わった水晶がいくつも積んである。
ご主人様も無事進めているんだな。
ご主人様だけにやらせるわけにはいかないので、俺も続けるか。
全体の4割ほど終わらせたところで結構な時間になった。
これなら、あと1日半で終われるな。
そろそろパワーを迎えに行かないといけない。
魔術師に続きはまた明日と言って、俺達はセンターに戻った。
俺達は、ブランカの部屋に案内されるとパワーとブランカが待っている。
今は2匹で部屋でくつろいでいたようだ。
「パワー、迎えに来たぞ。」
と俺が言うと、
「ブランカ、迎えが来たから俺様は帰るぜ。」
パワーがいつの間にかコーチのことをブランカと名前で呼んでいる。
「また、来てね。」
ブランカはまたウィンクしてパワーを見送ってくれた。
ご主人様は今日は何かあっても行けないということで、センターに宿泊予約を入れていた。
それで、今日もセンターに泊まることになった。
「1日で結構仲良くなったみたいじゃないか。」
俺は、部屋に戻るとパワーに話しかける。
「まあな、ブランカ、結構可愛かったぜ。」
「俺から見た印象は、結構やり手っぽいから何かされないかちょっと心配だった。
変なことされなかったか?」
「普通に交尾しただけだぜ。ブランカがもっとって言うから3回やったけどな。」
2匹で結構頑張ったらしい。
「パワーはブランカ一筋なのか?」
「いや、俺様は雌に求められればどこへでも行くぜ。」
そうですか。
まあ、ポールベアは強い雄が多くの雌に交尾して回る実質一夫多妻制だから、パワーの考えは普通だよな。
「こっちは、今厄介な依頼を受けていてな。人手が欲しいのに、俺とご主人様しかできないからなかなか進まない。
明日からも続きがあると思うと憂鬱でな。」
「ウル様、変な依頼でも受けたのか?」
ギクッ。その通りなのだけど、言いにくい。
「まあな。危険がなくて数をこなせば確実に終わると思って受けてみたけど、結構厄介だった。」
俺は依頼の内容についてパワーに話す。
「なんだ。おお、いとしのブランカ。俺様の想いを受け止めてくれ。と願うだけだろ。簡単じゃねえか。
俺様も手伝ってやるぜ。」
パワーのお相手はコーチのブランカですか。今日交尾した仲だしなあ。
まあ、パワーが少しでも手伝ってくれるならありがたい。
次の日、パワーを連れて魔術師の家に行く。
パワーもやり方を聞いてやってみるが、一発で「ブッブー、残念」と言う声がした。
それどころか、2つ目3つ目をあっという間に片づける。早い。
「パワー、凄いわ。パワーが手伝ってくれたら早く終われそうね。」
ご主人様も驚いている。
本当に好きな恋人がいるのは強いということだろうか。
「ウル様、こんなのにてこずってたのか。簡単だぞ。」
パワーにそう言われて俺はちょっとむっとした。
俺だって負けないぞ。
俺はパワーに感化されて急ぐが、やはり昨日並みのペースにしかならない。
それどころか途中で精神的に病んでくる。
俺は、これが終われば5000ジュエルという思いを唯一の心の支えにして、ひたすら作業を続けた。
今日はパワーの加勢が思いのほか大きく、午後のまだ日が明るいうちに終わりが見えてきた。
よし、最後の1個だ。ブッブー、ざんねーん。と言われる。でもこれが最後だと思うと怒る気にもならない。
いや、ちょっと待て。全部終わったのに、目的の物が見つかっていないぞ。
ご主人様も同じ疑問を持ったのか、魔術師に聞く。
「そちらにはなかったのか。じゃあ、こちらかのう。」
そう言うと、魔術師は、別の箱を持ってくる。箱の中には今までと同じような水晶玉がびっしり入っている。
それを見た瞬間、俺とご主人様は脱力してその場にへたり込んだ。
「今までの1000個くらいで全部じゃないのですか?」
ご主人様が抗議するが、魔術師もあれが全部だとは言ってないと返される。
確かに、あれで全部とは聞いてない。聞きたく無かったから聞かなかったとも言えるが。
俺はげんなりしながら、ご主人様と顔を見合わせる。
「ウル様、ご主人様、この程度でへばってちゃ、依頼を終わらせられねえぜ。」
今日のパワーはとても頼もしく感じる。
とは言え、全部でどれだけあるのかだけは先にはっきりさせておきたい。同じ失敗を繰り返すわけにいかないしな。
俺はご主人様に聞いてもらって、次の箱で終了と言うことを確認した。
ある意味半分は終わったわけだ。パワーもいることだし、あと1日もあれば終わるだろう。
追加で1日1人100ジュエルの報酬もあったから、明日終われば5800ジュエルの報酬貰えるかも確認した。
追加が800ジュエルなのは1日目は俺とご主人様の2人匹、2・3日目はパワーを入れて3人匹。延べ8人日の作業をするからだ。
それについても魔術師から了解がもらえたので、俺達は作業を続けることにした。
その日の夕方までに箱の内の300個近くが終われた。残り700個余りで完了するはず。明日には終わるだろう。
ご主人様は疲れたので今夜もセンターに泊まるという。
まあ、5800ジュエルの報酬が約束されているし、俺も今日くらいはゆっくりと休みたいと思って同意した。
翌日、残りの水晶玉を片付けに行く。
朝、俺が作業を続けていると、1時間もたたずして当たりの水晶玉を見つけた。
今までのと同じように、おお愛しのご主人様。我が想いを受け止めてくれ。と真剣に願って水晶玉に口づけをすると、水晶玉が光り出したのだ。やったぜ。これで終わりだな。疲れた。俺はそう思った。
そうすると、後ろで作業をしていたご主人様が「私もよ。」と言って、俺の方にやってきて俺を抱きしめると、俺に口づけしようとしてくる。
ちょっと待て、ご主人様どうしたんだ?
ひょっとして、なんだ。当たりの水晶玉には魅了か何かの効果があるのか。
「クリアランス」
俺はご主人様に技を放った。状態異常から回復させる技だ。魅了にも効くはず。
ご主人様がきょとんとして、俺を見る。自分は何をしていたんだろうという顔をしている。
「なんと、お前さんはクリアランスが使えるのかい。わしが魅了を解除する手間が省けたのう。それにしても、お前さん、モンスター使いのことが好きだったんじゃのう。」
魔術師にそう言われ、ずっとご主人様が好きだと願いながら水晶玉に祈ってたことがバレて、俺は恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
「ウル様、ウル様、俺もウル様のことが大好きだぜ。」
パワーが俺の心を察して慰めてくれる。ありがとう。おかげで、気持ちが少し楽になったよ。
「ウル、私もウルのこと大事に思ってますよ。ずっと一緒にいましょうね。」
ご主人様も状況を把握してフォローしてくれる。
俺はなんとか恥ずかしいショックから立ち直ることができた。
ただ、このことで俺には新たな疑問が湧いてきた。
ところで、この見つけた水晶玉をどうするの?
報酬を貰った後、ご主人様を通じて魔術師に聞いてみた。
「いや、これを高値で売ってほしいという商人がいてのう。」
それっ、絶対危険だって。碌でもないことに使われると断言できる。
「でも、これを売らないと5000ジュエルも出すの難しいからのう。」
うっ、それを言われると反論できない。
「それに、研究費も色々かかるからそれも併せて捻出したいしのう。」
どうせ、最初からそのつもりだったんでしょ。
俺はご主人様に伝言をゲームしてもらって魔術師に事情を聞いてみたが、事件が起こりそうな匂いがプンプンする。
「ご主人様、この人が誰かに水晶玉を売って問題が起こっても、俺達は関係ないですよね?」
俺は、ご主人様に確認を取る。
「それは、分かっていて売ったウーデットさんの責任になるわねえ。」
ご主人様もそう答える。
「なら、ウーデットさんに忠告だけして報酬を貰って帰りましょう。」
「もし、水晶玉が悪用されて問題が起こったらあなたの責任問題になりますよ。
それだけは分かった上で売ってくださいね。」
ご主人様はそう忠告すると、約束の5800ジュエルを貰い、俺達は魔術師の家を後にした。




