ある日の████ 17
サフラン色の栄光のおまけ集、その3。
ある日の████です。
これは魔族側のおまけ回です。
魔族はただ、悪の側にいただけなのか?
その答えがわかるかもしれません。
夢を見た。
遠い昔の夢だ。
毎日毎日、血を浴びていた。
地下牢の隣に備え付けられた小さな闘技場は、館の主人の研究と少しばかりの享楽のためにあった。
奴隷同士を戦わせ、生き残った方には地下牢ではなく別の部屋を褒美にくれてやる。
というくだらない話に、奴隷達は必死になっていたか。
ここの主人は死霊術の研究材料として安く買えるからと男の奴隷を好んで買う傾向がある。
が、私の母親は別だったらしい。
人間界で死霊術の成果を試すという用事があり、試した村で偶然生き残った人間の女を気まぐれで連れて帰ったのが私の母だと聞かされた。
まあ姿は見たことないが、使用人さえ男ばかりのこの館内で艶かしい女の声を聞いたことがあるから、多分それが私の母親なんだろうな。
私は物心がつくような歳になる少し前から、人間の殺し方を否応無しに学ばせられた。
母親に似てきっと剣が上手いだろうから、という理由だけでだ。
だから毎日死にかけるまで稽古をつけられた。
今では闘技場で負け無し、放り込まれた奴隷を殺すだけの日々だ。
別に優遇されてたわけじゃない。
与えられた部屋は雨風を凌げるような場所じゃなく、恐らく馬小屋の方がまだ立派なところ。
つまり、屋敷内の庭を棲家として与えられたわけだ。
手で土を掘って、それを積み上げて壁にして、とりあえず寒いけど何も無いよりはマシな場所を寝床にしていた。
食事も、あったり無かったり。
あるときは大体、主人の食べ残しか料理に使われなかった生ゴミが一口二口ある程度だったが。
そして私が人間の年齢で9になったあたり。
深夜に貴重な睡眠が邪魔された。
何かの肉塊が転がってきたんだ。
それは何で叩き潰せばそうなるのか分からないくらい、ぐちゃぐちゃになった人間の体だった。
「お前の母親ももう歳なのかもなぁ。この程度で死んで、術式にも合わんなんぞ楽しみようがない。明日から毎夜私の部屋に来るように」
吐き捨てながら館に戻っていく主人の背を見送ってから、転がされたそれを見る。
はぁ、これが私の母親?
よくよく見れば、何となくどう殺されたのかは推測がついた。
恐らくだが顔は拳で潰されたな。
体の方は分からないが、擦り傷が多いから鞭も打たれたんだろう。
そして憶測に過ぎないが、金砕棒のようなもので滅茶苦茶に叩かれてこうなったんだろうな。
死霊術の術痕があるから、死んだ後研究素材にしようとして失敗したのか。
これと同じことをされて生きていられる自信はないが、とりあえず自分を産んだという人間を土に埋めて葬ってやった。
勿論一晩で手掘りなんて出来やしないので、寝床を崩す羽目になったが。
それから毎夜主人の部屋に招かれては、色毎に使われた。
痛くて泣いたのは初めてだった。
でもそれも、一年も経てば慣れるものだ。
鳴かないメスは面白くないとか言って、鞭打たれたりするようになったのもこの頃。
後、お気に入りの奴隷が出てきたのもこの頃か。
館内の掃除中、ぶつくさと研究結果に文句を言うのを、後ろについて回りながら聞かされてる奴隷の男の子を見た。
歳は自分と同じくらいだ。
私はそろそろ毎日に嫌気がさしてきて、理不尽に連れ去られて理不尽に殺されて理不尽に捨てられる奴隷達を不憫に思うようになった。
それからか、庭にあった石に自分が殺した奴隷の名前を書いて庭の隅に並べ始めたのは。
今日は寝覚めが悪いな。
ミュイールにお茶を淹れてもらおう。
とうとうイレディアの過去が語られ始めました。
それも、ミュイールと同じ夢を見るという形で。
ここで一つ明かすと、ミュイールが過去の夢を見たのは単に過去視の能力が無意識に使われたからでした。
ではイレディアの場合は?
イレディアの場合は、死を覚悟したその時から。
つまりルーヴェリアと刺し違える数日前から走馬灯を見ていたんです。
これまで語ってきた七星の回想も、一部はイレディアが走馬灯として見たかつての光景です。




