ある日の████ 3
サフラン色の栄光のおまけ集、その3。
ある日の████です。
これは魔族側のおまけ回です。
魔族はただ、悪の側にいただけなのか?
その答えがわかるかもしれません。
夢を見た。
遠い昔の夢だ。
日が昇ればひたすら草をむしって、夜になれば父親だと言い聞かされた男に体を弄ばれる。
ただただ男という生き物へ嫌悪感を募らせて、ただ他人という存在に疑念を抱き、その日を生きて終えてを繰り返す。
お母さんもこんな感じだったのかな。
明かりも差し込まない部屋の隅に置かれたそれを見る。
骨に申し訳程度の薄布を引っ掛けただけの置物。
自分もいつかああなるんだろう。
いいように使われて、打ち捨てられて朽ちるだけ。
だと思っていた。
暫く姿を見かけなくなったレオがやってきた。
変わり果てた私の姿を見て酷く驚いたみたいだったけど、私はそんなことどうでもよくて。
話しかけられても無視をして草をむしり続けた。
そして彼が館内に姿を消して、戻ってきた時。
私の目の前に彼が寝転がってきた。
正確には、頭だけが転がってきた。
屈託なく笑いかけてくれた顔はぐちゃぐちゃに潰されていて、外の世界の話を聞かせてくれた口は歪んで折れた歯を覗かせていた。
そこへ"旦那様"がやってきた。
お前を引き取ると言ってきたよ。
たかが弱小貴族の分際で私からお前を買い取ろうとしたそうだ。
随分気に入られていたじゃないか、母親に似て色仕掛けが得意ときたか。
毎晩可愛がってやってるというのに、あれだけでは満足出来ないと……
話し声が遠ざかり、心音が一定のリズムを刻む音が耳の奥で響く。
錆び付いた歯車が軋みながら回っている。
くるくる、くるくる。
一定の速度を保っている?
でもそれはだんだん加速していく。
くるくる、くるくる。
目の前の男が何やら叫び声をあげているように見えるが、何も聞こえないから挙動不審なだけだ。
くるくる、くるくる。
館内から時を告げる鐘が鳴る。
同時に、目の前の不審者の体が一気に縮んで破裂した。
心地の良い乾いた音と、生々しい粘り気を帯びた音が同時に鳴ってくすぐったかった。
歯車の音が止んだ。
食事の時間を告げる音が鳴っていたので、パンをもらいに食堂へ行く。
が、館内は赤い液体が撒き散らされているだけで人っ子一人いなかった。
これは運がいい、美味しい食事を独り占めできる。
ああ、うん。
ここからは結構楽しい日々が続いたな。
今日は少しだけ気分がいいかもしれない。
はい、領主死にました。お疲れ様です。
レオという、本当にほんの少しだけ希望を抱けていた人物の死が引き金になり、ミュイールの魔族としての力が覚醒した瞬間でした。
何が起きたかというと、世界を流れている時間という概念が、壊れた心を修復しようとする力と融合し、奇跡に近い確率で時間、次元、時空を操る能力を手に入れてしまったんですね(?)
そして、目の前に立っている領主も、奴隷だからと蔑んできた館の魔族も、それらに付き従うだけの街の魔族も、ミュイールからすれば全てが敵であり、殺害対象となったわけです。
無意識のうちにミュイールは、その全ての殺害対象の時間を遡行させました。
ヒトで説明すると、体がどんどん若返り、幼くなり、最終的には胎児の姿になり、心臓だけになり、遡行に抗おうとする本人の抑止力が原因で心臓が破裂する感じです。
深海魚を釣ると内臓が飛び出るって聞きますよね。
深海魚は、深海の強い水圧に対抗するため、ガスを発生させています。
それが釣り上げられて周囲の水圧が変化し、ガスのせいで異常に膨張した胃が口から出てくるというあれです。
本来生き物は、生まれてから死ぬまで、未来に向かって進んでいます。
この未来に向かっていく、という現象が水圧であり、ガスでもあるんです。
遡行させることは未来に向かって進む力の真逆のため、水圧が変わり、膨張し、耐えきれず破裂する。
これがミュイールが無意識下で最初に使った時間魔法というわけです。
対抗できるわけがないですね、ご愁傷さまでした。




