91.魔女への依頼は悪魔祓い3
「ちょっとあんた!」
マルグリットは、メリッサが連れてきた人物をみて唖然とした。
「久しぶりだなマダム」
黒髪に深紅の瞳の青年の姿を見て、歴戦の占い師は、すぐにそれが誰かに気が付いた。
「あんた。どういうことよ。どうしてその子と一緒にいるんだい」
女店主は警戒するように、セスランを睨みつけた。
「マルグリット!色々あって、ルビーお姉さまと再開したの。ほら魔塔の凄腕魔法術師に依頼を相談するって言ったでしょ」
不穏な空気に慌ててメリッサが割って入って説明する。
「ルビーだってちゃんと知ってるんだね」
「知ってるよ」
マルグリットは、メリッサからセスランに視線を移した。
「それなら入りな」
営業時間中だったので、二人は鑑定室に通された。
「メリッサ。二階に行ってリリカに店番を変わるように伝えてきてもらえるかい?ついでに屋上の洗濯物を取り込んできておくれ」
「うん、わかった」
勝手知ったるメリッサは、二つ返事で二階に行った。その場に残る二人の空気になど、一切気づかずに。
「――それであんた。今頃あの子と一緒に現れるなんて、どういうことだい」
メリッサがいなくなって、マルグリットはセスランを凄む目で見つめた。
「彼女がいう通り、魔塔の魔法術師で護衛だ」
セスランは一切の感情の起伏もなく、ただ事実を答えた。
「そういう肩書とかじゃないんだよ、聞いてるのは」
マルグリットは二年前の事件が起こる以前から、三賢者の影たちに情報を提供する協力者だった。
それゆえに、二年前の事件の時に現れた彼にも協力していたのだ。
凄みと貫禄のある女主人は、あの時を思い出して憂うように言った。
「ルビーにも言ったじゃないかい。深入りするなって」
「覚えている。だがその通りには出来ない」
深紅の瞳は、ルビーだった時と変わらない。占い師のマルグリットにだからこそわかる、どんな客も持ち合わせない、超然とした空気を纏ってセスランはきっぱりと言った。
「あんた達の関係は複雑だろうよ、私にはそう視える。過去からの関係を引きずってる人間は沢山いるけど、あんた達は特に繋がりが強い」
「流石はマダムだな」
「何年も占い師をやってると、カードをめくらなくても視えてくるさ」
周囲から隠されて育ってきたメリッサは、警戒心が強くて心を開くまで時間のかかる子だった。それがルビーにはひどく懐いていて驚いたものだった。
「あんたは誰をあの子に重ねてるんだい?あの子は誰かの代わりじゃない。過去の繋がりがあっても、今を生きるようにしないといけないんだよ」
マルグリットが憂うのは、奇異な娘を取り巻く運命と、この青年が抱える闇だった。
「他の誰でもない彼女自身だよマダム。俺が求める唯一の存在だ」
切望してやまないもの。それを守るためだけに今も存在する。
「二年前、ここで彼女を見つけた時、マダムがいてくれてよかった。本当はすぐに彼女を連れ去ってしまいたいたかったんだ。貴方の牽制はよく効いたよ。おかげで今を生きてる彼女の大切な日常を奪わずに済んだ」」
セスランは穏やかに、微笑みを見せた。
「‥‥‥あんた‥‥‥!」
マルグリットは、急にびりびりと足裏から振動が全身を駆け巡ってきて、不思議な感覚に包まれた。
そして光が見えた瞬間、息をのんだ。
脳裏に浮かぶその姿は、美しい清廉な存在。
「‥‥‥あの子は知らないんだね」
「ああ。マダムの言う通り、彼女は今を生きているからな。俺の過去が何だろうと知る必要はない。だからこそ俺は今の彼女の信頼を得るために努力しているところだ」
「まったく。厄介な男に付きまとわれてるんだね、あの子は」
ため息交じりにマルグリットはボヤいたが、メリッサが拒絶するどころか自然体で受け入れているのには気づいていた。きっと眼鏡が必要なくなったのも、この青年が関わっているのだろう。
タンタンタンタン!
階段を下りてくる足音が鳴った。
「マルグリット。リリカお姉さまに店番頼んできたよ。洗濯物も取り込んで来た」
メリッサが鑑定室に顔を出す。
「ああ、ありがとう」
マルグリットは何事もなかったかのように振り向いた。
そして、先ほどまでの超然とした空気は一切なくなり、穏やかな魔法術師がそこにいるだけだった。
◇◇◇
「セスも一緒に行っていいなら、依頼を受けるよ」
メリッサは一人では悪魔祓いはやはり無理だと、素直にマルグリットに言った。その代わり、凄腕の助っ人を連れてきたのだ。
「先方に聞いてみるわ」
「それから、師匠が見つかるまで、魔女への依頼はストップしてほしいのだけど」
「わかったわ。私も言おうと思ってたところだよ。芙蓉がいなんじゃ、どうしても限界があるし、厄介事をあんたに回すのも悪いしね」
マルグリットの本音は、メリッサにいつのまにかセスランが付いていると知っては、下手な依頼は運命を引き寄せるから頼めやしない、だった。
コンコン!
扉をノックする音に、マルグリットは振り向いた。
「なんだい?」
「マルグリットにお客様よ」
扉越しにリリカはが言った。
わざわざリリカが呼びに来たということは、すぐに対応が必要な客が来たということだ。
「悪いわね少し待ってて」
マルグリットが出ていくと、バタバタとすぐに鑑定室に戻ってきた。
「あんたたち。依頼人が経った今。来たわ!」
「――え?」
驚くメリッサの隣で、セスランはこうなる気がしていた。メリッサの引きの強さは侮れない。




