83.猫のために2
82.猫のために1が長かったので、分割しました。83.猫のために2は1の内容とほぼ同じです。すでに読まれた読者さまご了承ください<(_ _)>
メリッサの魔力も回復し、ファーレの所へ行くこととなった。
白猫はこれからどこかへ連れて行かれると理解して、母猫と別れのを惜しむように母猫のお腹に頭を突っ込んでスリスリしている。
「連れて行くのが心苦しいですね」
「産まれたばかりだからな」
セスランによって猫の親子に守護と結界魔法がかけらた。
猫の親子が他の動物に襲われないようにしておく。
「行きますよ」
ラファエルは白猫の首を咥えて母猫から引き剥がし、メリッサの持つ布に置いた。
「可愛い」
布で包まれた猫の、小ささと暖かさに胸が切なくなる。
「必ず、いい飼い主を見つけるね」
母猫が少しでも安心するように、メリッサは約束した。
「立てるか」
「はい」
魔力を分けてもらったおかげで、疲労はあるものの動けるようになった。セスランに手を引かれて立ち上がる。
こんなにも、他人の魔力が馴染むものかと不思議に思う。魔力を分けてもらうのは二回目だが、水を飲むのと同じように違和感なくスッと入ってくる。
魔力の受け渡しは緊急事態の時の最後の手段くらいに思えと師匠は言っていた。学園でも基本は魔力を限界まで使わないことを前提にして魔法を使うように教わる。魔力の受け渡しは、質と量と相性が揃って、さらに同調できて初めて可能になる。
メリッサのように魔力が枯渇して危険な状態な訳でもなく、限界の三歩手前のヘトヘトな状態で簡単に魔力が分けられた。
「セスはどうしてそう簡単に魔力を分けられるんですか?普通は難しいことだと教わりました」
メリッサの零した素朴な疑問に、セスランは笑みをこぼして答えた。
「君が猫の魔力を流したのと同じだ。心から助けたいと思えばできる」
「思えばできる・・・・・・。そうですね魔法は思いを形にするものですよね」
大切なのは相手を思いやること。
それなら、相手によってはできそうな気もする。誰にでもやってあげようと思うほど善人ではないとメリッサは自覚している。
「セスありがとうございます」
「どういたしまして」
ほのぼのと簡単そうに話している二人を見上げて、ラファエルは溜息をつく。
「‥‥‥普通はそう簡単に出来ませんよ」
相手の魔力に同調して、同化させるのはとても繊細で難しいのだ。
ついさっき白猫の魔力を流したのもそうだ。メリッサは無自覚にやっているが、魔塔にいる魔法術師のどれだけの人間が出来るだろうか。
黒猫は、主のせいでメリッサの魔法に対する認識が、ゆがめられるんじゃないかと密かに心配になった。
◇◇◇
「待ってたぞ!」
扉を開けると、夜更けだというのにファーレは溌剌溌剌として訪問者を出迎えた。
メリッサが持っている白い布を凝視して、待ちきれんとばかりに駆け寄ってきた。
「生まれたか!」
「はい。元気な子ですよ」
ファーレはメリッサから布にくるまれた猫を受け取った。壊れ物を抱くようにして、布の中を覗き込んだ。
「っ‥‥‥!」
ファーレの目が大きく見開かれ、息をのんだ。
「さいっこうに!可愛いぞ!!!!」
部屋中にその声が響いた。
小さな白猫に頬ずりしているファーレの目にはハートが浮かんでいる。
普段の彼女を知るものが見たら、間違いなく引く。
「ファーレってお気に入りに対して、たまにスイッチ入るんですよね」
「まさかの猫派だったのか」
「僕は全然可愛がられませんでしたけど」
もはや、この場にいる二人と一匹は無視されている。セスランと黒猫に至っては、扉を開けた時から存在しない者扱いだった。
「この子は私が育てるから、もういいぞ。お前らは帰れ」
ファーレは目も合わせずに、しっしと手を振ってメリッサ達を邪魔者扱いする。
「猫は育ての親をよく見てますよ」
メリッサはファーレに、食堂でもらった猫用ミルクの入ったカゴを渡した。
「お前の育ての親は誰だ?ちゃんと育っただろう?」
「ファーレだけじゃないから。ちゃんと育てたのは別の人で、あなたは悪いお手本だよ」
「そうやって言い返せるように、強く育ててやったんだ」
上機嫌のファーレはニヤリとメリッサに視線を送って、すぐに白猫に頬ずりを再開した。
「残念な育ての親ですよ。帰りましょう」
「ああ帰れ!今すぐ帰れ!」
メリッサにとってはいちいち面倒くさい相手だが、ファーレなら白猫を大切に育てるだろう。育ての親としては魔力で猫に負けることは絶対にない。
「ファーレ。その白猫は、ラファエルの見立てでは人型になれるそうだ」
「は?」
メリッサとファーレのやりとりがひと段落するのを待って、セスランは忘れずに大事なことを伝えた。
「ホントか?」
今まで無視していたくせに、セスランの方をやっと向いて睨みつけた。
それからゆっくりと、ファーレの期待に満ちた目が、ラファエルに向けられた。
「間違いなく、人型になれる聖獣ですよ」
ファーレは目をつぶって天を仰いだ。
「‥‥‥神よ!」
「もう帰りましょう。飼い主も決まったし、面倒くさくなってきました」
「そうしよう」
「はい」
ファーレはあれだけ喜んでいるし、すでに親バカ溺愛も始まっている。少し性格に難はあるが、いい飼い主に引き渡せて、メリッサは肩の荷が下りた気分だった。
メリッサが扉を閉めようとする寸前、おい!と呼び止められた。
「聖獣が産まれたこと、名づけをするまで誰にも言うなよ!魔塔の連中が騒ぎだすと面倒だ」
「言わないから!じゃーね。おやすみ!」
メリッサは、回れ右してバタンと扉を閉めた。
三賢者の部屋の外の廊下は、静かだった。思わずメリッサは、はあっと息を吐いた。
「ほほえましいな」
「どこがですか?」
メリッサのファーレに対する気安い返事に、セスランは思わず笑いをこぼした。
当のメリッサは、心外だと言いたげに問い返す。
「素が出ていた」
「え?」
素が出ていたと言われれば、思わずドキリとする。
「俺にもああやって、気安くして欲しいものだな」
「気安く?」
ファーレとの事を思い返すが、どこをどうしろと言うのだろうか。
「部屋まで送っても?」
セスランは手を差し出した。転移魔法で送ってくれるつもりらしい。
「お願いします」
メリッサはお言葉に甘える事にした。
魔力を少し分けてもらったが、二時間魔力を流していた分の疲労はしっかりある。本当はものすごく眠たかった。
セスランと手を繋いだ瞬間、一瞬で宿舎の中に転移した。
見慣れた部屋の景色。月の薄明りが窓から差し込んでいる。
「ありがとうございます‥‥‥?」
セスランが何か期待するように、見つめてくる。繋いだままの手に力がこもる。
「俺にも、ファーレにしたように言ってほしい」
「ファーレに?」
メリッサは何のことだろうと思いを巡らせる。
「俺はもう帰る」
彼のヒントを与えるような言い方で、メリッサに答えが閃いた。
「わかりましたよ」
「答えは?」
二人は微笑み合う。
「セス、おやすみなさい」
「おやすみ、メリッサ」
嬉しそうに目を細めて、セスランは転移魔法を使って消えた。
メリッサはベッドに倒れこんだ。
繋いでいた手を、じっと見る。
おやすみなさいの、その一言が暖かかった。
タイトル変更しました。内容は変わりません。これからもよろしくお願いします。




