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【第一部完結】 ブルーインフェルノメテオーラ 蒼い業火に焼かれた魔女は守護天使と転生する  作者: 暁月シナツ


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65.セスのお仕事。婚約回避と王女と護衛騎士団長

 メリッサは、エダンを観察した。

 見た目は真っ当な使用人だ。とても下法の魔法術師には見えない。けれど、魔物に繋がる魔力の糸は禍々しいく黒くドロドロしている。

 魔物の群れの中にいるこの男が、二年前に占いの館に来た殺人犯を生み出した張本人だ。

「アナベルにまで手を出すなんて許せない」 

「あの女のことまで知っているとはな。やはり監視されていたのか」

 エダンは顔を歪める。秘密裡に動いていたはずがすでに多くを知られている。もしかしたら手を組んでいた商人が情報を吐いたかもしれない。サファイアの娘が、王族とつながっているなど想定外だった。


「貴族の小僧らを返してほしければ、そのサファイアの娘をよこせ」

「これだけのことをしておいて。わたくしたち相手に取引をするつもり?」

 シャシャは不愉快だと、エダンを見下した。

 エダンは年若い王女の存在に、オルテンシア王国での行いがすでにバレていると察した。


「どうしてソルだけじゃなく、アナベルを連れて行ったの?」

「お前を連れて来させるためさ。魔物で街を襲えば魔塔の連中が出てくる。その隙に小僧とあの令嬢を操ってお前を連れ出す計画だった」

 エダンは饒舌に話し始め、蛇のような狡猾な表情に変わる。 


「デービス翁が言っていたサファイアが、そちらからやって来るなんてな。お前は影として王女に飼われているのか?それとも公爵が飼っているのか?」

「何ですって?!」

 シャシャは、謂れのない雑言に憤った。

「そう見えるのか?」

 冷たく見下ろすセスランの、その一言に威圧されたエダンは一瞬怯んで後ずさったが、気を取り直してしゃべり続ける。

「サファイアを連れ出したら、あの小僧と結婚させて伯爵家を操って、貴族相手に闇の仕事をするはずだった」

 エダンの考えていたことが、あまりにも身勝手でメリッサはぞっとした。


「前にここで見たときは、そうでもなかったが。近くで見ると美しいじゃないあか。小僧じゃなく俺のものにして、サファイアの能力を使ってやってもいいんだぞ」

「き、気持ち悪い」

「変態じみてるわ」

 メリッサは鳥肌が立った。シャシャも汚物を見るような目で引いている。

 よくしゃべる蛇のようなこの男。ろくでもないことを計画していたらしい。


「幻影草で作った精神操作の魔法だってわかってるから、あなたはわたしを支配することはできないよ」

「ふふっ。それを見抜いているといことは、お前の能力も本物ということか。だが、解呪はできまい」 

 それまでひたすらにしゃべり続けていたエダンが、不気味にニヤリと笑った。


 その時、やわやわと吹き続いていた夜風に乗って、ふわりとミントような香りがした。

「これは幻影草の香り!」

 香りを放つ黒いモヤに気づいたのと同時に、メリッサは軽くめまいがした。

 ぼやける視界の向こうで、エダンは魔物を残して走り去った。




 ◇◇◇



「メリッサ大丈夫か?」 

「わたしは大丈夫です。シャシャは?」

「大丈夫よ。ミントのような香りがしてめまいが少ししたけれど、このローブが守ってくれたみたい」


 シャシャはぶかぶかのローブをつまんで見せた。

 メリッサはルビーにもらったローブから、何かの防御魔法が発動したのを感じていた。今更ながら、すごい品物をもらったのだと気づく。

「香りが風に乗ってきたということは、どこかに仕込んでいたんだな。あの無駄口は時間稼ぎだったか」

「セスは大丈夫ですか?」

「あの程度は効かない。魔法でこのあたりの空気は散らして入れ替えた」

 彼は相変わらず、規格外の魔法を使う。


「わざと追わなかったんですか?」 

 メリッサはずっと気になっていた。彼ならエダンを捕まえるのも断罪するのも、すぐにでも出来てしまいそうなものなのに、そうしないでいる。

「こちらの計画的には、まだ捕まえるタイミングじゃないからな」

「計画?」

 


 ――バキバキバキ!!

 近くで木がなぎ倒される音がした。

「今度は何ですか?!」

 ギャーギャーと魔物の断末魔まで聞こえてくる。

「やっと来たな」

 先程から魔物の気配の数が減っていると、気づいていたけれど――。

 神殿の側を進行していた魔物が切り裂かれ、あっという間に一掃された。


「殿下!」

 そこに現われたのは、護衛騎士団長。

「マキシム!」 

 彼は神殿の石階段の下で、主に向かって跪いた。


「遅くなって申し訳ありません。殿下」

「いいえ。謝らなくてもいいわ」

 シャシャとマキシムはどことなく緊張しているようだった。

「メリッサ。エダンを追いかけよう。シャシャはもう俺たちが守らなくてもいい」

 そう言って、早々にセスランはその場を去ろうとする。


「閣下。お待ちください」

「なんだ」

 マキシムに呼び止められ、セスランは立ち止まった。

「殿下を危険にさらし、無礼を働いたこと許せません」

 マキシムはまったく隠す気もなく、怒りを向けてきた。跪いた姿勢から勢いよく立ち上がり、剣を振り上げた。


「マキシムやめて!」

 王女の抑制も聞かず、マキシムはセスランに本気で切りかかった。

 一太刀目を、セスランは半身でかわし、そのまま後退して広く間合いを取る。護衛騎団長が間違ってもシャシャやメリッサを切ることはないだろうが、二人から離れた場所へセスランは移動した。

 マキシムは構え直し、大きく踏み込んで二太刀目を振り上げた。

 その瞬間。二人の間にメリッサが飛び込んだ。


「セス!」


 マキシムは瞬間的に振り下ろした剣を寸止めし、同時にセスランが短剣で振り下ろされた剣の刃を止め、メリッサを後ろから抱き寄せた。

 メリッサの頭上で、ピタリと剣と短剣の刃がクロスして止まった。


「メリッサ!危ない真似をするな!」

「もう、切られるかと思ったわよ!」

「間合いにつっこむなんて死にたいのか!」 

 三人が次々にメリッサに心配と説教の言葉をかける。

 メリッサの心臓はバクバク音を立てていた。切られかけた恐怖と、セスランに抱き寄せられた驚きが混ざって苦しい。

 セスランはメリッサが止めに入らなくても、きっと無事だったはずだ。そう頭ではわかっているけれど――。

 メリッサはセスランの腕をそっと外し離れてから深呼吸して、マキシムの前に立ちはだかるように向かい合った。


「仕方がないじゃないですか。体が勝手に動いたんです。騎士様も怒りを納めてください。セスを切ったって何の足しにもなりません。むしろ騎士様のクビが飛びますよ」

「そんなことはわかっている。俺はひとりの男として許せなかったんだ」

 ここまで魔物を倒しつくしてきたであろう騎士は、ボロボロだったがその精悍な顔つきは、えらく男前度を増していた。


「それもそうですね」

 ちらりとシャシャを見ると、それは嬉しそうに、頬を赤くしている。

「安心してください。セスはお兄ちゃん属性なので、騎士様の敵にはなりません。むしろ相手にすらなりませんよ」

「は?」

 メリッサの言葉に、マキシムは剣を持つ手から力が抜けた。

「お兄ちゃん属性?」

 マキシムは、何かに気づき、少しだけ勝ち誇った顔をした。目の前に立つ魔女に並々ならぬ執着をみせている公爵が、どう思われているかがうかがい知れた。

 その彼は無感情に、ひたすらに遠い眼をしている。

 

 

「セス。エダンを追いかけましょう」

「わかった。神殿の中は安全だから二人で待っていろ。結界から出たら幻影草にやられるから、事が片付くまでここで待ってるんだ」

 さっきまで切りかかられたことなどなかったことかのように、セスランは淡々と指示を出す。


「セスランおにいさま。マキシムは‥‥‥」

 不安気なシャシャの言葉を遮るように、セスランは言った。

「聖都メテオーラを救った、魔物百体切りの英雄にはそれなりの褒美が必要になるはずだ」

「――まさか」

 シャシャはその美しい目を丸くした。同時にそれを聞いていたマキシムは唖然とする。煽られまくっていたのはこの為だったのかと。


「俺との婚約回避が成功してよかったな」

 僅かに微笑む彼のその言葉に、祝福も含まれることを理解したのはシャシャだけだった。

「断るつもりだったくせに」

「お互い様だ」

 シャシャは瞳をうるわせて冗談交じりに微笑む。愛想のない彼は護衛騎士の公爵に対する不敬など何もなかったと告げているのだ。その会話だけで二人には十分だった。


「メリッサ行こう」

「はい」

 メリッサは彼が神殿の外側から、幻影草の香りが入らないように特殊な結界を張っていることに気が付いていた。二人と別れても、大丈夫だろう。


「メリッサ、セスランおにいさま。ありがとう」

「魔女殿、気をつけるんだぞ」

 シャシャとマキシムに見送られ、二人はエダンを追いかけた。

1〜4話、読みやすくするためにリライト編集しました。

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