事件その3 備品盗難(14) 聞き取り②北條ー片桐
聞き取り開始の挨拶が終わって、生徒会室内に緊張が走る中、北條は落ち着いて室内の様子を見ていた。
先に梅里が小瀬に声を掛けて倉庫へと案内したのを見送り、その後土本が菅野を窓側の小部屋に案内したのを確認してから、北條はゆっくりと片桐の前に歩み寄っていく。
「では片桐先輩、聞き取りは私が担当させていただきます。廊下側の小部屋で聞き取りを行いますので、どうぞこちらへ」
微笑を浮かべた北條の手が示す先には、廊下側の小部屋がある。
「わかった」
片桐は表情を変えることなく立ち上がり、北條の後について小部屋に入った。
その様子を見ていた久保は、海野に向かって小声で話しかけた。
「会長も聞き取りされるんだね……でも、会長はこの件に関わってないはず、って話じゃなかったっけ?」
「事件の犯人ではなくても、その背後関係について何か関係があるとか、何か断片的な情報を知っている可能性はあるでしょう? そういうところを聞くんじゃない?」
「あっ、そういうことか……なるほどね」
その短いやり取りの後、また生徒会役員の面々は長い沈黙の時間に入った。
松田はどこか落ち着きがない。そして鶴巻は余裕の表情ではあるが、その視線は室内を絶えず移動して、待機している役員の様子を観察している。
鶴巻は、主に松田の動きを見ているが、仕切り板の向こうの2人にも注意を向けている。
片桐は落ち着いていたが、菅野はほぼキレかかっていた。菅野の聞き取りを担当する土本は多少殴られたところで問題はないだろうが、それでも生徒会室で暴力沙汰はよろしくない。
鶴巻なりにこの後の展開を心配しつつ、なんとか暴力に至らず事が済んでほしい、と願った。
「まず始めに申し上げておきますが、私たちは片桐先輩を備品事件の犯人だと疑ってはいません。今回の聞き取りでお聞きしたいのは、事件について知っていること、把握していることのうち、まだ私たちに話していないことを今回話していただこうという趣旨で聞き取りを行うつもりです。何か話しておこう、ということはありますか?」
片桐は、椅子に浅く腰掛け、背もたれに寄りかかっている。そして両の手はパーカーのポケットに入れたまま出す素振りは見せない。
「そうだな……その前に、あたしを容疑者から外してしまって本当にいいのか? そこを聞いておきたい」
「はい。それについては、簡潔に申し上げますと、会長が犯人であった場合、犯人自ら事件の再調査を起案したことになり、わざわざ自らが不利になることをするメリットがないと考えられることから、容疑者から外させていただきました」
「そうか……わかった。なら……」
その時、隣の小部屋から、「あぁ? なんだテメエ?」という声が聞こえて、会話が途切れた。
声の主は菅野だが、それ以降は声は聞こえない。
「やはり、大きな声を出すと聞こえるんだな……話を戻そう。あたしの視点でこの事件がどう見えているか、それについて話そうか」
「ぜひ、お願いします」
北條からの返答を受け、片桐は静かに話し始めた。
「まず、備品について、使途不明のもの、不自然な消費状況があるのは生徒会長就任当初から把握していた。と言うか、その数年前から始まっていることも把握している。だけど、あたしが会長就任以降は管理を強化していて、不適正な消費や持ち出しはそう簡単にはできないはず。それができていたということは、生徒会内部の動きに詳しい者、つまり内部の者、それも役員かそれに近い者が故意に備品を持ち出しているということになる。そして、以前の備品消失とは明らかにその態様が異なる。つまり、今回の備品事件は、以前のそれとは別件、ということだろうな」
つまりは、片桐は、以前の備品紛失と今回の備品隠しが別件であることは早くから把握しており、今回の備品隠しが生徒会の内部犯行であることもほぼ確実視している。
「では、内部犯行であることまではわかっていた、ということですね。そこまでわかっているのに、何故、今に至るまで『犯人探し』が出来なかったんでしょうか?」
「肝心なところで、身内を庇う動きが出たからだ。正直なところ、備品の件は、やってる人間は大体察しがついてる」
察しがついている。
そう言われては、聞かずにはいられない。
「その『やってる人間』ついて、お聞きしても?」
「うん……だが、特命班が犯人をほぼ特定していて、今は証拠集めに難儀している状態、ということなら話す。これはあくまであたしの推定でしかないので、参考情報としてくれるなら」
北條はそれを答えるべきか、少しの間躊躇した。
しかし、片桐の見立てを聞いておきたい。そのために、犯人に関する情報は機密性の高い情報ではあったが、片桐に伝えることにした。
「わかりました……ではお話しします。私たちはこの件、少なくとも、新体制以降の『備品隠し』については、松田先輩と海野先輩によるものと考えています」
「そうか……すまなかったな、言い難いことを言わせてしまって。じゃあ、あたしの見立てを話す」
片桐は一息入れて、犯人に関することについて話し始めた。
「初日の説明会のことを思い出すと、あの場では書類は松田しか作成していない。だから改竄書類の作成は松田によるものに間違いはない。それを配布したのは海野で、海野は話の最中に斜め前の松田が書類を弄っている状況を確認できたはずだし、また、その動きがこれから配布する書類の差し替えだと気づくはずで、それに気付きながら何も言わないとなると、海野はグルだろう。そこまでが改竄で推定される事実」
やはり片桐は聡い人物である。
特命班からの少ない情報から、正確に犯人を絞り込んできた。
「それから、備品搬出のこと。搬出日は、新体制発足直後で、備品運び出しの実行犯は、おそらくルート的に、新校舎で荷運びをしても怪しまれない者、つまり一部文化部か進学クラスの人間。ならやはり、軽音同好会の松田だろう。そして一連の流れのスマートさから考えると、ほぼ間違いなく裏で海野が糸を引いてる」
この「備品運び出し」については、まだ報告していない内容。
ということは、片桐は特命班発足前に、既に犯人をほぼ特定できていた、ということになる。
「では、特命班の推定と合致しますね。そこまでわかっているのに、事件解決に至らなかったのは、何故でしょうか?」
「あたしが犯人を特定できたところで、それをあたし1人で動いて解決するのは好ましくない。それをやったら、結局あたしがワンマンで仕切る生徒会、ってことになってしまうからな。だからどうしても、ここはあたし以外の者に事件を解決してもらう必要があった。でも、役員は庇い合いをするから、解決まで辿り着けない。そこで、タイミングよく北條が土本を連れて来たんで『特命班』を立ち上げた、という流れだ」
「タイミングよく……ですか」
タイミングで特命班立ち上げを決めたということは、少なくともその時点では、能力面では期待していなかったということか。
土本の能力については説明したはずだったが、それが片桐には響いていなかったと感じた北條は、少し落胆した。
「そうだ。11月に生徒会として事件の調査を開始して以降、2学期終わりまで調査に進展がなかったんで、どうしたものかと思ってたんだが、3学期になって急に転機が訪れた。特命班立ち上げ時にはまだ土本の力量が未知数だったんでそこは不安だったが、1つ目の事件を見事に解決したから、そこの不安はなくなった。一方で、海野の方はそわそわし出したな」
北條は報告会においても、常に役員の反応に注意していたつもりであったが、海野の動きには気付かなかった。
「そうでしたか?」
「ああ。もっとも、海野は最初から特命班というか、事件の再調査に関してはよく思っていなかったようだしな。以前から、あたしがこの件の『犯人探し』を諦めていないことをずっと気にしていた。実は、特命班立ち上げの時、あの説明会の場でのことだが、あたしがブラフをかました時に、やはり海野は過剰反応を示した。つまり、事件で進展があってはまずい、あたしに動いて貰っては困る、と思ってるんだろう」
片桐の言う「ブラフ」とは、説明会の場での「あたしがとっ捕まえれば済む話」という発言のことを指している。
確かに、海野は過剰に反応していた。
冷静に考えれば、件の発言は本当に会長が自ら動いて犯人を捕まえる、という趣旨ではない。ならば、あの場で大きな声を出すほどでもなかったはず。
それなのに過剰な反応をしたということは、片桐自ら動くのをかねてから警戒していた、ということなのだろう。
「幸い、海野はその後しばらく土本を侮っていたようだから、調査への要らぬ横槍も入れていなかったんで、そこはよかった。今はまだ、特命班がこの事件の調査を本格的に開始して間がない上に、先週海野は報告会に出席していなかったから、まだ今の特命班の動きに対応できていない。今のうちに急ぎで調査を進めるべきだろうな」
「すみません、話が前後します。会長1人で動くのが好ましくない、と考えているとのことでしたが、それについてもう少し詳しくお話しいただけますか?」
「ああ、そうだな。あたしが独断専行でこの件を片付けてしまうと、まず『生徒会内部の事件に、組織として生徒会が動く』という建前が崩れる。そうすると、個人の力、裁量が大きすぎるし、仮にあたしが何かの都合で抜けたり動けなくなった場合、生徒会の機能は麻痺するということになる。それは組織としてはよろしくない。瑣末な事件ならそこまで問題にはならないだろう。でもこれは大きな問題、組織内に背信者がいるという大きな事件だ。これを組織として対応できないのなら、機能不全と言わざるを得ない。だから今は、生徒会という組織として事件に取り組む姿勢を生徒や教職員に示して、解決までこぎつけようと考えている」
当初の説明会において、特命班は「調査の結果には責任を感じる必要はない」という説明であったが、ここへきて大分様相が変わってきた。
片桐の話の通りだとすると、特命班は「生徒会内部の重大事件を調査し、その結果如何で今後の生徒会役員、特に生徒会長の責任問題に関わる、相当に重大な責任を負う立場」という印象を受ける。
「その解決に至るまでの調査を、『特命班』に託した、ということですか」
「そうだ。重責だが、それを最初に伝えてしまうとプレッシャーになるだろうから、敢えてその説明は伏せておいた。それと、特命班に調査を託したのには別の理由もある」
「どういうことです?」
「それは、『反体制派』からの攻撃を想定した上での防衛策だということだ。仮にあたしが自ら2人を犯人として詰めたら、海野の口を割るのは難しいが、松田はゲロっただろう。それで松田を犯人としたところで、あたしと海野の関係は拗れたままだ。すると役員内で内部不和が起こっているということになり、生徒会役員の現体制は崩壊だ。生徒会役員の内部不和は『反体制派』が現体制を批判する格好の材料になるからな。そうなれば反体制派の後押しを受けて海野がそこを突く役回りになるだろうし、そういう最悪の事態はあいつにも容易に想像できたからこそ、あたしが独自に動くのを止めに入ったんだろう」
「それを、役員以外の人が動けば、批判は避けられずとも、少なくとも『最悪の事態』、会長が役員を糾弾し、証拠もなく海野先輩を問い詰めた事態が明るみになり、それを外部から厳しく批判されて生徒会の体制が崩壊する、という状況よりはましになる……ということですか」
「そういうことだ。『特命班』から犯人を名指しされるなら、生徒会長自ら犯人を名指ししたのとは構図が違うし、なんなら会長も他の役員と立場は同じ、生徒に対して謝罪する立場だからな。少なくとも役員の結束が崩れることはない。もちろんちゃんと調査をして、犯人と名指しする理由を説明できるところまで持っていくことを期待してるがな」
だが、それでは役員全体が「背信者」の不祥事のために連帯責任を負うことになる。
そんな「庇い合い」をする必要があるのだろうか。
「でも、会長まで一緒に生徒に対して謝罪する立場となる必要があるんでしょうか。犯人が判明したことを生徒の前で発表し、そこで犯人を糾弾する形にすれば、批判はある程度かわせるのでは」
「本気で言ってるのか?」
片桐は、一瞬真剣な眼差しを北條に向けた。
「い、いえ、仮の話ですが」
不用意な発言で片桐を怒らせた、そう感じた北條は、慌ててそう弁解した。
「まあ……それも手段のひとつではあるだろう。でもあたしはやらない。そうしてしまったら、海野は、松田はどうなる? 全校生徒から厳しい目で見られて、立場がないだろう。あたしは誰であろうと、そういう手段は取らない。仮に海野だけでなく、誰かが『反体制派』と繋がっていようと、決して切り捨てたりしない。これは絶対だ」
「すみません、思慮を欠いた発言でした……そうですね、例え『反体制派』との繋がりがあろうと、役員を切り捨てることはあり得ない、ですよね……」
「ああ、そうだ。北條にも、そういう認識を持って貰いたい。あたしら生徒会は生徒を代表する組織であり、仮に生徒会が会員を切り捨てたとしたら、それは即ち生徒に対してそうするのと同じだ。それは良くない、我々はあくまで生徒の助けとなる組織でなければいけない。組織防衛のために個を切り捨てたりなどしない。それはあたしが始めたことではなく、その前からずっとそうだ。それが昔からの、この学園の生徒会の基本姿勢だ」
「……はい、肝に銘じます」
その片桐の姿は、まるで自分の後継者となる者に対して、重要な心構えを言い聞かせる帝王のように見えた。
「……話を戻します。反体制派に対する防衛策について、もう少しお聞きします。先ほどは『タイミングよく』私が土本君を連れてきたので、調査を任せたとのことですが……」
「そうだ。あたしが有効な手を打てず悶々としている丁度その時、信頼できる生徒会員であり、海野から批判されにくい立場の者、そして調査をそつなく進めて解決まで辿り着けそうな聡明な人物が再調査の話を持ってきてくれたんで、その人物にそのまま調査を任せた」
それは片桐の、北條に対する正直な評価だった。
「土本君の能力については、評価していなかった、と」
自分を評価してくれていることは理解しているが、それでも北條にとって重要なのは、土本を評価してもらうこと、難事件を推理で解決に導く能力を認めてもらうことである。
そこが伝わっていないことが、どうしても残念であるし、それは仕方のないことと簡単に流せるようなものではない。
「その時点では、まだ未知数だったということだ。当然、北條が推薦してきたという点は評価している。だが、やはり実績1つでは心許ない。その後1月でゲリラ放送の件を解決してみせたから、その能力はよくわかったけどな」
「では、この事件を解決できれば……」
「土本の評価は上がるだろうな。いや、そうなればあたしから積極的に高評価を与えたことを発信しようと思う」
「ありがとうございます」
「だがそれは、単に犯人を特定しただけでは足りない。動機を本人の口から語らせて、もし背後にそれを指示した、あるいは唆した何者かがいるのなら、それも明らかにしなければ。そこは『特命班』のお手並み拝見、だな」
「わかりました。最善を尽くします」
そこで、片桐から聞き取るべき内容は聞き終えた。
ここまで早口で進めていたので、まだ数分の余裕がある。
昨日梅里から告げられた片桐に関する話、その真偽を確かめるべきか。
一瞬迷ったが、やはり当初の予定通り、確かめることにした。
「あと、それから……最後に、会長に確認したい事項がありまして……」
「ん? なんだ?」
急に歯切れの悪くなった北條に対し、片桐は背中を起こして北條に顔を近づけた。
「あの、実は……会長の、今のその言動についてですが、それは『演技』である、という話を耳にしまして……」
片桐は、「演技」と聞いたところで顔色を変えた。
僅かな変化ではあったが、北條が初めて見る、片桐の「動揺」であった。
「それは……もう、広まっている話なのか?」
「いえ、特命班の中までの話です。当然、広めたりはしていません。あくまで機密情報としています」
数秒の沈黙。
「そう……うん、あたしが『強い女』らしく振る舞ってる、『演技』しているのは本当。それは認める」
それは、北條が初めて聞く、片桐の優しい口調だった。
ああ、本当に、「演技」だった。
私が憧れて、追い求めてきた、生きた理想像。それは、「虚像」だったんだ……
北條は、自らの内にあった幻想が、音を立てて崩れていくのを感じた。
「幻滅した? それについてはあなたの感覚だから、あたしからは何も弁解しない。ごめんね。でも、大義のためと思うなら、それはまだ、しばらくは秘密にしておいてくれない?」
その口調、表情からは、それまで会長から感じていた、尊大ながら凛々しい佇まいは消えている。
ただ、17歳の女子高生にしては、些か大人びた印象を受ける。そして、どこか疲れを感じさせる。
それは、生徒会長ではなく、素の片桐静香の姿なのだと、根拠はなくとも、北條には確信できた。
片桐は「大義」のため、即ち全ての生徒が平等な学園にするため、私心を捨てて公に尽くしている。
それは頭では理解している。だが、感情が追いつかない。裏切られたという思いはまだ消せない。
「わかりました。これは口外しません。『大義』のために」
この場における最善の返答、北條の頭で考えた最適解を、なんとか絞り出した。
「ありがとう。あと半年ちょっと、あたしの任期が終わるまで、それまでは秘密にしておいてね。生徒会長が代替わりして、あたしが『ただの生徒』になれば、バラしても構わないから」
「でもそれでは……」
それでは、ただの一生徒になった片桐が、他の生徒達から容赦無い批判に晒されることになる。
「それで批判されるなら、それも仕方のないこと。嘘つきだと言われても、弁解のしようもないしね。人があたしのこれまでの行動に裏切られた思いを抱くのなら、その誹りは甘んじて受けるつもり。今までの報いだと思うことにするから」
「そんな……ダメです、そんなこと……」
北條の声が震えている。
昨日の自分の発言が、今、形を変えて自分に返ってきている。
広い視野で周囲を捉え、生徒会内の「背信者」を切り捨てることなく、あくまで助ける為に、保身を一切考えることなく気苦労を重ねている片桐への、ある種無責任な誹り。
片桐の正体が明るみになった際に予想される、周囲からの心ない反応は、昨日の自分そのものであった。
「北條さんは、あたしの本当の姿を知っても、今までと同じように接してくれるんだね……ありがとう。みんながそうであってくれるといいんだけど、多分そうもいかないでしょうね……」
その優しい声を聞いて、北條は堪らず涙を零した。
「申し訳ありません……私は、そのことを初めて聞いた時、受け入れられませんでした……強い人だと思っていたのに、裏切られたと……私の勝手な理想を押し付けて、勝手に裏切られたと思い込んで……エゴを捨てて、人のために尽くしてきている会長を、そんな風に……」
涙の止まらない北條に、片桐はハンカチを差し出した。
「ううん、あたしが身の丈に合わない行動を起こして、その無理を通すために『演技』に頼って、みんなを騙してきたからいけなかったの。だから、人があたしに対して怒るのも、恨むのも、仕方ないと思う。北條さんも、そう思うのは、自然なこと。多分、あたしは手段を間違えた。北條さんは、来年、多分『役員』に推挙されるでしょうけど、あたしのようにはならないでね。あなたなら、『演技』なんてしなくても、『嘘』を吐かなくても、素のあなたのままで強い人になれるでしょうから。で、欲を言えば、生徒間の格差をなくして、全ての生徒が平等な学園を作る流れを、そのまま引き継いで貰えると嬉しいな」
「はい……そうします……必ず……」
生徒たちに片桐を糾弾させたりはしない、あなたをそんな目に遭わせたりはしない、そう言いたかったが、言えなかった。
片桐を守るための手段が思いつかない。
昨日の自分の反応こそが、片桐の正体を知った者の自然な反応。
会長のこれまでの実績を踏まえて、等身大の高校生である片桐本人の姿を見て、これまでの『演技』が大義のための行動であったと理解し、その片桐に悪意がないと判断できる、そういう者がどれだけ居るか。
そんな高度な判断を、大衆に求めるのは無理な相談。
今の北條には、それはよくわかっている。だからこそ、安易に片桐を守るなどとは言えなかった。
「もうそろそろ時間じゃない? あたしとの話はここまでにしましょう。次は、松田君だったね。さあ、次の『聞き取り』をやってちょうだい。それが、あなたの仕事でしょう?」
片桐から渡されたハンカチで目を覆って俯いていた北條は、その言葉に促され、顔を上げた。
「はい……そうでした。予定時間を1分過ぎてしまいました……すみません。『聞き取り』は以上とします……ありがとうございました」
目を真っ赤にしていたが、それでも時間を見失わなかった北條は、そう言って聞き取りを終了した。
「お疲れさま……じゃあ、がんばってね」
小部屋から出る際、北條の背中をひと撫でして、それからいつもの顔に戻った片桐は、自らの席へと戻っていった。




