事件その3 備品盗難(1) 第5回定例会、と初対面
ゲリラ放送事件が一段落した翌日、木曜日の放課後。
教室に1人残っていた土本は、4時までの残り約15分の時間を潰すために、あれこれと試行錯誤していた。
定例会の時間まで、中途半端に時間がある。
土本は、以前に途中で読むのを辞めた文庫本を再び持ち出して読み進めていたが、結局それも断念し、茜色に染まる体育館の外壁を眺め、外の音に耳を傾けていた。
そこでは、運動部が発するノイズに混じって聞こえる、リチャードクレイダーマンの調べ。
三学期明けの緊張した時期に比べて、最近の土本には、周りの小さな音に気付く程度の余裕ができた。
これでもう1つの事件が解決できれば、もっと平穏な日々がやってくる。
そのはずである。
そして時間は間もなく4時。そろそろ頃合いと思って、教室を出て生徒会室へと向かった。
生徒会室の引き戸を開くと、いつものように北條が待っていた。
「……今週も時間どおりですね、土本君」
「まあね……週に一度の仕事だし。時間くらいは守るさ」
事件が1つ片付いても、ここでのやり取りは相変わらず。
そして黒板には、既に北條の手による丁寧な字で「第5回定例会」と書かれている。
「では『例の件』、早速始めましょうか」
そう言って、北條は教卓に置いてあったファイルを開いた。
「では改めて、先週までの調査結果を整理してみましょう。生徒会の備品盗難、いえ、『備品盗難疑い』についての調査ですが、現在のところ、物品については既に校庭脇の倉庫内から発見されています。ですが、これは開示できない情報です。発見に至る経緯を説明できませんし、何よりこれは『犯人しか知り得ない情報』ですので。これについては、容疑者に自ら場所を案内してもらうものとします。容疑者が倉庫内の段ボール箱を案内すれば、備品の隠し場所を知っていたわけで、それは備品を隠した本人、つまり犯人であると証明できますからね」
その通り。そして、それを引き出すためには、容疑者からの聞き取り、と言うか「取り調べ」を慎重に行う必要がある。
「ですから、現時点で報告会で開示可能な証拠は、以前に生徒会で作成した資料、この内容の改竄部分のみ、ということになります」
土本ら「特命班」が動くことが決まったのは、土本の生徒会加入当日。その日の常会で北條が久保に紹介するまでは、「例の件」を調査することは誰にも知られていないはず。
そのため、資料の改竄は、その日の常会後の説明会に出席していたものにしかできない。つまり、犯人、というか改竄の実行犯は「役員のうち、当日説明会に出席していた者の中にいる」ということになる。
「そうだな。そして、それをいつ、どのタイミングで示すか、それを考えることになるわけだ」
「……それについて、何かお考えがありそうですね?」
北條は、こういう時に鋭い指摘をしてくる。やはり彼女は頭が切れる。
「うん、まあ、これは一つの案としてだけど。どの道、この調査にはあまり時間はかけられない。だからあえて次の報告……と言っても明日か。その時に役員全員の目の前に、この証拠をいきなり出してみて、各自の反応を見てもいいかな、と思っている。それで『揺さぶり』をかけて、犯人が何か動きを見せるのを期待する、というのも1つの手ではあるかな、と」
北條の読み通り、土本は「タイミング」について策を考えていた。その策に、北條は感心して深く頷いた。
「いい考えだと思います。資料自体は秘匿するような証拠ではないですし、他に証拠となるようなものが出てくる見込みもないですしね。やってみましょう」
「よし、じゃあそうしよう。だけど、まだあまり細かいところまでは伝えないように。今の時点で改竄の流れを全て伝えちゃうと、聞き取りの時に『揺さぶり』に使う材料がなくなるからな」
「はい。今はまだあくまで改竄の事実が分かった、というところまでですね」
「そうだ。役員のうち誰かが『改竄の過程』を自白したなら、それで犯人が特定できるからな」
ただし、ここで1つ注意しなければならない点がある。
それは、改竄の実行犯の動きの速さ。
「説明会」当日。土本が生徒会に加入し、その日の常会の後に説明会が開かれた際、説明会の準備は10分程度、その間に会長と副会長らの立ち話程度の話し合いで「特命班」の話が急遽決定したものと推測される。
その後、会長と副会長以外の者が「特命班」の立ち上げを知ったのは、少なくとも出席者以外の者が生徒会室を出た後。よって出席者以外が資料の改竄に手を出す余地はない。
土本らが受け取った資料の改竄が行われたのは、そこから資料配布までの時間で、最長でも20分程度。実行犯は自らも会議に出席しながら……つまり周囲に見える場所で、ということになる。
その厳しい条件にも関わらず、改竄の実行犯は文章の改竄を丁寧に実施し、改竄していない部分と矛盾のない文面に仕上げた。
ということは、実行犯は「書類作成」に手慣れていて、しかも対策までの意思決定から実行までの速さ、さらに文書作成速度が相当に速い。
当人に「揺さぶり」をかけるなら、「対策」が取られるまでの時間は極短時間となるだろう。
隙を見せれば、対策を行っているところを見ることもなく終えられてしまう。全く気が抜けない。
「……ということは、『揺さぶり』の後の行動を、できる限り把握する必要がある、ということですね」
「そうだ。そして、来週聞き取りをする以上、犯人側が対策をするとなれば、そこまでの1週間で何か動きがあるはず。それをどうやって監視するか、だな」
「また、ビデオを設置しますか?」
「そうしたいのは山々だが、今回は、相手がどう動くかわからないから、設置場所を1か所に絞ることができない。倉庫の中のブツを動かすことを想定したとしても、屋外だと適当な設置場所がないな」
「そうですね……どうしましょう」
土本は一瞬考えるような仕草をした。
「……また、あおいに頼るしかないか」
考えても、彼女の「人の本心を見抜く」、その「特技」に頼ることしか考えつかなかった。
「梅里さんに頼るとしても、確か複数人を一度に対象にして『特技』を行使するのは困難、という話でしたよね?」
「そう、だから今回は対象を1人に絞る。◯◯先輩に」
それは、以前に梅里が「心に特徴がある」ことから、犯人のうちの1人と名指しした人物だった。
「えっ? 大丈夫なんですか?」
対象を1人に絞ってしまうと、それ以外の者が行動しているところを把握できなくなる。
「揺さぶって動くなら、その時は共犯者と接触した上で行動を起こすだろうから、まあ大丈夫だろう」
「そうですが……不安が残りますね。◯◯先輩と意思疎通なしに共犯の方が動かれる可能性も、ないわけではないですし」
この懸念にすぐに気付いて指摘する点も、土本にとってはむしろありがたい。
「そうだなあ……こっちの手は足りないし、やれることは限られてるしな。常に役員に目を光らせることが可能で、それをやっても誰にも怪しまれない人がいれば、協力して貰えると助かるんだけどな」
「そんな都合のいい人がいれば、いいんですけどね……」
その日は結局、それ以上良案が浮かばないまま定例会が終わった。
そして、校舎から出た時、それは起こった。
「土本ってのは、お前か?」
不意に声を掛けられ、土本は声のした後方を振り返ると。
そこには、金髪の角刈りで制服を着崩した男子生徒、見た目はいかにもな感じのヤンキーがいた。
「そうっすけど……」
この時点で心に余裕のあった土本は、一般生徒のふりをしている。
「ちょっと話あるから、ツラ貸せや」
いかにもヤンキーらしい呼びつけ方。
「はあ……わかりました」
それに頷いてついて行こうとしたが、そうすると北條を1人にしてしまうことになる。
「ちょっと話してくる。今日の話の続きは明日するよ。また明日な」
ヤンキーに付き合って話をすれば、北條も面倒ごとに巻き込むことになる。努めて冷静に、落ち着いた口調で、素っ気なく北條に帰るよう促した。
「北條ちゃん、悪いけど、こいつ借りるわ。先に帰っててな」
一方ヤンキーは、北條にはしっかり詫びを入れつつ土本を校舎裏へと促した。
「あっ、でも……」
「大丈夫、ちょっと話してくるだけだから」
そう言う土本の表情にはどこか余裕が見られる。
「……わかりました。お疲れさまでした」
土本の意図を察した北條は、反論することなくそこで2人に頭を下げ、何度か振り返りつつ駅へと向かった。
北條が1人で駅に向かうのを見届けて、土本はヤンキーの後について校舎裏へと向かった。
そこは、このヤンキーが意図していたかは不明だが、土本にとっては自分の場所と言っても過言ではない場所だった。
昇降口から見えない位置まで進んだところで、ヤンキーは土本に詰め寄り、下から舐めるようなガンをつけた。
「女を先に帰らせたところは素直に褒めてやるよ。生意気な一年坊の割には気が利いてんな」
土本はそれには反応せず、左拳を握りしめつつ、ヤンキーの「話」とやらを早く進めようと、苛立ちを抑えて質問した。
「で、話っていうのは何すか」
ヤンキーの側もまだ手を出すような感じではない。土本も今の段階ではまだ様子を窺っている。
「焦んなよ。最近お前、生徒会に顔を出してるらしいな。不良の癖に」
「一応進学クラスで成績は上の方だし、特に問題も起こしてないっすけど」
「成績は関係ねえよ。カタギか不良か、見た目でわかるだろ。お前はどう見ても『こっち側』だろうが」
「仮に『こっち側』だとしても、生徒会にいちゃいけない、ってことはないんじゃないっすか?」
「あるだろう、そりゃ。あそこは生徒の代表、優秀でヒンコーホーセーな生徒が働く場だ。俺らみたいなはみ出しもんが混ざっていいトコじゃねえ」
「それをあんたが言うんすか、鶴巻センパイ?」
まだ名乗っていない段階で名前を出された鶴巻は、一瞬言葉に詰まった。
「……なんだ、もうバレてんのか」
後輩をビビらせる芝居が空振りに終わったことを悟った鶴巻は、ガンをつける体勢をやめて脱力した。
「こないだセンパイが会長と屋上に居たのを見たし、会長からも説明は受けてるっすからね。いずれ挨拶に行こうとは思ってましたが、まさかそっちから来てくれるとはね」
「全くあいつは……まあしょうがねえか。噛みついてくれば、それを理由につまみ出そうと思ってたんだけどな」
「俺が生徒会にいると、なんかまずいんすか?」
「さっき言った通りだ。不良が生徒会に出入りしてちゃ、見映えが悪いだろ。まして『カス中の双龍』となればなおさらだ」
鶴巻の言う「カス中の双龍」とは、土本の出身中学校、春日原中にかつて在学していた生徒2名の通り名のことで、うち1人がこの土本、もう1人は彼の旧友の黒崎である。
それを知っているということは、おそらく鶴巻は地元が近い者なのだろう。
「それも知ってんすか」
「そりゃ、『喧嘩上等』って大口叩いて他校に喧嘩吹っかけてりゃ知られもするだろ。むしろ自分らで周りに知らせて回ってたようなもんじゃねえか」
「まあ、そうっすけど……」
「そういう不良がな? 一応優秀な生徒の多いこの高校の生徒会にいるってだけで、イメージ悪くなるだろ。お前1人だけの問題じゃねえんだからよ。お前みてえなヤンキー崩れがいつまでも大人しくしてられるわけねえじゃん、今のうちに生徒会から抜けろって」
そうは言われても、まだ「調査」の途中であり、中途半端なまま仕事を放り出して逃げるわけにはいかない。まして、生徒会長直々の依頼である。ヤンキー1人に言われたところで仕事を辞める道理はない。
「生徒会加入は北條さんに頼まれたことだし、今は会長から直接仕事を言いつけられてるんすよ。今抜けるわけにはいかないし、それに俺は、今は優等生やってるんで」
「ハッ、優等生なんて、いつまでも猫かぶってられっかよ。そんで喧嘩でもやったら、お前が立場なくすだけで終わる話じゃなくなんだぞ?」
もはやヤンキーらしからぬ、立場を主眼に置いた鶴巻の語り口に違和感を覚えながらも、土本はとりあえず言い返せる部分にのみ言い返した。
「……できますよ。猫かぶり。実際今までやれてましたし」
「それがいつまでも続けられるとは限らねえだろ。第一、今お前のやってることがそのまま進めば、アンチ片桐とかち合うことになる。梅里ともつるんでるんだから、喧嘩になるのは目に見えてんだろ」
こちらから聞くまでもなく、鶴巻の方から梅里に関する情報を話してくれたので、そこに話の軸を移した。
「あっ、やっぱあお……梅里ってそういう評価なんすね……ということは、俺の知らないところで既にやらかした感じっすか」
「やらかしたも何も、片桐に喧嘩仕掛けたのはここ1年ではあいつ以外にいねえよ。片桐に掛かっていくんだから、他の奴にもいくだろ」
あの生徒会長に喧嘩を仕掛けた、というのを今初めて知った。
梅里が粗暴なヤンキー気質なのは知っていたが、そこまでの向こう見ずとは思わなかった。
「梅里を抑える自信はないっすけど、俺自身は喧嘩はきっぱりやめたんで、それは自信持って言えますよ。調査についても、その、『アンチ片桐』とかいう連中ともやり合ったりしないっす。梅里については、できる限り暴れないよう見張っておくっす」
「……その言葉、忘れんなよ」
鶴巻は土本の鼻先を指さして言った。ということは、鶴巻にとって一応は納得のいく返答ができた、ということなのだろう。
そこでようやく当初の「話」、不良が生徒会に紛れ込む話が終わったと察した土本は、さらに話を続けた。
「ところで、こう言っちゃなんすけど、鶴巻センパイも不良なのに、生徒会にいて、しかも役員っておかしくないっすか?」
「だからこそ、常会に顔出さねえようにしてんだろ。みんな優秀だし、俺の出る幕はねえよ」
「でも、聞いた話だと、他の役員とはちゃんと連絡取り合ってるとか」
「まあな。だからお前の『調査』の件も知ってる。喧嘩にならない限りは俺から特に言うことはないから、そこは安心しとけ」
「いや、実はその調査の件で……この際ついでだから言うっすけど、これの犯人って、役員のうちの誰かっすよ」
「は? なんだそれ」
土本は、ここまでの調査の経緯と、本来は明日報告する予定であった、資料改竄の件を話した。
「マジか……じゃあ、役員のうち、その日にいた4人を疑ってる、ってことか」
「そうっす。で、そこでなんすけど」
続いて土本は、犯人である可能性がほぼない鶴巻に対し、この調査に協力を依頼したい、ということを話した。
「いや、お前……それを俺に言うのか?」
「まあ、この件については役員の協力なしにはどうしてもできないところがあるんで。それに、会長が犯人の可能性も全くないわけではないんす。疑いを晴らすには、真犯人を探すしかないんすよ」
そこで土本は、わざとらしく片桐の名前を出した。
「は? なんで片桐のことで俺が」
「今日俺んとこに来たのは、片桐先輩のためっすよね。だったら、これにも協力してくれるかな、と思って」
ついでに、わざとらしく鶴巻と片桐の関係を深読みしたように匂わせる表現も追加した。
「お前……一応言っとくけどな、片桐とは何もねーからな? ただ昔っからの腐れ縁ってだけだからな?」
片桐との関係について、ムキになって言い訳をするところを見ると、「何もない」わけではなさそうではある。
「それはまあ、今はそれ以上聞かないっすけど、どうせならこの件、早いとこ解決させてさっぱりしたいじゃないすか。役員の誰かが犯人、でもまだそれが誰かは分からない、その状態を早めに脱したいのは俺らもセンパイも同じでしょう? お願いしますよ」
鶴巻は何か言いたげであったが、土本からの依頼に渋々了承した。
「……まあ、今回だけはお前らに協力してやる。北條ちゃんのためでもあるしな」
この口ぶりだと、どうも、鶴巻は随分と北條を贔屓しているように思える。
その辺りの詳しいところも聞いてみたいところではあったが、今日のところはそれは控えた。
「よろしくお願いします。詳しいことは、後日説明するっすけど、手短に言うと……」
鶴巻との「話」を終えて、早足で駅に向かおうとすると、校門脇で北條が待っていた。
「なんだ、ここで待ってたのか」
「はい、あの……大丈夫でしたか?」
見るからに心配していた顔をして尋ねた。
「えっ? ああ、大丈夫。俺が生徒会に入って喧嘩とかそういう問題起こしたら、生徒会にも迷惑かかるって、釘を刺されたよ」
「それだけですか?」
「ああ、あと、こっちの調査に協力してもらうように頼んでおいた」
土本がそう言った途端、北條の顔が若干曇った。
「えっ……それで、鶴巻先輩はなんと?」
「ああ、一応は協力してくれるらしい。当然、口止めもしてある。会長から直々の指示だということも話したし、こちらの話を反故にはしないだろ」
「信用できますかね……」
どうも北條は、鶴巻を信用ならない人物と捉えているようである。
「あんな見た目でも一応は生徒会役員なんだし。それに、さっきの定例会での話でもあったけど、『常に役員に目を光らせることが可能で、それをやっても誰にも怪しまれない人』ってやつ、まさにそれに当てはまるのが鶴巻先輩だからな。あの人を使わない手はないだろ」
「まあ……それはそうですが……」
いまいち納得がいっていない様子で、北條は渋々了承した。
そして2人で駅に向かう途中、土本はどうしても気になったことを北條に聞いてみた。
「やっぱり鶴巻先輩のこと、あんまりよく思ってないのか?」
「はい……役員であるのは確かなので、その立場にあることを尊重する方向で考えるようにはしているのですが」
信用を得られないのは、鶴巻が自ら「不良」に寄せた見た目にしている影響が多分にあると推測され、それは鶴巻自身のせいではあるのだが、それと同類に見られている……と思われる土本もやはりそちら側の人間だと、北條はそう思っているのではないか。
そこで、もう少し突っ込んだ話をしてみた。
「見た感じヤンキーっぽいし、信用の面ではアレなのはわかるけどさ、調査の協力を依頼するにはこれ以上なく都合のいい人だから、そこは割り切ってほしいところだけどな」
「いえ、見た目のことは特に問題にはしてないんです。仕事への取り組み姿勢の問題で」
「あっ、そうなんだ」
「事情はどうあれ、役員の揃う場は常会以外にはないので、そこは極力出席すべきだと思います。それを怠るなら、少なくとも役員以外の者の視点では、真面目に仕事をしているとは見えないし、そうは考えられないかと」
つまり北條は、見た目がヤンキーだろうが、それは特に気にしておらず、単に鶴巻が仕事をしていない、しているように見えないことが問題だということらしい。
であれば、土本が「鶴巻と同様に」ヤンキー風の見た目であっても、それは問題ない、ということになる。
北條の鶴巻に対する嫌悪感が、その不良のような見た目に由来するものではなかった、と知ったことで、土本の胸のつかえが取れた。
いや、それは本来今さら尋ねるまでもないことのはずなのだが、それでも聞かないことには、本人から直接言われるまでは、その懸念は消せなかった。
「まあ、元々手が足りないところでやむを得ず行使する手段だと思って、今回は割り切ろうぜ。あくまでメインはあおいの方だから」
「そうですね……そう考えることにします」
まだ北條は納得いってない顔をしているが、一応はこの協力を受け入れる、という返答をした。
とりあえずこれで、明日以降の調査の方針は決まった。
あと問題は、これを明日、梅里にほとんど事後承諾の形で伝えなければならない。
おそらく梅里は快諾するだろう。
だが、何度も仕事を頼んでいいものか、多忙な梅里に仕事を押し付けすぎてはいないか。
それが、彼女の許容量をいつか超えてしまうのではないか、土本はその懸念を抱きながらも、今は彼女に頼る以外の方法を思い付かなかった。
そして、その無配慮と過負荷の積み重ねが、この後の深刻な事態の遠因となるとは、この時土本も、北條も、その他生徒会の面々も、誰も想像だにしていなかった。




