第十一話 「その才能は呪いである」
職員室の空調が、嫌なほどに体の熱を奪う。
「貴女には絵を描く才能がないわね」
艶めかしいリップグロスからため息が吐き出される。持参したケント紙はオフィステーブルに投げ出された。
「何を描いているのか全然わからないわ」
何も言えず、ただ突っ立ってるしかなかった。
もう一度大きくため息を吐いた美術の先生は、横切ってどこかに行ってしまった。折り紙のひこうきが落ちるように、ひらひらと私の絵が床に落ちる。汚い床に触れてしまった紙を見て、なにも感情が湧かなかった。
汚いそれの端をつまみ、職員室横のごみ箱に投げ入れた。
○ ○ ○
喫茶店を後にして、私たちは薄暗い街路を歩く。
「ピアノ上手いねー。そんな特技があるなんて知らなかったよ」
街灯に照らされた白い髪が揺れ動く。小さな石が集められてできた歩道が、酷く窮屈さを醸し出していた。
「そんなことない。才能ないし」
「えー」
ゆったりと地面が動く。
「小田巻はいいね。才能があって」
青白い風が首に当たる。頭の中がふわふわとして、自分でも何を言っているのかわからなくなった。
「天才なんでしょ」
ピタリと、家主の足が止まった。
そして大きくため息を吐き、後ろ側に立ててある洋風な街灯にしゃがみ込んだ。
「そう見える?」
昨日のような、憂いのある表情を見せる。
「見えるよ」
暖かい。そう、夕焼けのような明かりが、視界に入った。
何か月ぶりの色彩が、私の中で息をした。
「みんな言ってたよ。展覧会に来てた人や、マスターや、お父様が。私も、小田巻は天才だと思うよ」
オレンジ色の光が、くぐもった彼の背中を照らした。フードから覗く白髪は、明るい髪色に仕立て上げられる。
「羨ましいって、思う?」
視線を外し、どこか遠くを見つめる。
「思うよ」
考えるよりも先に、口が動く。
「小田巻の才能が欲しいよ」
「才能は神様に与えられた素晴らしいものじゃない。むしろ逆だよ。コンプレックスというか、欠点というか、そんな感じのもの」
首筋に冷たい風が当たる。
「どう逃げても手放そうとしても、地の果てまでついてくる。呪いみたいにね」
「君やほかの人が羨ましがっても僕は、ほかの才能がよかったなぁ」
ゆっくりと赤い目を開く。
「それこそ君みたいに、アップルパイをおいしく作れる才能とかね」




