第94話 確保
帝都の北部、城の近くに貴族領域がある。
近くにギルドユニコーンがあったり、多くの貴族の屋敷があったりする貴族様用の街なのだがそこには貴族向けの商売をするための店が複数置かれている。
どれも庶民には手が届かないものが売られているが、金さえ用意すれば別に庶民でも買うことはできなくはない。とはいえこの門をくぐるのには勇気がいるのだが……
とある店にある女性が入って行った。
「もしもし、こちらはウーラ商会で合っていますかしら」
店の奥のカウンターから男が飛び出てくる。
「はいはいお嬢様。こちらウーラ商会にございます。何か入用の物でもありますでしょうか」
男は口ひげを生やし小太りの身体を揺らしている。
「下級回復薬を3ダース割引で下さいな」
令嬢は指を3本立てる。貴族なのに割引をしたりなぜか質の悪い回復薬を求めたりと不自然な行為だ。
「は、はぁ……」
店主は怪訝そうな顔をするかと思いきや。
「そうでしたか。ではこちらへどうぞ」
店主は令嬢を店の奥の空間に案内する。そして彼女が連れている従者たちを見て尋ねる。
「あのお連れの方々は?」
「彼らも全部知っている身内ですのよ。通して良くて?」
「は、はい!」
そのまま店を通り過ぎていく。
店のバックヤードは非常に暗かった。
様々な商品が丁重に積み上げられており、倉庫として用いられているらしい。
そこには机と椅子が置かれていて、しわくちゃの老婆が居た。
「それで?何が欲しいんだい」
「暴走薬を少々」
「暴走薬?馬鹿言うんじゃないよアンタみたいな女性にやすやすと売れるもんかい」
老婆はバカにした風に言う。
「ウチは信用商売なんだ。まぁあの暗号を知っているって事は知らないできた訳でもあるまい」
「私が買うのではないですわある方の代理購入ですのよ。例えば遥か上の存在とか」
「ならそいつが来るべきじゃないか。とも言いたいけれどまぁそのくらい上の人物ならこんな店には姿を現さないか」
「そう言うことですわ」
「それなら合言葉を良いな!『赤』」
「『黒』ですわ。二重の警戒に感謝しますわ」
「つい最近捕まったばかりだからね。警戒もするさ」
老婆は木箱からいくつかの薬を取り出す。
「一見さんだからここまでしか売れないけど10金貨だよ」
高い……この量で10金貨も使うとは。
「代わりにこれで払いますわ」
「何だい?ウチはローン不可だよ」
令嬢は老婆の腕を掴んであるものを見せる。それは……
『帝都ギルド会員証。ルナ・ヴァルグレイ』
「ヴァルグレイ?あの吸血鬼一家!」
そう言う前に令嬢ルナは老婆を押さえこんだ。あまり近接戦闘が強くない顔所でも流石に余裕だった。
「若者呼ばわりとは失礼ですわね。これでもあなたが生まれたころにはもうこの見た目ですわよ?」
「おのれ!ラット!」
ラットと呼ばれた店主もすでに従者に変装したケルンとルドルフに抑えられていた。
「はぁ……まさか埃まみれの街じゃなくてこんな一等地で堂々と売っていたとは」
「灯台下暗しとはこのことですね。本当にすごいですマスター」
ルドルフは通信機を通じてレンにそう告げた。
グラントを尋問した結果、まさか闇の街ではなくこの貴族領域に近い一等地で隠れて売られていたとは知らなかった。実際どこに裏社会があるかなんて分からない物なのだ。




