第87話 競馬(前編)
「あの……流石の俺だって返さないわけじゃないぞ」
ルドルフは後ろの店主をたしなめた。
「じゃあ返す当てがあるって言うのかい」
店主が威嚇してくるので僕も渋々聞いた。
「あのルドルフは一体いくら借りたんですか?」
店主は3本指を立てる。
「さん?3金貨ですか?そのくらいなら何とか……」
「いやもっとだよ」
「30金貨?!そんな高額……」
「いや3白金貨だよ」
「「は、白金貨?!」」
僕とネコマールは声を揃えて叫ぶ。
この帝国の貨幣は主に金銀銅で賄われている。10銅貨でパンを買うことができ、銅貨100で銀貨に、銀貨100で金貨に換金できるようになっている。そして白金貨はその更に100倍だ。このレベルになるとまず貴族でさえお目にかかることは中々無い。支払いに使われるわけがなく、大体商会などの大口の取引で使われるレベルの金額だ。
「あの白金貨なんて手に入らないでござろう。白金貨は大体1枚動かすのにも上級冒険者が護衛につくことが必要なレベル」
「別に白金貨で用意しろとは言わないさ。300金貨同じ額を集めればそれでいい」
店主は腕を組んだ。そんな金額どうやって返すのさ~!
「だから用意すればいいんだろ。ここで用意すれば」
ルドルフは後ろを親指で指す。そこは競馬場だった。
「外からダブルポッパー!」
威勢のいい実況が響く。休日なためか競馬場は混んでいた。
「簡単に言えばここで何百倍に増やすって寸法ですぜ」
「そんなうまく行く訳無いでござろう。3連単を当ててようやくの金額」
流石のネコマールも渋い顔だ。
「そんな事よりパドック見ましょうぜ」
ルドルフは二人の肩を掴んでパドックに案内して来た。
パドックでは馬が周回している。色々な馬が周回しているけどその様子は様々だ。気性難で全く動こうとしない奴や逆に気持ちが入りすぎている馬。首の上げ下げも様々だ。
「今日は重賞でござったか。聞いたことある馬が色々」
ネコマールは出馬表を眺める。
その中でひときわ走りそうな馬が見えた。
「14番の馬……走りそうじゃない?」
「タワーオブハーツでござるか?あれはこのメンツだとどうなんでござろうか」
ネコマールは首をかしげる。その背後に影が落ちる。
「バカだね。タワーオブハーツは近走ずっと調子が落ちてるから買うもんじゃないよ。それよりすぐにマジカルインパクトを買ってきな。あれは近走の成績が良い」
店主は金貨の入った袋を部下に手渡す。
「近走の成績で言えばアカバネも捨てがたいと存じますが」
「あれは前走が強かったとはいえハンデが重すぎるよ。ここは切りだ」
店主も相当な競馬通らしい。
「じゃあ僕らも買おうか。ネコマール」
「御意」
2人で売り場に走って行くと。
「すみません。20歳以下の購入はできません」
と追い返された。そう言えば僕ってまだ10代なんだった。
「仕方ないでござるなぁ」
ネコマールが仕方なくなけなしの金を払って馬券を買う。
「で主殿は何を選んだんで?」
「タワーオブハーツ、アカバネ、ヅラヲメンテの3連単」
「渋いでござるなぁ。と言うかそれ一点買いなんで?」
「うん買い方分からないから」
「じゃあ拙者はマジカルインパクト1着固定のフォーメーションを組むでござる」
ネコマールはマークシートを塗っていく。
ルドルフは既に最前列を陣取っていた。
「遅かったですね。俺はもう買っちゃいましたよ」
「ルドルフ殿は早すぎるでござる。拙者と主殿はとりあえず銀貨1枚分で様子見でござる」
そう馬券をピラピラさせる。
「ふ~む。マスターはタワーオブハーツからの3連単と。ネコマールは大丈夫なのか?その馬券金貨1枚表記だぞ?」
「へ?」
ネコマールはもう一度僕も馬券を見る。そこには購入金額が銀貨ではなく金貨と書かれていた。
「あ~!拙者のなけなしの収入が!」
ネコマールはうなだれるもすでに遅い。すぐに勝負の時は始まる。




