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第44話 湖の怪物

 カーム湖は帝都から1時間くらい走った先にある湖であり、名前の通り風が吹いても一切水面が荒れないことで有名である。その畔には緑色の肌をしたリザードマンの集落の一つがある。彼らは魚を捕り、自分たちで消費したり近くの帝都商人に売りながら生活していた。


 あるリザードマンの少年はいつものように矛を持って魚を獲りに行く。それが日常だからだ。しかしこの湖はいつもと様子が違っていた。


「なぁこの湖ってこんなに荒れてたか?」


「あ?荒れてる訳無いだろうよ。ここをどこだと思ってんだ穏やかを絵にかいたようなカーム湖だぞ?」


「でも、向こうの小屋って使ってないはずなのに明かりがついてんだよなぁ……」


「どうせ村のジジババ共が物置か作業小屋にでもしてんだろ。さぁ行くぞ」


 親友のリザードマンに小馬鹿にされ自分でも思い直す。目の前の水面はやや荒れている。中で魚の群れでも泳いでいるのだろうか?しかし彼の疑問は最悪の形で回答されることとなった。




 バシャバシャ!と穏やかの正反対を行く音が鳴り響くと水面が荒れ始めた。


「おいおい何だよ!穏やかじゃねぇのかよ!」


「それはこっちが言いたいぜ。逃げるぞ!」


 少年たちは矛を持ったまま逃げ出す。


 少年たちを待っていたのは集落で一番長く生きているというリザードマンの老人だった。


 彼はいつもは寝ているのか分からない目を大きく開け少年たちに問う。


「貴様ら……あの方の怒りに触れたのか愚か者めが」


「俺らじゃねぇよジジイ!勝手に目覚めたんだ」


「あの方が勝手に目覚める訳無かろう。あの生物はここ数十年は眠り続けていらっしゃったのだぞ」


「あの生物ってジジイは知ってるのかよ」


 少年は老人の肩を揺さぶる。


「あれは湖神様じゃよ」


 老人は逃げながら語り始める。


「ずっと昔のことじゃからワシらでも実際に見た訳ではないが。あの湖が穏やかなのは生物が穏やかだからだけではない。湖底で調停者として眠り続けている生き物がいるからじゃよ」


「調停者ってそれが湖神様?」


「左様。湖神様は巨大な魚の姿をしておるんじゃ」



 湖の荒れ狂いが最高潮に達すると水面を割って巨大な魚の口が現れた。口には出現するときに巻き込まれたであろう多くの魚が入っており、ソレはすぐに飲み込んでしまった。


 騒ぎを聞きつけたリザードマン達も絶句する。それは自分たちの知る魚では無いからだ。色はオレンジ色をしているがその大きさがとんでもない隣にある小屋を嚙み砕き腹に収められるほどの大きさだ。


「おいおいこんな生き物がいたのかよ」


 少年たちは足が震えるがここで火に油を注ぐものが現れる。


「死ねクソ怪物!」


 勇気のあるものが矛を思いっきり投げつける。それも空しくソレに矛を噛み砕かれる。そしてこちらをギロリと見る。


「何だと……」


 矛を投げたものは恐怖する。



「お待ちなさい」


 それを声が止めてしまう。


「誰だ!」


 小屋の扉が開き瘦せこけた黒衣の男が現れる。背は高いようだが生憎比較対象が対象なのですぐに飲み込まれてしまう様に見える。


 巨大魚はすぐに口を開き飲み込もうとするが黒衣の男は拳大の物を投げ入れた。


 巨大魚はしばらく暴れるが大人しくなり、黒衣の男はそれに触れる。


「よしよし良い子ですねぇ。それにしても大きい流石10年待った甲斐がありましたよ」


「何っ!」


 この男がこの怪物を呼び起こしたのか。先ほどまで味方だと思い安堵していたリザードマン達の間にも緊張が走る。


「さぁこれでパズルのピースは全て揃った。いよいよ組み合わせる時です。まずはコイツの腹ごなしに……向こうのトカゲどもを食わせましょうかね!」


 怪物が跳ねあがりリザードマンに向かってくる。リザードマンの中にもいよいよピンチと言う気持ちが広がっていく。


「おいおいこれは俺ちゃんの人生最大のピンチですか~?」


「パパ……僕たち食べられちゃうの?」


「誰かすぐに帝都の人間を呼べェ!」



「その必要はない」


 少年たちが声の方に目を向けるとそこに居たのは蒼い髪をした少年だった。


 そこに英雄たちが参戦する。そしてそれは帝都史に残る大激戦へと発展するのだった。

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