第101話 悲報
朝の帝都。毎日のように露店が並び朝から活気のある声声が響くにぎやかな場所。しかし今日ばかりはそのような明るい喧噪では無かった。
人々の視線は一つの場所へ集まっていた。広場の掲示台。そこに一人の少年が括りつけられていた。
男爵にして冒険者ギルドマスター。かつて帝都を襲った魔物軍団を退けた英雄。レンだった。
しかしあの時のような元気さはなく、胸には貫通傷の痕が残っている。目を閉じられているのは最期の慈悲であろう。
「な、何でだよ何でギルドマスターレンが……」
「S級じゃなかったのか?それを始末できるなんてどんな大物だったんだ」
「そもそも何でこんなことに……」
しかし別の声もある。
「だから言ったんだよ。異種族と関わる邪教徒だから」
すぐ近くで怒声が飛ぶ。
「何言っておる!」
杖を突いた老人だった。
「こやつはあの時の襲撃から守ってもらった英雄であるぞ!」
「そうだ。口を慎め若造。最前線で戦ってんだよ!」
だが反論する者もいる。
「それがどうした。教会が言ってるんだぞ?きっと俺たちを信用させて帝国を乗っ取るつもりだったんだ」
「そもそも外様だしな。碌なもんじゃなかったんだろう」
広場の空気は錯乱していた。衛兵が抑えているもののいつ衝突が始まってもおかしくない。
その人だかりを押し分けるようにして現れた者たちがいた。
まずはネコマール、ケルン、サラ、シルフィだった。
彼は人々の声など聞いていない。ただまっすぐ前の自分の主人を見る。
足が止まりしゃがみ込む。
「主殿……。冗談でしょうこれはどこかの商会で手に入れた精巧な人形であって本物は生きているはず。そうであろうケルン殿」
「これは本物の旦那だよ。まったくこんなにあっけなく逝っちまって……誰だよこんなことしやがったのはよ!」
途端サラとシルフィが泣き崩れる。
「だってレンちゃんが亡くなっちゃうなんて。ウチもう耐えられん」
「こんなことが許されていいの?私たちより先に逝くなんてダメ」
表情をあまりださないシルフィですら顔がくしゃくしゃになっている。
それは昨日元気に話していた上司でそして大好きな少年だったから。
マリアが呼びかける。
「……レン」
返事はない。それでも認めたくなかった。諦めたくなかった。
手から剣がおち、乾いた音を立てていた。
「レン……レン」
二度呼ぶ。
三度呼ぶ。
返事はない。
その後ろでアーロンが立ち尽くしていた。
巨大な拳を握りしめる。
爪が掌に食い込むほど強く。
「オイ……レン。俺様より先に逝くとか何考えてんだよ」
声がかすれる。いつもなら「うるさいです」と嫌味を言う悪魔も今日ばかりは黙っている。
「……そうですかい」
小さく呟く。
「結局、アンタのことを守れなかったか」
そして一番レンのことを知っていた令嬢は馬車の中から出てこなかった。
「気分が悪く大切な身内に恥を晒すので出てきたくないと」
「構わねぇよ。俺様より長い付き合いで姉弟みたいなものだと聞くからな」
アーロンは振り返らずに答える。
悲しい風が吹く。そしてそれが馬車の御簾を剥ぐ。
途端令嬢の中で結界が崩れた。突然飛び出すとレンの遺体に縋り付いたのだ。
「レンちゃん……レンちゃんレンちゃん嘘ですわ。だってあなたは私のそしてあの方の忘れ形見……」
このままだとどんな禁術を使うかもわからず、慌てて皆で止める。
「お嬢のこんな姿見たこと無いぜ」
これが皆の反応だったという。
やがて帝都の中枢貴族たちが訪れる。人々が道を開ける。
「嘘だ……本当にやられていたなんて」
だが今の彼に威厳はない。
一歩ずつ震える足で近づく。
そして上にある『邪教』の文字を見て拳を叩きつける。
「ふざけるな」
わなわなと震える。
「僕のいや私の友人に何をした!」
怒りが滲む。
だがそれ以上に広場を支配していたのは、
どうしようもない喪失感だった。
振り上げようとした拳をルーン子爵が抑え込む。
「落ち着かれよ若きもの。本当におたくは親子そろって……別に良いかの」
そこにある老人が口を挟む。
「これではあの時と同じではないか」
ふとある老人が口を開く。それはアランだった。
貴族庶民問わず全員の注目が集まる。
「アランよ。あの時と言うのは30年前のことであっているだろうな」
「無論。ルーン子爵殿。あの帝国史に残る大事件の日のこと……」
その言葉を聞いたギルドメンバーの反応は様々だ。あの時のことを知っている者。知らない者。それぞれの記憶が交差する。
そうあれは30年前のことだった。




