五十九頁 牛 参 『屋上②』
五十九頁
牛 参
『屋上②』
「ちょっと⁉︎ 女神呼び出せとか言われたんだけどどうする⁉︎」
「こっちが聞きたいよ‼︎ どうしよう⁉︎」
前日、阿久津に三上を呼び出す様に言われていた二人はてんやわんやだった。
「もうウチ、スクールカーストとかどうでもいいと思っちゃってんだけど?」
牛嶋は、元も子もない事を言った。
「ウチも……そんな事もうどうでもいい」
嶋牛も同じ気持ちだった。
「でもこれで約束破ったら、印象悪いよね⁉︎」
「確実に、目付けられる気がする……」
「じゃあ女神に宣戦布告しに行く⁉︎」
「で、で、で、出来ねぇぇぇぇぇえっ‼︎」
窮地に追いやられた二人が思い付いた策は、案外単純なものだった。
「手紙を忍ばせよう!」
「手紙? どういう事?」
「果たし状みたいな感じで、屋上に誘う手紙を引き出しにでも入れて置こう!」
「いいね! 不安で覆い尽くされて、何のアイデアも浮かばなかったのに、やっぱり晶ちゃんは凄いや!」
牛嶋はノートを一枚切って、シャープペンシルで文字を書き出した。
「それじゃあまずは、おい! この教室に巣食う魔物め! 害悪なんだよお前は。成敗してやるから放課後屋上へ来い‼︎ こんなもんで良いかな?」
「絶対やり過ぎだねぇ⁉︎ 別にウチらは呼び出せりゃ良いんだからそこまで喧嘩売る必要無くない⁉︎ 言葉のチョイスも何か変だし‼︎」
「そ、そうかな? 喧嘩を売らない感じね! じゃあこうしよう、あたちピーちゃん! あなたの事ずっと見守って来た妖精だお? ペンタペンタペンタペンタペンタ、どうかなぁ? 元気、送れたかな?」
「何言ってんだよ晶⁉︎ 戻って来い‼︎」
嶋牛が牛嶋の肩を掴み、ユラユラと動かした。
「はっ⁉︎ ウチ何してた⁉︎」
「分かん無い……もう良いよ、戻って来てくれただけで嬉しいよ……」
「あっ、手紙だよね。どうしよ……」
「何かさ、果たし状っていうのに捉われてない? 呼び出せりゃ良いんだから、悪い事書く必要無いんだよ!」
「そうか! それならこういうのはどうだ? 何か、あなたの事を考えると胸が熱くなるんです。この想い、伝えたいから、放課後屋上に来てくれますか?」
「そこまでしなくて良いから‼︎ 丁度良いの思い付かないのかよ⁉︎ ウキウキして屋上来て真逆の用件だったら可哀想でしょ⁉︎」
「否定ばっかして‼︎ さやかは丁度良い文章書けんの⁉︎」
「えっ? まぁ、例えば、今日の放課後、屋上に来て下さい。くらいで良いと思うけど?」
「そ、それだぁ‼︎」
「晶ちゃんの失敗例をいっぱい見たから思い付けたんだよ? これを、女神の引き出しに入れておこう!」
授業の合間の休み時間に、三上がトイレに行った隙に引き出しにその手紙を入れた。
「三上、気付いてくれるかな?」
「気付いてくれると良いね?」
牛嶋と嶋牛は、ずっと三上を見つめていた。そして、昼休みにその時は訪れた。
「あっ! あれってまさか⁉︎」
「手紙に、気付いた⁉︎」
二人は、そのまま意気揚々と二組に足を運んだ。二人に気付いた阿久津が近寄って来た。
「晶ちゃんとさやかちゃん? 約束、守ってくれたんだね?」
「えっ、そ、そうです」
「本当に来るか、分かん無いですけどね?」
「はぁ? そいつ周りに友達を作らせ無い様な環境作ってるんだよね? そういう悪い事しててさ、呼び出されて来ないとかあり得なくない? 自分が悪い事してる癖に‼︎ 自分に矛先が向いたら逃げ出す様な卑怯者なんだぁ⁉︎」
「ヒィィィィィィィィイッ‼︎」
取り敢えず、二人は自分のクラスに戻った。
「阿久津、あいつヤバくない?」
「ヤバいよ。言って無かったっけ?」
「女神の事めちゃくちゃ悪者にしちゃってんじゃんウチら‼︎」
「それが、目的だったんじゃ無いの?」
「ここまでとは思わなかったの‼︎ それに、そこまで酷い事されて無いし……」
「もう引き返せ無いの! 鬼、悪魔の手を借りるという事は、そういう事なの。ウチらは黙って、女神の死を見届けよう」
「……うん」
放課後、二人は阿久津と狐森と合流した。四人で、屋上へと向かった。
「来てるかな……」
「手紙見てたし、来てるでしょ?」
「あれ? 何かおかしくない?」
二人の囁く様な会話を、狐森は聞き逃さなかった。
「へっ⁉︎ 何がおかしいの?」
牛嶋が取り繕った。
「手紙って何? ちゃんと呼び出したんじゃないの?」
狐森に問い質された。
「いや、来てるっしょ? これで来て無いんだったら、恐れをなして逃げたって事になるよね!」
「本当に来てるんだよね? 阿久津と鬼釜はマジヤベぇから、気に喰わない事あったらあたし達帰れなくなるぞ?」
「ヤベぇって? あなた阿久津と鬼釜の友達じゃ無いの?」
「あっ、いや、何でもない……もう、帰りたい」
「帰りたいってはっきり言ってんな⁉︎ あんたもこっち側の人間じゃん!」
「こっち側って、あんた達もこんな展開望んで無いって事⁉︎ じゃあやんなよこんな事! 迷惑なんだよ‼︎」
「そ、それは……って阿久津が屋上の扉開いたよ?」
「女神居てくれ……でも、居たとしても修羅場じゃん……」
屋上への扉を少しだけ開き、覗いた阿久津が立ち止まり言った。
「あいつが女神って奴か?」
「居たんだ良かった! 良かったのか……?」
「もう後はなるようになれだよ!」
阿久津のせいで見えないので、三人で現状を把握しようと努めた。
「何か独り言ばっか言ってるなぁ?」
阿久津が状況を報告してくれた。
「独り言? どんなのですか?」
「……きょうこって子と話してる」
阿久津はありのままに伝えた。
「えっ? 独り言ですよね?」
「きょうこ達と揉めてる」
阿久津は、ありのままに伝えている。
「えっ、えっ、あの⁉︎ 何人か居るんですか⁉︎」
「ちょっと黙ってて」
説明が面倒になり、阿久津は実況をストップした。
「へっ? あ、あっ、はい……」
暫くの時が流れた。阿久津は屋上への扉を少しだけ開いたまま覗いているので、周りの者に状況の把握は難しかった。牛と狐の三人は、阿久津の表情の変化に困惑し続けていた。
「終わった。よく頑張ったね……」
阿久津が、ねぎらいの言葉を放った。
「何が、あったんですか……?」
「今日はもう、あなた達は帰りなよ」
「えっ?」
「後は私一人で何とかするから、じゃあね」
そう言うと阿久津は、屋上へ出て行き、扉を閉めた。
「なにこれ? 意味分かんなくない⁉︎」
牛嶋が嶋牛に聞いた。
「わ、分かんないよ……き、狐森だっけ? あなた悪魔と仲良いんでしょ⁉︎」
嶋牛が狐森に聞いた。
「そんなんじゃ無い……早く帰れるなら、帰った方が良いじゃん!」
「でも……中で何が起こってんのか気になるじゃん!」
牛嶋が屋上へと続く扉に耳を付けた。
「き、気になる!」
嶋牛が続いた。
「しょ、しょうがないからあたしも!」
牛と狐の三人で、屋上へ続く扉に耳を付けた。その時、その扉がゆっくり少しだけ開かれ、阿久津の血走り見開いた瞳が姿を現した。
「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁに、してるの?」
口では無く、その眼から発せられたのではないか? という錯覚をする程の奇妙な声で阿久津は唸った。
「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ‼︎」
三人は、そのまま階段を全速力で駆け降りて行った。逃げる事を優先した。そんな態度を取れば、阿久津に悪い印象を与えかねないのに。狐森は、阿久津が次の日教室で顔を合わせるクラスメイトである事さえ忘れていた。




