五十八頁 鳥 玖 『優子と恐子と叫子と凶子②』
五十八頁
鳥 玖
『優子と恐子と叫子と凶子②』
三上が私を頼って来るなんて想像も付かなかった。一昨日は蛇喰の用事があったから行けなかったけど、昨日は何も言って来なかった。今日は、私から声掛けてあげるか。
昼休みに、自分の席に突っ伏す三上に話し掛けに行った。
「ねぇ? 今日なら大丈夫だけど?」
三上は、この世の終わりかの様な表情で私を見た。
「あぁぁぁ? あぁ小鳥か。何の用?」
お前が言って来たんだろ?
「一昨日言ってた用事ってやつ、もう良いの?」
「用事? あぁぁぁ、そんな事もあったな……」
やつれた? この二日で何があった?
「まぁ別に、あんたがもういいなら良いんだけど」
背を向け離れ様とした時に、腕を掴まれた。
「えっ? 何?」
生気の無い目を向けられた。
「なぁ? 面倒事引き受けてくれないか?」
「面倒事? ってなに?」
「こんなのが引き出しに入ってたんだよ」
三上は引き出しを漁り、一通の手紙を取り出して渡して来た。
「なにこれ?」
「さぁ?」
私はその手紙を受け取り、開いて見てみた。そこには、「今日の放課後、屋上に来て下さい」と書かれていた。
「ラブレター⁉︎」
「分かんねぇ。もしかしたら果たし状かもしれねぇし、ヘヘッ」
何が可笑しい?
「何で私に見せたの?」
「代わりに行ってくれねぇか?」
「何でだよ⁉︎ 絶対おかしいだろ⁉︎ ラブレターにしても果たし状にしても私が行くのおかしいだろ⁉︎」
「かもなぁ……」
「はぁ⁉︎」
ヤバッ、コイツ完全に心壊れてる。何があった?
……………………
「んだよ⁉︎ 何があったんだよ⁉︎」
「えっ、へへっ、気になるぅう?」
「気になんねぇよ‼︎」
めっちゃ気になるわ‼︎
「そりゃ気になんねぇわな……わたしの事なんて、お前はどうでも良い訳だし。何か、恥ずかしいよ。わたしは、どうすりゃ報われんだよぉォォォォオッ⁉︎」
「大声出すなよ‼︎ 何かお前変だぞ⁉︎ 何があったんだよ⁉︎」
「だから代わってくれたら話すからぁァァァァァァァアッ‼︎」
「自分でやれよ‼︎ 何で代わって欲しいの⁉︎」
「だって……普段だったら行ってたと思う。でも、こんな落ちてる時に行ったら……」
「行ったら?」
「お、お、お、オカシクなっちまうよぉ⁉︎」
もう既におかしいけど?
「分かったよ! 代わりに行ってやるから、その手紙頂戴」
「マジかよ? マジで言ってんの……?」
若干引いてんな? 確かにこんな事引き受けてやる奴なかなか居ないよね。
手紙を受け取り、放課後一人で屋上まで足を運んだ。
まだ来ないか? もしかしたら悪戯で、いつまで経っても来ないのかもしれない。でも、私は待つのは得意だし、物思いに耽る事は慣れっこだ。
はぁ、何でこんな事引き受けちゃったんだろ?
優子は本当にお人好しなんだから。
恐子? 何? 嫌味言いに来たって訳?
そんなんじゃ無いけど、危ない事に首突っ込むべきじゃ無いと思うんだ。
危ない事って?
まず、三上と関わる事だよ! だってあの子、殺人衝動とかいうヤバいの抱えてるじゃん?
だよね……でも、恐子には言って無かったかな? 私ね、あの子と似た様な部分があるんだ。
優子と三上が、似ている? 私には、とてもそうは見えないけどね……
ふふっ、心配してくれてありがと。いずれ、話すよ……だから、放って置けなくて。
私には言って無かったって、誰かには言ったって事? 何それ……誰⁉︎ 叫子の事? それとも凶子の事⁉︎
違うよ。友達に……話したんだ。
友達⁉︎ 冗談止めてよ。あなたに、友達なんか居ないじゃない‼︎
……ちょっと待って。聞き捨てならないんだけど? 私に、私には……友達が出来る訳無いって言いたい訳⁉︎
そ、そんな事を言いたい訳じゃ無い。ただ、ずっと、私達だけで楽しくやって来たじゃない?
なにそれ? 恐子はずっと、私が友達を作る事を応援してくれたのに! なのに……心の中では、お前に友達なんか出来る訳無いって笑ってたのかよ⁉︎
お、落ち着いてよ! そうじゃ無くて、そんな事が言いたい訳じゃ無くて! ただ、ゆ、優子は……私達だけじゃ、満足出来無いの?
えっ?
最近、私達を呼んでくれる事が減ったよね? ……私は、優子に友達が出来て欲しいって心から思っていた。でも、友達が出来たら、私達の居場所は無くなるの? 本当の友達が出来たら、私達はあなたの心の中から消えてしまうの?
そんな‼︎ そんな訳……
そんな訳無い‼︎ でも……私の心の中は、今、猫ちゃんと、羊子で埋め尽くされている。二人の事を考える時間が多過ぎて、きょうこ達を蔑ろにしていた。さっきだって、私は恐子の気持ちに気が付かないまま、自分の主張を捲し立てた。
きょうこ達を不安にさせたのは私のせいなのに、恐子はずっと私を気遣いながら喋ってくれた。何年間も寄り添ってくれたのに、友達が二人出来たからって、蔑ろにしていい絆だったのかよ⁉︎ 私を、いつも傍で見守ってくれたのは誰だったのか、ちゃんと思い出せよ‼︎ 恐子に……あんな悲しいセリフ言わせてんじゃねぇ‼︎
私は、恐子の目を見てはっきりと言った。
ごめん恐子‼︎ 叫子と凶子も‼︎ 私、今は新しく出来た友達の事でいっぱいいっぱいで、頭の中満タンで、みんなの事、蔑ろにしてた……でも……
きょうこ達の視線が、棘の様に身体に刺さる。
ゆ、優子、勇気を出せ! 今しか、今伝えなきゃ! いつ伝えられるって言うんだよ‼︎
私‼︎ みんなの事が大好きなんだ‼︎ ごめんなさい、ごめんなさい‼︎ でも私今、悩んでて、迷ってて、きょうこ達の事を考える時間が減ってしまうかもしれない! それでも、もっと余裕を持って新しく出来た友達と付き合える様になったら、きっとみんなに会いたくなる! その時まで、待っていてはくれないかな?
私達を不安にさせているんだよ? 今の友達を切って、私達とだけ向き合おうとは思わないの?
叫子……ごめん。思わない! ずっと私と寄り添ってくれたあなた達も、新しく出来た友達も、どっちも、縁を切る事なんか出来ないんだよ‼︎
その言葉が、聞きたかったんだ。
えっ?
だってそうだろ? そこで簡単に新しい友達との縁を切るって子の事、信用出来無いじゃないか?
それって……試してたって事⁉︎
優子がお怒りだぁ‼︎ みんな逃げろー!
凶子まで⁉︎ 本当、次会った時は口聞いてやんないんだからね!
微笑みながら、三人の後ろ姿を見送った。




