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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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九十七頁    鳥 拾参   『覚醒』

 九十七頁

 

 鳥 拾参

 

『覚醒』

 

 三上の奴、悪びれながらも、本当は阿久津に考えを改めて欲しかったんじゃないか? 自身が刺されてまで、阿久津に自身の考えを押し付けていた。

 

 やっと丸く収まりそうだな。ってか大丈夫か? 三上、めっちゃ血出てんだけど?

 

「もう、いいんだろ?」

 

「…………」

 

 三上が阿久津に問い掛けた。床は結構血で染まってるけど、ちゃんと後片付けはしといてやるよ。

 

 その時、遠くから大きな声が聞こえて来た。

 

「はぁーい‼︎ おれーのなーまえーははーくしーかたーくぞォォォォォォォォォォォォオッ‼︎」

 

 なんだ? 嫌な予感しかしないのだけど?

 

「はぁーい‼︎ そうですね‼︎ はいはいはい! 勿論! 仰せの通りに! こうしてこうして! 行って参ります!」

 

 私達には、関係無い事だよね?

 

「ウォォォォォォォォッ‼︎ ここが五組かッ‼︎ う、う、う、ウォォォォォォォォォォォォォォォォオッ‼︎」

 

 んだこの男⁉︎ 急に現れたと思ったら、ブーメランパンツ一丁なんだけど⁉︎ 絶対ヤバい奴! コイツ、絶対ヤバい奴だよ‼︎

 

「おい小鳥? お前アイツ何とかしろよ? わたしは、流石にもう無理」

 

 三上に頼られたし‼︎ コイツ自分が弱ってる時ばっか頼って来やがって! まぁ、今回は頑張ってみるよ。それにお前、腹から血がドバドバ出てるしな。

 

 変態ブーメランパンツ男は、五組の教室に入って来て、私達を静かに見回した後、雄叫びを上げた。

 

「五組に行って一組の生徒を守れと言われても、一組の生徒がどいつなのか分からないじゃないかぁァァァァァァァァァァァァッ⁉︎」

 

 何言ってんの? そもそも、お前が誰かを守るって側の人間か?

 

「先生……」

 

 はっ? 阿久津よ? 何言ってんの? 

 

「いや、あんなのが先生な訳無いでしょ? どっかで湧いた変質者だよ!」

 

 阿久津はまだ頭が混乱しているのか?

 

「いや、あの人、私のクラスの担任の先生なの」

 

「はっ?」

 

 ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ⁉︎

 

「あの、ブーメランパンツ一丁の奴が、お前らの担任なの⁉︎」

 

「そういう事になるね……」

 

 そういう事になるね⁉︎ どういう事⁉︎ あんまり認めたくは無いけどもって訳?

 

「お、俺は取り敢えず、守れば良いんだな! 一組以外の奴から、誰かを守れば良いんだな! ……阿久津? お前は、一組の生徒じゃ無い。二組……そうだ! 俺のクラスの生徒だ‼︎ お前が悪いんだなぁ? お前を懲らしめてやれば良いのかァァァアッ⁉︎」

 

 はっ? ちょっとマジでなんなのコイツ⁉︎ こっちゃもう締めに差し掛かってんだよ‼︎

 

「アイツ! お前を懲らしめるとか言ってるぞ⁉︎ いつもあーなのかアイツ⁉︎」

 

「ちょっと、良く分からない……」

 

 なんだよ阿久津……心はここに無いみたいな、悲しい顔すんなよ。

 

「お前らそこをどけ! お、俺が、俺がそいつに痛い思いをさせてやるからな!」

 

 ヤバ過ぎだから‼︎ んだよアイツ! どうすれば良い? どうすれば……これ以上この子を傷付けずに済む……

 

「オイ‼︎ じりじり近付いて来んぞ? どうすんだよ小鳥ィィィィィィイッ⁉︎」

 

「煽んなよ‼︎」

 

 三上? お前煽り癖あるぞ⁉︎ こっちだって必死で考えてんだよ! でも、腕力で男に敵う筈無い! ……あっ。十六文字に貰った紙切れ。確か、ポケットに入れてある。

 

 この紙切れを貰った時、十六文字は、「折り畳まれた中の文字を絶対に自分では見ないで下さい」と言って来た。「何で?」と返すと、「その中には、見た者を催眠に掛ける魔法の言葉が書かれています。優子さんも掛かりづらいとは言っても、記憶が飛ぶ程度の催眠には掛かったので危険です。何かあった時には、その紙切れを開いて相手に見せて下さい」と言われた。

 

「これを見せれば催眠に掛かるの?」

 

 確か、十六文字にそう質問した筈だ。

 

「いいえ、それを見せても予備催眠にしか掛かりません。しかし、予備催眠状態になると思考が停止するので、暫くの間動かなくなります」

 

 おっかない力だな?

 

「いつもはそこから命令したりするんだ? じゃあ、私が命令したらその通り動くの?」

 

「残念ながら、わたくしの言葉しか聞きません。色々試したんですが、それはどうにもなりませんでした」

 

 色々試した? 人体実験みたいな事してんだね……ちょっと引いたわ。

 

「分かった。ありがとう! 有効に使わせてもらうね!」

 

「ただ、催眠が効かない人も居るので、それだけは忘れないで下さい。まぁ、統計学の数値では一割にも満たなかったのですが。もし……大事な場面でそれが効かなかったとしても、わたくしを嫌わないで下さいね?」

 

「大丈夫。分かってるよ!」

 

「それと、最近予備催眠だけで何も命令してないのに暴れ出す人も居たりするんで気を付けて下さいね? 猫宮さんとか……」

 

「猫ちゃんも……分かった。気を付けるよ」

 

 ————

 

 今、視界に猫ちゃんは居ない! さぁ! 確か、俺の名前ははくしかたくぞうと言っていたな?

 

「はくしかたくぞう‼︎ こっちを向けぇぇぇぇぇぇえっ‼︎」

 

 魔法の紙切れを開いて見せた。

 

「な、何だ! 俺を呼ぶ声が! あれは……な、な、なんだ⁉︎」

 

 良いぞ! こっちを凝視している! 催眠に掛かれ。予備催眠だっけ? まぁ何でも良い。お前の動きを止めてやる!

 

「小鳥ィィィイッ⁉︎ 何遊んでんだよ‼︎ って、あっ?」

 

 三上黙ってろよ! これで、この変質者を無力化出来る筈なんだから!

 

「それは……何だ? 俺の邪魔をするなよ⁉︎ 何なんだお前は!」

 

 効いて、無いね。結構見てたもんなぁこの文字。だって九割成功するんでしょ? 一人目で十分の一のハズレ引くの私⁉︎ めちゃくちゃ運悪くない⁉︎ 

 

「あ、あぁぁぁ……あぁぁぁ……」

 

 どうした三上? んっ? この紙見てっけど、どうした? おーい?

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ひぃぃいさしぶり、狂子ぉ? アハハハハ、アハハハハハハハハハハララララララララアァーハハハァァァァァアッ‼︎」

 

 聞き間違いかな? だって、だってさぁ?

 

「三上? 久しぶりって何言ってんの? ……ってか、何でそんなに笑ってんの? おーい?」

 

「ア、アアア! 泣かないで? ゴメンね? 大丈夫だよ? お母さんここに居るよ? だから、ねっ? 泣かないで? 狂子ォォォォオ?」

 

 コイツが催眠に掛かんねぇって言った奴誰だよ⁉︎ 出て来いよ‼︎ あっ、コイツが自分で言ってたわ。

 

 三上は、予備催眠等なんのその、完全に自我を崩壊させ催眠の世界に入り込んでいた。

 

「おい阿久津? よく分かん無いけどあの変態の男はお前を狙ってるらしい。一緒に、この教室から出るぞ!」

 

「もういい。何でもいい。放っておいてよ」

 

「はっ? 何だよそれ⁉︎」

 

「だって、あなたは私の人生を終わらせてくれる主人公じゃ無かったんだもん。やっと、運命の人に出逢えたと思ったのに……私の気持ちも、少しくらい分かってよ」

 

「分かんねぇよ‼︎ 私が、主人公? 何で私がお前の人生の主人公になんだよ⁉︎」

 

「もういい。喋るの止めてよ。何一つ分からないし、分かり合えないから」

 

 阿久津の真っ黒な瞳が濡れて輝いた。見惚れているとやがてそれは決壊し、大粒の涙が幾つも乾いた床に落ち染みになっていった。

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