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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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九十五頁    羊 捌   『悪魔の黙示録 ⑥』

 九十五頁

 

 羊 捌

 

『悪魔の黙示録 ⑥』

 

 はぁー。もう、まったく……うんうん。それで? あぁーそういう事なんですね。はいはい。うんうん……そう来ましたか。誰ですかその男は⁉︎ はいはい。あーそうなんですね? そうかそうか。はいはい……何でそうなるんですか? それで⁉︎ うんうん……うーん……

 

 全然わたくしの事気付いてくれないんですけど⁉︎ ずっとこの教室の中で読書している振りしてるんですけど⁉︎ 

 

 なんだろぉなぁ! 頼りにされ過ぎるってのも嫌なんだけど、蚊帳の外過ぎるのも嫌なんだよなぁ! わたくし、自分で言うのもなんですけど、めちゃくちゃ強い力持ってますよ? 折角あなた達の仲間内に居るんですから、もっとわたくしを有効活用したいとは思わないんですかね⁉︎ さっき鬼釜さんが関係無い奴出て行けって言った時に出て行っても良かったんですけど、わたくし、残る選択をしました。その時点でもう腹は据わってるのに、誰にも声掛けられないんですけど⁉︎

 

「それで本当に阿久津さんが死んじゃってもあなた、平然で居られるの⁉︎」

 

「それは、神のみぞ知る、だなぁ?」

 

 わたくしなら、神のみぞ知る答えを書き換えてさえみせるのに……

 

「あ、あの? 十六文字だよな?」

 

 へっ? やっと声掛けられたと思ったら、こんなシャバい小僧にかい⁉︎

 

「犬養さんでしたかね? 何ですか?」

 

「何ですかって、十六文字こそ何してんの? こんな修羅場、居たく無いだろ?」

 

 随分弱虫ですねあなた? あんまり発言権無かったみたいですけど、あなたこそ何でこんな所に居座るんですか?

 

「別にわたくしには、この場が修羅場かどうかなんて関係ありません。わたくしには、そんなものをひっくり返す力がありますんで」

 

 あなたと一緒にしないで下さい。

 

「……そうか。そうだよな。あたしさ、本当何も無くてさ。何か、空気読め無いみたいなんだよあたし。ここに居ても、何も出来なくて、強いなぁ十六文字は……あたしは、あたしは……弱くて、どうしようもなくてさぁ……」

 

 ちょ、ちょっと⁉︎ 泣かないで下さいよ⁉︎ ごめんって! だって……

 

「あ、あの……わたくだって、催眠術っていう力が無ければ、ただの凡人なんです。あなたと、いやあなたより、皆さんとの関係性は薄い。だから、そんなに落ち込まないで下さいよ……」

 

 何故か、犬養さんの言葉に、この心を抉る何かがあった。そんなもの、本当はとうの昔に気付いていた。

 

 わたくしから、催眠術を取ったら、何も残らない。

 

「はぁっ? っいや、十六文字は催眠術無くたって、三上と対等に喋れるじゃん? 圧っていうの? 良く分かん無いけど強いじゃん?」

 

「それは……」

 

 自分には催眠術があるからっていう驕りだったんです。それが無ければ多分、自分に自信なんて持て無くて、何も無いまま過ごしてる。

 

「良く分かん無いけど、お前凄いよ。だってあたし、他人に胸張って言える特技なんか無ぇもん。そういうのが、自信に繋がんのかな?」

 

「はっ⁉︎」

 

 今、気付かされた。催眠術はわたくしの、自信に繋がっていたんだ。催眠術があるおかげで、強く生きて来れたんだ。

 

 誰だって、誇れる物があれば胸を張って生きれる筈なんだ。この子だって! 犬養さんでしたっけ? この子も何か誇れる物が自分の中に出来た時、大きく変われる気がする。

 

「十六文字?」

 

「大丈夫……あなたに教えてもらいました」

 

「えっ? あたしは別に……」

 

 何も持っていないあなただからこそ、気付かせてくれたんです。きっとあなたにも、誰かが代わる事の出来ない力があるんですよ?

 

「あなた達⁉︎ 一体何をしてるんですか⁉︎」

 

「あァァァッ? また変な奴来たな?」

 

 鬼釜さん。あなたに変な人認定受けたく無いんですけど?

 

「十六文字さん居たの⁉︎」

 

 傷付くわ。まぁ、存在感消しては居たんだけど。

 

「天羽さん? あなたは、この教室から抜け出したいのですね?」

 

「う、うん。でも……」

 

「はっきりしなさい‼︎ ここを、通りたいんですね?」

 

「うん……通りたい!」

 

「それなら、わたくしが手を貸すしか無いじゃないですか⁉︎ 初めから素直に、手を貸してって言え無いんですかあなたは⁉︎」

 

 そんなの、こうなる事が分かって無かった天羽さんに言うのは間違ってると分かってる。でも、何か嫌味の一つでも言いたくなっちゃったんですよ‼︎

 

「手を、貸してくれるんだね? ありがとう! 羊子ちゃん?」

 

 ここで下の名前で呼んで来るか⁉︎ 意外とこの女、人転がしの様だな⁉︎

 

「白鹿先生? そこ、退いてもらえますか?」

 

「何を言っている? まだ、話しは終わって無いだろう!」

 

「話し合っても、無駄な様ですね?」

 

 わたくしは、白鹿教諭の眼前に人差し指を立て、魔法の言葉を唱えようとした。その時。

 

「待て十六文字‼︎ 無闇矢鱈にその力を使うんじゃない! せ、先生が、先生が何とかしてやるから⁉︎」

 

 えっ? はぁぁぁぁぁァァァアッ⁉︎ 猪本教諭が、反対側の扉から勢いよく乱入して来た。何しに来たんですかあなた⁉︎

 

「おまっ、猪本教諭⁉︎ 何しにここまで来たんですか⁉︎」

 

 白鹿とかいう教諭も同じ事思ってたみたいです。

 

「生徒を守る為に、決まってるじゃあ無いですか⁉︎ 白鹿教諭⁉︎ あなたこそそこで、何をしているんですか⁉︎」

 

「邪魔をするなよ! 何が出来る? 猪本教諭に何が出来るというんですか⁉︎」

 

「ちょっ……猪本先生⁉︎ ここはわたくしに任せて、大人しくしていて下さい‼︎」

 

「そんな訳にはいかない‼︎ 俺は、お前達を全員、笑顔で卒業させてやるって心に誓ったんだ‼︎ それに……こんな危ない奴らに、お前の力をバラす訳にはいかない!」

 

 多分バレてるでしょう? 転校初日に猫宮ダンスで他のクラスからの注目を掻っ攫ったんですよわたくし?

 

「力だと? 何の事を言っている?」

 

 あれ? 鬼釜さん知らないんですか? あっ、確かに。他のクラスの連中から催眠術に関して聞かれた事無い。って事は……二年一組、めちゃくちゃ口硬い子の集まりじゃないですか‼︎

 

「猪本教諭? 答えによっては大目に見てやらん事も無いんですよ? そんなに息まで切らして……怖いんだろ? 思春期の女子達と向き合う事が怖いんだろ? だから、俺に意見を言ってみたくなっただけだろ? どうせ、頭の中身はからっぽなんだろ? さっきは、よくも俺を悪者の様に捲し立ててくれたなぁ? 今、頭を下げて謝れば、許してやらん事も無いんだよ?」

 

「何言ってるんです? 何故? 天羽達をそこから通さない様に足止めするんですか? 事の経緯は良く分かりませんが、俺は、この子達の自由にやらせたいんです!」

 

 猪本先生は、全容を把握している訳では無いんだ。それでも、わたくし達のやりたい様にやらせてくれ様としている。

 

「教育が必要なんですよ! コイツら、何も分かっていない様だからな!」

 

 それに引き換えこの男は、多分事の経緯を全て追えている。その上で、わたくし達を足止めしようとしている。本当に教師なんですかこの男?

 

「彼女達に教育が必要というのなら、俺が全て引き受けます‼︎ 二組の担任のあなたには、下がっていてもらいたい‼︎」

 

 ちょ、ちょっと⁉︎ ちょっと格好良いけど! そこ変に争わないでよ? 大人でしょあなた達二人共‼︎ 厄介事増やさないで下さいよ? それとも、この白鹿って先生、相当ヤバい奴なんですか⁉︎

 

「はっきり言わなきゃ分からないのかお前は? お前じゃ、役不足なんだよ? お前じゃぁ、生徒を正しい道へ導く事は出来ないんだよ?」

 

「それなら俺も、はっきり言った方が良いみたいですねぇ? 白鹿教諭? あなたは普通じゃ無い。自身が異常者だという事に気付いた方が良いですよ?」

 

「俺が、異常者だと? 言葉を選べよ小僧が」

 

「歳は一つしか変わりません。ってか、年上の癖にマナーがなって無いじゃないですか?」

 

「この俺のマナーが、なって無いだと⁉︎」

 

「まず、知っている筈なのに週末限定のクーポンを出して店員さんを困らせて、その後は女性の店員さんの腕を掴んだり、二人で食べる刺し盛りに何の断りも無く上から醤油をぶっ掛けたりしたじゃないですか⁉︎」

 

 エピソード弱っ。いや、確かに嫌だよそれは! でもさ、今の局面で出す程のカードじゃ無いですよね? そんな事言い合うくらいなら、さっさとこの道通す事に神経注いで欲しいんですよね?

 

「俺が誘ってやったのに、よくそんな事が言えるなぁ⁉︎」

 

「年下に奢られたのに、よくそんな事が言えますね⁉︎」

 

 そんなんいいから! 早くわたくし達をこのクラスから解放させて下さいよ!

 

「お前なんて、ワンパンでのしてやるんだからな?」

 

「今この教育現場で、そんな脅しは通用しませんよ? 十六文字⁉︎ 天羽、猫宮! 俺がアイツにタックルするから、その隙に教室から出ろ!」

 

 犬養さんも、仲間に入れて欲しかったです。でも、ありがたい! このコンプライアンスでガチガチの世間を逆手に取ったやり方だ! これで、やっとこの教室から出れ——

 

「オルァァァァアッ‼︎」

 

「ブルゥゥゥゥルルルルルルルッ‼︎」

 

 猪本先生が、白鹿先生の強烈なアッパーで吹っ飛んだ。

 

「暴力……こんなの、問題になりますよ⁉︎」

 

 わたくしは、何故こんなにも苛立っているのでしょう? 白鹿先生を睨み付け、怒鳴りつけた。

 

「暴力だと? これはただの喧嘩だよ! 男同士だとよくある事なんだ!」

 

「はぁっ⁉︎ あなた、ニュースとか見たりしないんですか⁉︎」

 

「見たりするよ? 教育現場で度々起こる、教師から生徒への暴力! その逆もあったりするね! そして、当てはまるかな? 君の言うニュースに、今の出来事は!」

 

 わたくしは何故か、思考回路がぐちゃぐちゃになっていた。だから気付いて無かった。男同士の教師が喧嘩をして、暴力があった時、多分それは、大した問題にはならない。他人の同情を引く様な事件にはならないという事に、ようやっと気が付いた。

 

「……猪本先生は、自分に何の利益も無い事をしようとしてくれました……」

 

 別に、就業時間なんてとうに終わってるんだから、帰っても良かった筈なんだ。

 

「それがどうした? その男の事など知らない。いざという時に女を守れない弱い男など、この世から淘汰されゆくべき存在なんだよ!」

 

「あ、あぁ……お前達、逃げろ……」

 

 猪本先生が、薄れゆく意識の中で、白鹿先生の右足を抱きかかえた。

 

「チッ! コイツ! なんて往生際の悪い‼︎ 離せよ鬱陶しい! お前の様なクズがこの教育界に居るから、いつまで経ってもこの世界は良くならないんだろ‼︎」

 

 何度も、何度も何度も白鹿は猪本を左足で蹴り飛ばした。この、内に溜まっていく怒りはなんなんだろう? あっ、ダメダ、もう、抑え切れ無い。

 

 アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハは

 

「オイお前? オマエには、猪本の屈辱を十倍にして返してやるよ⁉︎」

 

「はっ? ……十六文字? やめろ! 俺は平気だ! だから……無理を、しないでくれ……」

 

「お前達は何を言っているんだ? いいぞ! どんと来いだ! こんなクズに感情移入する様な生徒だ。高が知れてる」

 

「白鹿教諭‼︎ そうやって煽るのは止めて下さい‼︎ 本当に、この子の事を考えてあげられるのなら、お願いします……」

 

「黙れ! 今、お前に発言権など無いんだよ」

 

 白鹿が、猪本の頭を踏み潰した。

 

 アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ、アッ、アッ、アッ……

 

 これで、心置きなくやれる。

 

「は、は、はぁぁぁぁぁい? このわたくしの人差し指を、見て下さぁい?」

 

「人差し指? おぉ、おお⁉︎ お、お、おぉぉぉ……」

 

「チックッタックチックッタック」

 

「あ、あぁぁぁぁぁ……」

 

「これからあなたは、わたくしの言いなりになってもらいます。良いですか?」

 

「お、仰せの通りに……」

 

「テメェだけは、産まれて来てごめんなさいって言うまで催眠解かねぇかんな」

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