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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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九十四頁    犬 拾弐   『悪魔の黙示録 ⑤』

 九十四頁

 

 犬 拾弐

 

『悪魔の黙示録 ⑤』

 

「鬼釜さんの本当の標的は、美穂ちゃんでも、佑羽達でも無い……」

 

「はぁ? 天羽よ? お前は何を言っているか? それでは一体、鬼釜は誰を狙っているというのか?」

 

「え、恵理奈ちゃん……」

 

 あぁ、あぁぁぁぁ……何かえらい事になってる。何で、何でだよ⁉︎ あたしは普通の学園生活が送りたいだけなのに、何でこんな大事に巻き込まれなきゃならない⁉︎ い、嫌だ、こんなの、お父さんとお母さんが心配するよ……

 

 帰っちゃ、駄目だよね? あたし結構関係無いと思うんだけど? でもさっき鬼釜がクラスの他の子追い払った時、わたしは四人に話しがあるって言ってたしな。それ、あたしも含まれてるよね? 嫌だ、大して何も出来ないんだから帰らせてよ。でも、ここで帰ったらまた猫宮に後でイジられかねない。それで、本当にいいのかよ⁉︎

 

 ってあれ? このままでもイジられるんじゃない? この四人の中で、圧倒的に存在感無いのあたしじゃない⁉︎ 天使は一番前に立って鬼釜と対立してるし、猫宮も何か色々言ってる。兎咲ですら家族にカミングアウトしたとかって言って鬼釜と向き合ってるし、何もしてないのあたしだけじゃん⁉︎ ほぼ何も喋って無いんだけど⁉︎

 

「女神が標的だと? なんだそれは、どういう事か説明するんだよ⁉︎」

 

 猫宮? もうあんたは充分目立っただろ? 黙っててくれよ。

 

「あぁァァッ? 天羽、お前何か察しが良すぎやしないか?」

 

 鬼釜? 察しが良いって事は、天使の言う事は的を得ているという事か?

 

「そんな事、無いよ」

 

「どういう思考の回路辿ったらそうなんだよ? 三上の話しなんて一言もしてねぇだろ⁉︎」

 

 確かに……天使、どういう事なの?

 

「今はそんな事説明してる暇なんて無い! 恵理奈ちゃんの元へ急がないと‼︎」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ天使! 大丈夫だからさ、落ち着いて! あたし達にも事の経緯を教えてよ!」

 

 あたしは、天使の為だったらこうやって発言が出来るんだ! これで、後々猫宮に、わんちゃんはあの時喋りもしない役立たずだったんだよ、なんて嫌味を言われる事も無くなる! さぁ、天使! あたしに頼って来てくれ!

 

「わんちゃんは何を言ってるか⁉︎ 天羽の様子から察するに、事は一刻を争う事態なんだよ‼︎ 事の経緯など一から聞いている場合か⁉︎ これだからわんちゃんは! 急に喋ったと思ったら邪魔しかしないんだよ。鬼釜の手下なのかわんちゃんは? 分かったらさっきまでの様に大人しくしていると良いんだよ‼︎」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ⁉︎ 何故そうなんだよ⁉︎ クソ猫テメェだってさっき天使に説明しろって言っただろうが⁉︎」

 

「わんちゃんは人の話しをちゃんと聞いているのか⁉︎ 天羽はそんな話ししてる暇無いと言っただろ⁉︎」

 

「何お前が天使の事分かっちゃった様な口振りで言ってんだよ⁉︎ あ、あたしが、あたしの方が……」

 

「そうやって言ってる内は、わんちゃんに天羽の横に立つ資格は無いんだよ。わんちゃんよ? 黙るんだよ⁉︎ 猫達は急いでいるんだよ!」

 

 何故こうなる⁉︎ あ、あたしは、あたしはただ‼︎

 

「て、天使ぃぃ……?」

 

 天使なら、分かってくれるよね?

 

「琴子ちゃん? お願いだからこれ以上、邪魔をしないで?」

 

 イヤァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎ 邪魔だったんダァ⁉︎ あたし、あたし天使の邪魔してたんだァァッ⁉︎

 

「天羽よ! 何処へ行けば良い⁉︎ 女神は、何処に居る⁉︎」

 

「二年五組の教室だよ! 急ごう‼︎」

 

「はぁァァァッ⁉︎ 何故分かる⁉︎ 天羽、お前なんなんだよ⁉︎ ちょっと、ちょっと待てよ⁉︎ お前らが行った所でどうなる⁉︎」

 

 天使の足が止まった。

 

「どういう事? 五組では今、何が起こっているの?」

 

 天使も、そこまでは把握していない様だ。

 

「五組には今真央、阿久津真央が居る。真央は三上に話しがあんだよ。お前らが割り込むのは野暮ってもんだろ?」

 

「……違う。あなたの目的は、このクラスに佑羽達を留める事。話しを聞いちゃいけない。猫宮さん! 行こう‼︎」

 

「チッ、何故そうなる⁉︎ お前は一体、なんなんだよ⁉︎」

 

 あたしも鬼釜の残るこのクラスに残されるのなんて嫌で、天使と猫宮の後を追って教室から出ようとした。

 

 天使が教室の扉を開けるとそこには、見知らぬ大男が立ち塞がっていた。

 

「えっ……?」

 

 天使がその男に懐疑の瞳を向けると、男は大声で、自分が正しいに決まっていると思い込んでいる瞳で、佇まいで、あたし達を諭そうとした。

 

「ダーメダメダメダメェェェェェェエ‼︎ お前達、そんなんじゃ心を許し合える友達を作る事なんて出来ないぞぉぉぉお⁉︎ もう一度やり直しだ‼︎ ちゃんと、鬼釜と向き合えよお前達‼︎」

 

 な、何この人? ここ女子校なんだけど⁉︎ 変質者が紛れ込んでるんですけど⁉︎

 

「カハハッ……なんだなんだぁ? 天が味方してくれてんのかぁ?」

 

 鬼釜の煽りが背中から聞こえて来た。

 

「あ、あなた、誰ですか?」

 

 天使が男に聞いた。

 

「俺か? お前達、俺を知らないのか? 良く無いなぁ。お前達はまさか、自分達のクラスの中だけで学校生活というものを終えるつもりなのか? 他のクラスの事はどうでもいいのか? 良く無いぞそんなのは! 学生というのは、視野を広く持つべきなんだ! お前達ももう二年生なんだ! 学校全体の事に気を配れる生徒になれよ!」

 

 何この人? やたらと自分の思想を押し付けて来やがる。

 

「だから……あなたは誰なんですか⁉︎ 何故佑羽達の邪魔をしようとするんですか⁉︎」

 

 珍しく、天使が声を荒げた。

 

「俺の名前は白鹿卓造! 隣の、二組の担任の教師だよ! 邪魔をする? あのな? 俺がお前達生徒の邪魔をする訳が無いだろ? 俺が、他のクラスの生徒だからって無関心になる様なクズに見えているのか? お前はまず、人を見極める目を持つ事が最優先の様だな? 邪魔ってなんだ? お前達がシャイそうに鬼釜との対話を拒んでいるのを教室の外から聞いていたから、背中を押してやろうとしているだけだろ‼︎ お前達はそれで良いのか⁉︎ お前達の様な互いを高め合わない様な地味な四人組で集まって、小さくまとまった高校生活で終わって本当に良いのか⁉︎」

 

 めちゃくちゃヤバい奴じゃねぇかコイツ⁉︎ これが、教師? 二組、相当ヤバくない⁉︎

 

「せ、先生なのこんな人が……? まぁいい。白鹿先生? 佑羽達は、鬼釜さんとの対話を避けている訳じゃ無いんです! 行かなきゃいけない場所があるんです‼︎ 通してもらえませんか?」

 

「先生が……先生がやり直せと言っているんだよ‼︎ やり直すまでここは通さん! 鬼釜と、ちゃんと向き合えお前達‼︎」

 

「恵理奈ちゃん……三上っていう佑羽達の友達を助ける為なんです。通して下さい」

 

 天使が女神を恵理奈から三上って言い直した。何か、意味があるのか? 考え過ぎかな?

 

「三上? 知らないなぁ! それよりもお前達は、目の前の鬼釜と向き合いなさい!」

 

「嘘吐き。白鹿先生? あなた、三上恵理奈の事知ってますよね?」

 

「はっ? 何を言っている? お前達生徒に俺が嘘を吐く筈無いだろ? その言葉は俺の教師としての威厳に関わる、取り消せよ」

 

「それどころか、あなたは恵理奈ちゃんに、殺人衝動がある事を知っている。なんなんですか? 何がしたいんですかあなた?」

 

「まだ言うか? 妄想癖でもあるのか? そうかお前には、教育が必要な様だな?」

 

「佑羽はただ、ここを通して欲しいだけなんです‼︎」

 

「ダメダメダメダメダメダメダメダメェェェェェェエッ‼︎ 鬼釜と話しをしろ‼︎ そしたらここを通してやるよ」

 

 身近でヤバい奴結構居るけど、大人になってまでヤバい奴は流石に引くんだよ。この人、一体何が目的なの?

 

「なぁ天羽? 話しをしようぜ? 事が終わるまで。わたし達は楽しく会話すりゃ良いだけなんだからさぁ?」

 

 事が終わるまで? 五組で一体、何が行われている?

 

「……今のではっきり分かった。鬼釜さん? あなた、恵理奈ちゃんに阿久津さんという人を殺させ様としてるんだね?」

 

 はっ?

 

「ご名答。お前? エスパーかよ?」

 

 はぁァァァァァァァァァァァァアッ⁉︎ なにそれ? どういう事⁉︎

 

「なんで……? 阿久津さんは、あなたの友達なんじゃないの?」

 

「わたしと阿久津は、そんなんじゃねぇよ。アイツの自殺願望を叶えてやる為に、わたしは今までアイツと一緒に居たんだ」

 

「そんなの、普通じゃない……」

 

「一緒に居る事の理由が、普通である必要があんのか? 少なくてもわたし達は、お前達の様な薄っぺらい友情なんかより強く、お互いを必要とし合って来たよ」

 

「そんな相手が、殺されても平気でいられるんだ⁉︎ それが、あなたの薄っぺらい友情なんだ⁉︎」

 

 その時、鬼釜の圧が今までの何倍も膨れ上がった様な感覚がした。

 

「黙れよ。お前達に何が分かる? お前達が阿久津の何を知ってる? わたし達は、せめてこれから最後までは、自分達の生きたい様に生きようって決めたんだ。お互いに、お互いを否定する事だけはやめて生きて行こうと誓ったんだよ。お前らに、とやかく言われる筋合いねぇんだよ‼︎」

 

 この人達は一体、何を抱え込んでいるのか? 今まで余裕を持って話していた鬼釜が、急に苦しそうな表情で立ち尽くす姿に、誰も声を発せられずに居た。

 

「……いいぞ、いいぞ、もっとやれ……」

 

 へっ⁉︎ あっ、あぁ……あたししか聞こえてない? この白鹿っていう教師、もっとやれとか小声で煽ってたよ⁉︎ ヤバッ! ヤバ過ぎだから‼︎ 猪本も大概だけど、猪本の方が何倍もマシだわ‼︎

 

「……鬼釜さん? あなた、本当は心の中で、阿久津さんが殺されて欲しく無いって思ってるでしょ?」

 

「はっ? んな訳無ぇだろ⁉︎」

 

「でもあなた、恵理奈ちゃんが阿久津さんを殺すのを失敗した時の事ばかり考えてる」

 

「はぁァァッ⁉︎ だからお前はエスパーかよッ⁉︎」

 

「それで本当に阿久津さんが死んじゃってもあなた、平然で居られるの⁉︎」

 

「それは、神のみぞ知る、だなぁ?」

 

 ごめん。何が起こっているのかもう分かん無い。どうせあたしが喋ったって邪魔になるだけだし、大人しくしてようかな……

 

 って、あれっ? 教室から逃げ遅れた子が一人居るじゃん? こんな騒ぎ起こってるのに席で本読んでる振りなんかして……ってあれ、十六文字じゃん? 何してんの? もしかして、混ざりたいの?

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