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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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九十二頁    鳥 拾弐   『悪魔の黙示録 ③』

 九十二頁

 

 鳥 拾弐

 

『悪魔の黙示録 ③』

 

 天羽の電話を受け、急いで用を済まし、ちゃんと手を洗ってトイレから出た。

 

 急いで二年一組の教室に向かわなければ! 猫ちゃんに、何かあってからじゃ遅いんだよ。

 

 途中にある二年五組の教室を通り過ぎ様とすると、その先の四組の前の廊下で三上が二人組と話しをしていた。私は一瞬立ち止まり、その様子を観察した。

 

 あの三上が? 珍しいな……まぁそんな事どうでもいいか。今は、猫ちゃんの元へ少しでも早く行ってあげないと!

 

 その時、急に左腕を掴まれた。

 

「来てくれたんだ‼︎ 待ってたんだよ? もう……待たせないでよ。もしかしたら、来てくれないんじゃないかって思って、頭、オカシクなりそうだったんだよ? どうしてそんな意地悪するの? ハァハァ、ねぇ? 今日で最後なのに、最後くらいは笑って逝かせてよ? ねぇ⁉︎」

 

 振り向くと、そこにはハァハァ言ってる阿久津が居た。

 

「なッ⁉︎」

 

 ってか何だコイツ⁉︎ 何興奮してんだよ⁉︎ 屋上で会って以来なのに距離詰め過ぎだろ⁉︎

 

「恵理奈ちゃん? こっちこっち」

 

 そう言うと阿久津は、私の手を引いて二年五組の教室へと引き入れ様とした。いやいや、三上恵理奈はあっちだよ? 訳が分からない。頭が追い付かず、私は勢いで誰も居ない五組の教室の中へ入ってしまった。

 

「何だよお前! 手ぇ離せよ‼︎」

 

 今は誰にも使われていない綺麗に並べられた机や椅子をガチャガチャと力任せに掻き分け、阿久津は教室の奥の窓際へと私を誘導した。

 

「ハァハァ! 何でそんな悪い言い方するの? わ、私を、笑顔で逝かせてくれるんじゃないの? だからここまで来てくれたんだよねぇ⁉︎ だからこの教室の前まで来てくれたんだよねぇェッ⁉︎」

 

 この教室の前に居たのはその先のトイレでう○こしてたからだよッ‼︎ いつもならそのトイレの横の階段使って帰るけど、天羽が鬼釜が仕掛けて来たとかって言うからここ通って一組に戻ろうとして、三上が珍しく立ち話ししてるから立ち止まったらなんなんだよこれっ⁉︎ 偶然重なりまくって何でこんなヤバそうな奴と二人きりになってんだよ⁉︎

 

「私急いでんだよ。悪いけど、今はお前に時間割けないんだ」

 

 阿久津は私の言葉を聞き終わると、その瞳に涙を溜めて、俯いた。

 

「ハハッ……そうか、そうなんだね。私の人生って、どこまでいっても糞なんだな。最後の最後に、片手間で済まされちゃうんだ」

 

 阿久津は掴んでいた私の左腕を離し、力無く呟いた。

 

「なんだよ? 何言ってんだよ?」

 

「あの手紙ね? 水曜日の放課後にこの教室で書いたの。この窓際で殺されたいなって考えながら、一生懸命書いたんだよ?」

 

「手紙? 殺されたい?」

 

「この時間のこの場所は、とっても夕焼けが綺麗でしょ? 夢にまで見たあなたの顔が、とても美しく輝いて見える。ねっ? だから、これ」

 

 阿久津が何かを私に握らせて来た。

 

「はっ……? お前、何だよこれっ⁉︎」

 

 私は、阿久津にフルーツナイフの柄を握らされていた。

 

「昨日近くの百均で買ったの。ちゃんと研いだから、切れ味は抜群だよ」

 

 そう言うと、阿久津は私の持っているフルーツナイフのカバーを外し、その辺に放り投げた。剥き出しになった刃、荒く研がれた切っ先は夕陽に照らされ光が乱反射した。

 

「何言ってんだよ……?」

 

 その小さなナイフを持って気付いた。人は百十円払えば、人を殺せる凶器を簡単に手に入れられるという事実に。

 

「時間が惜しいんでしょ? あっ、大丈夫だよ? 私も、ちゃんと色々考えたんだよ? 私が望んだ事とはいえ、人を殺したあなたは罪に問われると思う。でもね、あなたはこう言えば良いの。頭のおかしい友人が居て、手紙で呼び出されて行ったら、刺されそうになってそのナイフを取り上げたら自分でその刃に身体を押し入れたんだって。そうすればあなたが罪に問われる事は無いと思うから。そのナイフを買ったのも私だし、家にはそのナイフを研いだ痕跡も残ってるから。だから、安心して殺してね?」

 

「なんで……何で死にたいなんて思うの?」

 

「……それは、手紙で伝えた筈だよ? 分かってくれたから、ここまで来てくれたんでしょ? さぁ?」

 

 ずっとコイツは、何を言ってるんだ? 手紙……? 確かさっき、三上は廊下で手紙を読んでいた。さっきの恵理奈ちゃんこっちって、まさか、私に言っていたのか? 何で、何でそんな不可解が起こる? 何処かで、ボタンを掛け違えている様な違和感……

 

 あっ。そういや三上の代わりに屋上に行った時に阿久津と出逢った。まさか、そこで私を三上と勘違いした? いやでも、あの時阿久津は手紙なんて出して無いって言った。何だよ、何がどうなってんだよ⁉︎

 

「私は、阿久津? お前の事を殺さないよ」

 

「はぁっ?」

 

「だってお前、震えてるじゃん」

 

 私にナイフを持たせた時に、気付いてしまったんだ。阿久津の手は、震えていた。

 

「震えてなんか無い。本当だよ? 信じて……お願いだから。今日で、終わらせて欲しいの! 嫌なの‼︎ もう、嫌な思い出の残るあの家には、帰りたく無いの」

 

「でも、震えてる女の子にナイフを突き刺すなんて事、私には出来ない‼︎」

 

「あなたには殺人衝動があるんでしょ⁉︎ 良いんだよ? その衝動を、私で満たしてよ?」

 

 あぁぁぁぁっ‼︎ やっぱりそれ三上の事じゃねぇかよ⁉︎ 何がどうなってんだ誰か説明してくれよ⁉︎

 

「も、もういい! もう無理なの‼︎ これ以上、私を困らせ無いで?」

 

 阿久津は私のナイフを握る右手を両手で掴み、自身の身体を貫こうとした。

 

「お前⁉︎ やめろよ⁉︎」

 

「駄目‼︎ 聞いてあげない‼︎」

 

 私は左手で阿久津の身体を引き離そうとする。しかし、少しずつ私の握る刃は阿久津との距離を狭めていった。

 

「おい三上ィィィィィィィィィィイッ⁉︎ 近くに居んだろ⁉︎ こっち来いよ‼︎」

 

「はっ? 三上はあなたでしょ?」

 

 少しだけ、引き寄せる力が弱まった。その時、五組の教室の扉が勢いよく開かれる音がした。

 

「おい小鳥ィィィィイッ? あんま大声で名前呼ぶんじゃねぇよ⁉︎ 仲良いと思われんじゃねぇかよ?」

 

 振り返ると、三上がこっちに歩み寄って来ていた。

 

「はぁっ? 誰もそんな事思わないよ」

 

「誰アイツ? 小鳥って? 何これ? ナニコレナニコレ⁉︎」

 

「悪いね? 私の名前は、小鳥優子っていうんだよ」

 

「はぁァァァッ⁉︎」

 

 阿久津の腕を振り払い、ナイフを地面に放り投げた。

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