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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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九十頁    天使 拾壱   『悪魔の黙示録』

 九十頁

 

 天使 拾壱

 

『悪魔の黙示録』

 

 五月、最後の金曜日の放課後。突然、その時は訪れたのだった。

 

 ホームルームが終わり、いつもの様にクラスメイト達が教室から出て行く。佑羽はいつもの様に、イチカちゃんと美穂ちゃんと琴子ちゃんで集まった。

 

「鬼釜、今週も特に何も仕掛けて来なかったね」

 

「ほらわんちゃん? 猫の言った通りだろ? 猫達はただの女子高生なんだよ。隣のクラスの女に目を付けられ様が大した事して来ないんだよ。悩む時間が勿体ないんだよ」

 

 本当に、そうなのだろうか?

 

「佑羽? 先帰るね」

 

「あっ、うん。さよなら!」

 

 隣の席の恵理奈ちゃんが帰って行った。

 

「天羽よ? 何故女神はいつもお前にだけ挨拶して帰って行くんだ?」

 

「さ、さぁ……えへっ……」

 

「えへっ、じゃないんだよ⁉︎ 可愛い子ぶるなよ? いつも言っているだろ⁉︎」

 

「ご、ごめん。ま、また言っちゃった……」

 

「おい猫宮? 天使はなぁ? 可愛い子ぶってんじゃなくて可愛い子なんだよ‼︎ 良いじゃねぇか、えへっ、てよぉぉお? 天使のアイデンティティ削りに来てんじゃねぇぞクソ猫が‼︎」

 

 決してそれは、佑羽のアイデンティティなどではありません。

 

「天羽よ⁉︎ お前のせいでわんちゃんに怒られたでは無いか‼︎ 確かに口癖の様なものなのかもしれないが、ラインでまで語尾にえへっ、って付けてるではないか! 絶対みんなに可愛いって思われたくてやってるだろお前‼︎」

 

「えっ⁉︎ 佑羽ラインでまでえへって付けてるの⁉︎ 全然気付いて無かったんだけど? ヤバくないそれ⁉︎」

 

「まぁたそうやってお前はトリップして‼︎ もういいんだよ! 猫もそこまで重症だとは思って無かったんだよ! もう言わないから、好きなだけ使えば良いんだよ」

 

 イチカちゃん、優しいし。

 

「ちょっと待てよ……猫宮? お前天使とラインしてんの?」

 

「はっ? してるけど何か? 別荘に行った奴らはみんな天羽のライン知っているだろ?」

 

「ま、まぁ知ってるけど……そ、そんな頻繁にラインしないからさ……」

 

「別に猫も大した事送らないんだよ。新発売のあのお菓子が美味しかったよとかその程度なんだよ」

 

「そ、そんなライン……迷惑にならない⁉︎」

 

「琴子ちゃん? そんな訳無いじゃない! イチカちゃんがこの間紹介してくれたうんまい棒の化学調味料味、美味しかったよ!」

 

「ほれみろ? わんちゃんは考え過ぎなんだよ。そこまで考えられると逆に気持ちが悪いという事が何故分からぬか?」

 

(そこまで言う⁉︎ ってか、そういうラインを私も送りてぇんだよクソ猫がぁぁぁぁぁぁぁぁぁアッ‼︎)

 

 琴子ちゃん? 心の声佑羽にだだ漏れだよ? そういうライン送って欲しかったんだ。今度送ってみようかな?

 

「まぁ取り敢えず、今週も平和だったって事で、そろそろ帰ろうか?」

 

「僕は、このままで終わる筈無いと思う……」

 

 美穂ちゃん……美穂ちゃんは、鬼釜さんの悪意を一番近くで感じていたんだもんね……

 

「兎咲よ? またお前はそうやって猫達の不安を煽るか⁉︎ そうやって煽られ続けて二週間、猫がどんだけ眠れぬ夜を過ごしたか分かっているのか⁉︎」

 

「あっ! 猫宮? やっぱお前ビビッてたんじゃん? いつも気にする必要無いとか強がってたけど、本当はビビッてんじゃんダッセェ‼︎」

 

「はぁ……それが先程猫に気持ち悪いと言われた事への腹いせか? 別に好きに言ってくれれば良いんだよ」

 

「格好つけんなし! 前言撤回なんか出来ねぇぞ? みんなお前がビビッて眠れ無かったって言ったの聞いてっかんなぁ⁉︎」

 

「だからわんちゃん? 猫がいつビビッて無いと言ったか⁉︎ めちゃくちゃビビッておるわ‼︎ 兎咲が久しぶりに登校する前日など、盛大にベッドにお漏らししてしまったわ‼︎ お前達がやたらと不安を煽って来て頭オカシクなりそぉだから自分に言い聞かせる様にそう言っていたんだよ‼︎ じゃなきゃ大して興味も無いお前達と頻繁に集まって話し合いなどするかァァッ‼︎ 猫がビビッてなければお前達に時間など費やさず、猿の二人と踊っとるわ‼︎」

 

 何か、ごめんなさい……

 

「何故黙るかァァァッ⁉︎ この四人が集まった所でネガティヴな発想しか生まれないんだよ‼︎ だから圧が弱いとかって馬鹿にされるんだろぉがバカタレ共がァァァッ‼︎」

 

 圧が弱いっていうのは、佑羽達が勝手に言い出してる事だけどね?

 

「オォォォォォォイ? 何盛り上がってんだよぉ? 教室の外まで丸聞こえだぞぉ? 楽しそうじゃん。わたし達も混ぜろよぉぉお?」

 

 鬼釜尚子⁉︎ マジかよ⁉︎ こんないきなり仕掛けて来るの⁉︎

 

「えっ? ヒィィィィィィィィィイッ⁉︎」

 

 ちょっと琴子ちゃん圧弱すぎ⁉︎ 舐められたら、話しが良く無い方に転びそう。

 

「イヒヒッ! 怖がんなよぉ? ちょっと、話しがあるだけなんだからさ」

 

 落ち着け、落ち着くんだ佑羽! 佑羽に出来る事、それはこの二人の心の声を聞いて、状況を有利に動かす事だ!

 

 二人? 鬼釜さんと、もう一人は、誰かな? 見た事無い人だ。この人の心も、悪意で満たされているのかな?

 

「あ、あたし‼︎ あたしは! あたしは悪く無いんだよォォッ‼︎ あたしあの時の事覚えて無くて! 心にも無い事言ってたんだ‼︎ だ、だから、あたしの事は見逃してくれよォォォォオッ⁉︎」

 

 ん、うーん、ん? ちょっと五月蝿いんだけど琴子ちゃん⁉︎ 心の声っつっても周りがあんまり五月蝿いと聴こえないんだよ⁉︎ あと、あんだけ四人で話し合ったのに、自分だけ見逃してみたいなめちゃくちゃ最低な事言ってない⁉︎ 前に美穂ちゃんを助けた時は見直したのに、やっぱそういう人間なんだね‼︎ 人ってそんな簡単に変わらないんだね⁉︎

 

「ギヒヒッ! 面白ぇじゃんお前? まぁ焦んなよ。今日は話しをしに来ただけだからよぉ」

 

 本当に、そうなの?

 

「あ、あ、あ、あ、アァァァァァァァァアッ‼︎ 良かったァァァアッ‼︎ 鬼釜様が良い人で良がっだァァァァァァァァァアッ‼︎」

 

 マジ琴子ちゃん? あなたのせいで心の声聞こえないんだけど⁉︎

 

「いい加減にしてよ……静かにして琴子ちゃん? 今まで佑羽達が話し合って来た時間は全て無駄な事だったの⁉︎ そうやってこの子にへりくだれば弱味に漬け込まれるだけなんだよ⁉︎ いいの⁉︎ 美穂ちゃんみたいに首輪繋がれて散歩させられても? 恥ずかしいとは思わないの⁉︎」

 

(天羽よ……それはいくらなんでも兎咲が可哀想なんだよ……)

 

 やっと聞こえた! って、イチカちゃんの声か。イチカちゃんまでネガティヴな感情に押し潰されそうになってるっていうの⁉︎ 佑羽が、佑羽がどうにかしなきゃ‼︎

 

(あ、天羽君……あ、あ、アァァァァァァァァァァアッ‼︎)

 

 美穂ちゃんまで⁉︎ くそっ……何でこうなるんだよッ‼︎ これじゃあ、鬼釜さん達の心の声が聴こえ無いじゃないか‼︎

 

「て、天使ィィィィィイッ⁉︎ あ、あたしの事、嫌わないでくれよォォォォオッ⁉︎」

 

 琴子ちゃん⁉︎ 百歩譲って、せめて声に出すなよ⁉︎

 

「佑羽が言った事聞こえて無かったのかなァァァッ⁉︎ 佑羽は、静かにしてって言ったんだよ⁉︎」

 

「あ、あ……ごめん……」

 

 分かって、くれたよね?

 

(天使ィィィィィイッ⁉︎ あ、あたし、あたしどうすればァァァァァァァァァアッ⁉︎)

 

 心の声までうっせぇわ‼︎

 

「ナヒィィィヘァハハハハハハハハァァァアッ‼︎ 最高だなぁお前ら⁉︎ わたしまだ何も喋ってねぇのに勝手に崩壊してんじゃん⁉︎」

 

「これが……これがあなたのやりたかった事なの⁉︎」

 

 佑羽は、鬼釜さんを睨み付けて言ってやった。

 

「えっ……? だから、わたしまだ何もやってねぇって言ってんだろ? 大丈夫かお前?」

 

 心配されたし‼︎ でも、でも、でも、でも、でも、でも、でも、でも、でも…………

 

「はぁっ? お前ら何見てんだよ? ホームルーム終わったんだろぉが帰れよ‼︎」

 

「おい天羽よ? 鬼釜が教室に残っていた生徒達を帰宅させ様としているぞ? これからどうする? ……天羽よ?」

 

「でも、でも、でも、でも、でも、でも、でも、でも…………」

 

「わたしはこいつら四人に話しがあんだよ! 大人しく帰れよ! お前らもわたしに目ぇ付けられてぇのか⁉︎ わたしはそれでも良いんだぞォォォォォォオッ⁉︎ オモチャが増えるんだからよォォォォォォォォオッ‼︎ ギヒャヒャヒャヒャヒャァァァエェェェッ‼︎」

 

「この女、狂ってるんだよ……おい天羽よ? みんな帰って行くぞ? 猫達圧よわ四人衆と鬼釜と謎の女だけになってしまうぞ? 良いのかこれで? おい天羽よ⁉︎ 聞いているのか⁉︎」

 

「何で私達が追い出されるの? アイツら何なの? あの四人のせいだ。厄介事持ち込みやがって。でも、でも、それでも……聴こえない聴こえない聴こえない聴こえない聴こえない聴こえない聴こえない聴こえない……鬼釜尚子達の声が、みんなの声に紛れて聴こえ無い……聴こえ無い⁉︎」

 

 あぁ……何で、何で聴こえないの? 佑羽には、これしか……これしか出来る事なんて無いのに⁉︎

 

「またお前はそうやって⁉︎ おい佑羽⁉︎ 歯ァ食いしばれ‼︎」

 

 へっ? 何で?

 

 ズパァァァァァァァァァァァァンッ‼︎

 

「猫宮テメェェエッ⁉︎」

 

「天羽君ッ⁉︎」

 

 へっ⁉︎ い、イタァァァァァァァァァッ‼︎ 頬っぺたひっぱたかれた⁉︎ イチカちゃんに、頬っぺたひっぱたかれた……ってか、ここ何処ッ⁉︎ 私はだぁれ⁉︎

 

「わんちゃんも兎咲も黙れ‼︎ 猫は、天羽に話しがあるんだよ! お前またトリップしていただろ⁉︎ 猫は何回も言っている‼︎ お前はトリップしたら本当に使い物にならないんだよ! それどころか物事を悪い方向に進め様とする! 猫は、猫の身を守る為にお前をはたいた! 文句あるか⁉︎」

 

「へっ? 佑羽はいったい……ありがとう。何の事か分からないけど……」

 

「記憶無くしてたのか天羽よ⁉︎ 相当だぞ⁉︎ でも、ちゃんと正気に戻ったのだな?」

 

「うん。ありがとう。でも、佑羽……みんなの役に、立てそうに無い……」

 

 だって……心の声が、敵の心の声が、上手く聴き取れ無い……

 

「はっ? お前急に何処で自信を無くしたか⁉︎ お前の良い所は、みんなに分け隔てなく優しく出来る事だろ⁉︎ あの別荘に居たメンバー、全員と関係が成り立ってるのはお前しか居ないんだよ‼︎ お前が打ちひしがれて落ち込んでるのなら慰めてやらなくもないが、今お前が落ち込む要素など一つも無いだろ⁉︎」

 

「でも、佑羽は⁉︎ 佑羽は……」

 

「佑羽は何か⁉︎ いつも言葉足らずなんだよお前は‼︎ ぴぃちゃんだってあの別荘の時に言っていただろ⁉︎ お前が率いたんだから、お前がしっかりしろよ‼︎ みんな、お前に付いて来たんだよ‼︎ またあの時の様に、お前にはみんなを率いる資格が無いと言われても悔しく無いのかお前は⁉︎」

 

「悔しい……と、思う。でも、事実だから……」

 

「何故お前はここぞという場面になるとネガティヴに支配されるか⁉︎ 自分の長所を自覚しろ! 何度も、猫は何度も言っている‼︎」

 

「だから、佑羽の長所は、もう……」

 

「お前は、友達想いなんだよ。それがお前の長所なんだよ‼︎ 他の誰に出来る事か⁉︎ 小鳥が、女神が、十六文字が同じ目的を共有出来るのは、お前が居たおかげなんだよ! 今この場には四人しか居ないけど、他の人も助けてくれるかもしれないって思うから、少しだけど希望が持てるんだよ!」

 

 佑羽は……心の声が聴こえるって事だけが、自分の長所だと思っていた。でも、そうだよね? みんなはこの力を知らないんだもん。こんな力があるって知らなくても、イチカちゃんは佑羽の事を、頼ってくれてたんだ……ありがとう。やっと、本当の意味の勇気が持てたよ!

 

(はっ? コイツ、まさか……)

 

「えっ?」

 

 今の心の声は、誰の声?

 

「尚子? 悪いけど、ねねは退席するよ」

 

「はっ? どうした小泉?」

 

「イレギュラーがあったんだよ」

 

「イレギュラー?」

 

「そう。超イレギュラー」

 

「チッ。分かったよ」

 

 そう言うと、鬼釜さんの横に居た謎の女、多分名前は小泉ねねなのだろう。小泉さんが教室を出て行った。

 

「さぁ! 話し合いしよぉぜぇ?」

 

 鬼釜さんが、気を取り直して威嚇し始めた。

 

「話す事なんて、何も無いよ?」

 

「わたしにはあんだよ」

 

 その時、鬼釜尚子から流れ込んで来る悪意の声に、そして、その何処か他人事な表情に、佑羽は別の策略を感じていた。

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