五十四頁 牛 壱 『牛嶋晶と嶋牛さやか』
五十四頁
牛 壱
『牛嶋晶と嶋牛さやか』
「最近あいつ、ウチらと絡もうとしないよね?」
牛嶋晶は、隣の席の嶋牛さやかに喋り掛けた。
「避けてんのかな? 何か、ムカつくよね?」
嶋牛が応えた。
二人の言うあいつとは、十六文字羊子の事である。転校初日に催眠術が使える事を暴露した十六文字に、二人は興味を持っていた。懐柔させ、どうにかして自分達の思い通りに動かせられないかと画策していたのであった。
「あからさまに避けてんだろ? しかもあいつ、最近女神とかのグループと話してない?」
「昨日も放課後、女神とどっか行ってたしね」
「気に入らね、一発逆転出来る駒だと思ってたのに」
この二人は、この学生生活の中で、どうしてもスクールカーストの上位に立ちたかった。幼馴染みだった二人は、中学生時代、手を組み学園で一番目立つグループに所属していた。しかし、この学園に入学してからは、一年生の時にクラスが分かれてしまった事と、慣れない女子校の雰囲気に気圧され、あまり友達を増やす事が出来ないまま二年生になってしまった。
「このクラスでさ、今派閥広げてんのってやっぱ……」
「女神だろ⁉︎ あいつ、ウチらが話し掛けに言った時、無下に断りやがって‼︎」
クラス替えして早々に、同じクラスになった事に息巻いた二人は、休み時間、事もあろうに三上恵理奈に話し掛けに行ったのである。牛嶋は一年生の時に三上と同じクラスだった為、そのクラス内で一番目立っていた三上の懐に入ろうとしたのであった。その時三上から、「なに? 面倒臭いんだけど? わたしあんた達に興味無いから」と、この世に産まれ落ちた意味さえ見失う言葉を浴びせられていた。
しかし、二人は挫けず、「まぁたそんな、恵理奈さん? 仲良くしましょうよ?」「二年生も始まったばかりなのに、そんな態度良くないですよ?」と、三上の逆鱗に触れる言葉を投げ掛けてしまった。
「はぁァァァァッ⁉︎ ナンデわたしがお前らに気を使ってやらないといけない⁉︎ わたしはお前らの様な地味な奴と話しをしたいとなど思わない‼︎ 下の名前で呼ぶなよ馴れ馴れしい。お前達にそんな事を許可した覚えは無い‼︎ 興味が湧いたら話し掛けてやるから大人しく席で待ってろ‼︎」
それから二人は、他のクラスメイトに話し掛ける事すら萎縮し、大人しく二人だけで話しをする日々を送っていたのだ。
「クソッ‼︎ 思い出しただけでも腹が立つ」
「あの時、クラス中の奴に聞かれてたから、中位の奴にすら声掛けられなくなった‼︎」
牛嶋と嶋牛は、クラスメイトをスクールカーストの上位、中位、下位で分けていた。自分達では決して口には出さないが、この二人は、間違い無く下位であった。
「転校生なら丸め込めると思ったんだけどね?」
「その力を利用して、他の奴らを服従させようと思ってたのによぉ‼︎」
その想いが透けていたから、十六文字から距離を置かれた事に二人は気付いていない。
「晶ちゃん? 女神の弱点を探そうよ?」
「弱点?」
「弱点を見つけて、握ってやるんだよ。脅して、ウチらに逆らえ無い様にしてやろう?」
「キヒヒッ、良いねぇ。さやかの、そういう強かな所好きだよ」
「女神の仲良いグループって、誰かな?」
「まだクラス替えして一ヶ月しか経って無いからねぇ。まぁ、天使はそうじゃん?」
「だね。天使は兎咲とか犬養とか、最近猫宮とも喋ってるよね?」
「みんな天使とだけじゃなく女神とも喋ってるよなぁ? 猫宮、何であんな変な奴とは喋ってウチらにはあんなによォォォォォォォオッ⁉︎」
猫宮は、スクールカースト下位の二人にさえ変な奴認定されていた。
「取り敢えずそのくらいかなぁ? 女神かそいつらの弱み握って、復讐してやろうよ?」
「具体的には? ウチら何したら良いの?」
牛嶋は基本的に、自分からアイデアを出すのが苦手だった。
「キヒッ、一人一人尾行しようよ」
そんな牛嶋を、嶋牛は可愛いらしいと思っていた。
「良いじゃん! それでそれぞれの弱みを探すんだな?」
「だねっ。今日はどうする? 兎咲は最近休んでるから、女神か天使か十六文字か犬養か猫宮付ける事になるけど?」
「十六文字だな! あいつの弱み握れりゃあ、良い手札になる」
「だね。それならウチは……」
「えっ?」
「んっ? えっ? って何?」
嶋牛が牛嶋に問い掛けた。
「いや……一緒に……」
牛嶋は、二人で探偵ごっこをやりたかった様だ。
「効率、悪くない?」
嶋牛が牛嶋に意見を言うのは珍しい事だった。
「でも……暫く尾行続けるよね? その間、あの……二人で、放課後一緒に居れなくなるって事だよね……?」
嶋牛は、少しだけ笑って返事をした。
「そうだね。二人でやろう! 一人でやるより、二人でやる方が絶対楽しいもん!」
牛嶋は、伏せていた目を嶋牛と合わせ、その瞳を輝かせながら言った。
「うん‼︎」
こうして、牛嶋と嶋牛は、限りある青春の貴重な時間を無駄遣いする事に決めたのであった。




