八十七頁 鳥 拾壱 『小鳥優子と十六文字羊子』
八十七頁
鳥 拾壱
『小鳥優子と十六文字羊子』
猫ちゃん、今日も昼休みに、天羽と兎咲と犬養の四人で居るなぁ……あの時のメンバーだ。あっ、猿の二人も来た。蛇喰商店街に居た四人と猿を含めて六人で仲良くつるんでる。
私も居たんだけどなぁ……もしあそこで、勇気を出して残る選択をしていたら、今私はあの輪の中に居たのかな? でも、猫ちゃんが窮屈そうにする姿なんか見たく無い。きっと、猫ちゃんは優しいから私が輪の中に居る事を咎め無いよ? でも、私が欲しいのはそんな取り繕った友情じゃ無い。お互いを想いやれる関係でありたい。そうで無ければ、傍に居る意味なんて無い。
私、何処で間違っちゃったんだろう……あんなに友好な関係を築いていたのに。
あれかなぁ……? 猫ちゃんの家でう○こ漏らしちゃった事……そんな事で猫ちゃんが怒る訳無いか。あれかなぁ? 蛇喰商店街で三上と言い争いをした事……だって、猫ちゃんは三上の事……掌に穴を空けてまで三上の刃を防いだ事も、猫ちゃんにとっては迷惑な事だったのかなぁ⁉︎ で、でも! 守らないなんて選択肢無かったよ‼︎ だって、じゃないと、全ての事意味無くなるじゃん。
猫ちゃんが死んでしまったら、もう、私の存在意義さえ無くなってしまうのに。
そういえばこの間、みんなで放課後集まってたな。三上と羊子も居た。羊子に、今どんな状況なのか、聞いてもいいかな?
昼休み、勇気を出して羊子に話し掛けてみた。
「あっ、羊子? って、まだそんな呼び方しても良いのか分からないけど……」
羊子と話すのは、別荘で一緒のベッドで寝て以来だった。
「ゆ、優子さん⁉︎ ……それ、どういう意味ですか?」
何? 怒ってない? やっぱ馴れ馴れしいって感じるものなのかな?
「あの時は色々あって興奮してたからさ? やっぱり、十六文字って呼ぶ事にするよ……」
「……なんですそれ? なんなんだよそれ⁉︎」
珍しく、十六文字が声を荒げた。
「何怒ってんだよ? そんなに下の名前で呼ばれた事が気に食わねぇのかよ⁉︎」
そんなのあんまりじゃん? ってか自分は優子さんとか呼んでるし!
「そんな訳無いでしょ‼︎ 放ったらかしにしといてそんな的外れな事言うから怒ってるんですよ‼︎」
「お前だって私の事下の名前で呼んでんじゃん⁉︎ 訳分かんねぇよ!」
「だから下の名前で気兼ねなく呼べって言ってんだよ‼︎ 何を気に掛けてもくれない癖に気遣ってくれちゃってんの?」
「どゆ事⁉︎ 下の名前で呼ばない事が逆鱗なの? じゃあ羊子って呼べば良いんだろ⁉︎ 落ち着けよお前! じゃ無くて羊子……」
本当何言ってんだよ⁉︎ 思わずお前って言っちゃったよ……これでまた怒られるのか?
「お、お前でも良い‼︎ よ、羊子かお前って呼んで……? 十六文字って呼ばれるのは、嫌なの……」
「なんで? みんなからそう呼ばれてんじゃん?」
「そうだけど……優子さんだって、猫宮さんにぴぃちゃんって呼ばれたいんでしょ? それと、同じなんですよ……」
「……そういうもんかな? だってお前が態度わりぃから、羊子とか馴れ馴れしく呼んで欲しく無いのかなと思って」
「だって……久しぶりに話し掛けて来てくれたと思ったら、十六文字って呼ぶ事にするよとか意地悪言うから……許せなかったんだもん!」
「どうした? キャラ崩壊してんぞ? 体調でも悪いのか⁉︎」
「もぉ‼︎ こんなに放ったらかしにした癖に、なんなんですかその態度は⁉︎」
「放ったらかし? そんなつもり無ぇよ‼︎ たださ、友達なんて居た事無いんだから、距離感とか分かんなかったんだよ」
「そんなの、言い訳になりませんから!」
「いや、放ったらかしって何? 声を掛け無かった事言ってんなら、お前だって私に声掛けてくれなかったじゃん!」
「…………確かに」
「お互い様だろ? 仲良くなったと思ったのに、全然声掛けてくれねぇから、一時の気の迷いだったのかな? って、思ったんだよ」
その時、急に右の手を両手で掴まれた。
「えっ⁉︎ そうだったんですか⁉︎ そんな風に、思ってくれてたんですか?」
そうだけど、急にどうした?
「友達になったと思ってたけど、また私の勘違いなのかなって不安で。もう、傷付くのは怖いから」
傷付いた心は、そう簡単には治らないから。
「猫宮さんの事、ですよね……どうしてですか? 何か、わたくしが抱いている優子さんのイメージとかけ離れてるんです。わたくしの想像でしか無いんですけど、友達と思ってた人に裏切られたら、優子さんなら怒り狂うんじゃないかと思ったんです」
「私そんな野蛮人に見える? それで逆恨みして相手をどうこうって……した事あったわ。猫ちゃんの首絞めた事あったわ……」
「首絞めって……そんなプレイ、じゃ無いんですもんね? ちょっと羨ま、じゃ無くて過激ですねぇ。何で今は、大人しくしてられるんですか?」
それは…………
「……猫ちゃんの良い所を、いっぱい知ってしまったから……」
「相手の事を知った事で、裏切られても、憎む事が出来なくなってしまったんですね……」
「違う……私は、猫ちゃんに裏切られたなんて思って無い。だって猫ちゃんは、私の初めての友達になってくれて、私の行きたい所に付き添ってくれて、お母さんに私を紹介してくれて、夕飯を一緒に食べて、人生ゲームをしてくれて、夢を語ってくれて、かくれんぼをして、探偵ごっこしたりして……私が三上と揉めてた時は、間に入って止めてくれた。猫ちゃんに嫌われてると知ったあのファミレスの時でも、帰り際、私の待ってという声を聞いて、立ち止まってくれた。そのまま去ってしまったけど、きっと面と向かって嫌いだって言ったら、私が傷付くと思ったから、そうしてくれたんだ」
「なんで? そこまで想っている人に距離を置かれたら、裏切られたと思いませんか? 自分の心を弄んでたんだって憤りを感じませんか⁉︎」
「思わないし、感じない。猫ちゃんが私を遠ざけるのは、全部私のせいだから。その理由が何かは分からない。でも、猫ちゃんのせいじゃ無いって事は分かるの。だから私は、猫ちゃんに許して貰えるまで、猫ちゃんの為になる事をしたいの」
「そこまで盲信する程、あの子の事を……」
「盲信なんかじゃ無い。事実だよ?」
「……確かに、色々言いましたが、わたくしも猫宮さんの事は好意的に見ています。優子さん? あなたの好きになった人は、ちゃんと人に尽くせる人ですよ」
「……知ってるよ」
「好きなんですね? あーそうですか」
「へっ? 何言ってんの? 友達として、ねっ?」
「もういいです! どうせ、わたくしに話し掛けたのも、猫宮さんの状況が知りたかったからでしょ?」
「そ、それは……それもあるけど!」
「それ以外、何があるんですか? …………はぁ。何か気の利いた事即答出来ないんですか? 羊子の事も心配でぇ、とかさ……」
「でも、羊子は強いから!」
「わたくし、いつの間に強い認定されてたんですか? ……そんな事無い。わたくしだって——」
「えっ? なんて?」
「ふふっ、もういいです。自分でも声ちっちゃ過ぎて聞こえ無いと思ったもん。猫宮さんの事は、天羽さんに聞いた方が早いと思いますよ」
「なんだよ? 教えてくれないの?」
「わたくしもよく分からないんです。わたくしが知っているのは、兎咲さんが大変な状況にある事と、三上さんに催眠が効かなくなった事くらいです」
「兎咲なぁ、アイツのせいで猫ちゃんが巻き込まれちゃった。三上に催眠が効かなくなった事は聞いてたよ。まぁ、その方が平和っちゃ平和か?」
「でもなんか、良く無い事が起こりそうな予感はしています」
「勿体ぶらないで教えてくれよ!」
「わたくしは催眠術師ですよ? 占い師じゃ無い。未来なんて見えません。ただの、女の勘ってやつですよ」
「そっか……天羽にラインしてみるよ」
「そうですね……優子さん、これを渡しておきます」
そう言うと、羊子は四つに折り畳まれた一枚の紙を渡して来た。
「なにこれ?」
「護身用に持っておいて下さい。役に立つかは分かりませんが……」




