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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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八十六頁    牛 漆   『手紙 ②』

 八十六頁

 

 牛 漆

 

『手紙 ②』

 

 時は兎咲が家族にカミングアウトした日曜日、そして猪本と白鹿が○民に行った金曜日から少し遡る。木曜日、牛嶋と嶋牛は気不味そうに顔を合わせた。

 

「あ、あの……? 晶ちゃん?」

 

 珍しく、嶋牛の方から声を掛けた。

 

「なに?」

 

 牛嶋が、面倒臭そうに応えた。

 

「昨日は、ごめん……」

 

「はぁぁ……もう良いよ。昨日だって謝ってたじゃん」

 

「晶ちゃん……」

 

「ウチらが仲違いしてる場合じゃ無い。今日、三上から手紙の返事貰わないと何されるか分かん無いんだから。それに、手紙読んだのカミングアウトしたウチが悪いんだし」

 

「ごめん。ありがとう……」

 

 確かに、二人は争っている場合では無かった。阿久津は三上からの返事を待ち侘びている。放課後までに返事を貰えないと、次こそ二人は本当に殺されてしまうかもしれない。

 

「このまま放っておくって選択肢は無いよな?」

 

「どういう事? そんな事したら、目付けられて……」

 

「だから何だよ⁉︎ ウチらただの女子高生だぞ? 何が出来る? さやかがそうやって不安煽ってっから良くねぇんだよ‼︎ な、何も、何も出来やしねぇよ!」

 

 そう言いながら、牛嶋の身体は震えていた。

 

「そうなのかもしれない。でも、判断を誤れば、その先に待つのは、死だよ」

 

「お、大袈裟だなぁ……」

 

「そんな事無い。女神の事忘れたの? ウチらめちゃくちゃ引いたのに、鬼釜は笑って、阿久津は頬を赤らめてた……頬赤らめるって何で⁉︎ マジ謎なんだけど⁉︎」

 

「落ち着けよさやか⁉︎ ほ、ほら、例えばさ? このまま怒りの矛先が女神に向くって可能性もある訳じゃん?」

 

「どういう事?」

 

「ウチらは阿久津からの手紙を女神にちゃんと渡したんだ! 何の責任を咎められる? 悪いのは、返事を書かない女神の方じゃないか!」

 

「……確かに。ウチは、もしかしたらとんでも無い勘違いをしていたのかもしれない。女神から返事を貰わないと、ウチらが責められると思い込んでいた。何で、そんな考えに至ったのだろう?」

 

 それは、二人が阿久津にビビっていたからだった。阿久津の意に沿わぬ事があると、自分達が悪いと勝手に思い込む様に意識を刷り込まれてしまっている。明らかな主従関係、自分達が舎弟に成り下がっている事に、牛の二人は気付いていない。

 

「だろ? このままで良いんだよ! ウチらは、勝手に潰し合うアイツらを眺めてりゃ良い!」

 

「いいね……それこそ参謀だ」

 

 二人の考えは、概ね間違っていない。阿久津と三上の関係に亀裂が入れば、二人は蚊帳の外の住民になれる。阿久津と三上の圧に、二人が耐え切れればの話しだが……

 

「はぁ何か気が晴れたわ。昨日とか寝れなかったし」

 

「ウチも。なんなら、女神の代わりに手紙の返事偽造しようか思った程だもん」

 

「……手紙を、偽造?」

 

「うん。色々考えたんだけど、それが一番丸く収まる方法かなって」

 

「い、いや、そんな事してみろよ? バレたら、ただじゃ済まないぞ?」

 

「だよね。ウチが間違ってた」

 

 昼休みになり、二人は教室の外から阿久津に呼び出された。

 

「晶ちゃーん? さやかちゃーん?」

 

「ヒッ……は、はぁーい!」

 

「晶ちゃん大丈夫! ウチらは何も悪く無いんだから」

 

「あ、あぁ……分かってるよ」

 

「行こう」

 

 二人は教室から出て、無言で歩く阿久津の後ろを付いて行った。

 

 阿久津は今は使われていない二年五組の教室の前まで歩くと立ち止まり、振り返らずに二人に質問をした。

 

「ねぇ? 返事は?」

 

「あ、あの、ま、ままま、まだ……」

 

「なんで?」

 

「ほ、本当に女神は、わ、悪い奴ですねぇ……」

 

 その言葉を聞いた阿久津は、悪魔の様な形相で振り返り言った。

 

「はっ? 私の友達を何悪く言ってくれてんの? どうせお前らがちゃんと渡さなかったんだろぉが⁉︎ お前らよりも三上恵理奈の方を私は信じてんだよ‼︎ 何? 舐めてんのかな? 私がいつも優しいからそうやって舐めた事してくれてんだァァァッ⁉︎ 返せよ? どうせお前らがまだ手紙持ってんだろ? 返せよ自分で渡すからさァァァッ‼︎」

 

「ヒィィィィィィィィィィィィイッ‼︎」

 

「それやめろって言ってんだろ⁉︎ 声揃えやがって、おちょくってんのかテメェら⁉︎」

 

「ち、ちがっ……て、手紙、ウチら、ちゃんと、わ、渡した……」

 

「まだ言ってんのかよ⁉︎ お前らマジで、覚えとけよ? 私の優しい心を踏みにじりやがって……そういうのは、許されない罪なんだよ。罪を犯した奴には罰が必要なの。分かるよね? 何がいい? 私ね、何でもするよ? 家燃やそうか? それとも家族に不幸が起こる方が良い? それとも今は見逃されて、将来あらゆる場面で不幸が訪れる方が良いかなァァァッ⁉︎ 選べよ‼︎ 私ね、絶対忘れ無いから。この心を踏み躙られた屈辱だけは、絶対に忘れ無いから‼︎」

 

 この阿久津の圧にさえ流されなければ、二人には蚊帳の外の平穏な日々が待っていた。

 

「ほ、本当に手紙は渡したんです‼︎ て、手紙の返事を催促します‼︎ だ、だから……」

 

「ふーん……もう少しだけ、待ってあげても良いよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 二人は大急ぎで教室に戻り、女神からの返事を偽造し始めた。

 

「な、な、なんて書こう⁉︎」

 

「ら、ラブレターだったんだから、それ相応の返事じゃ無いと納得しないよね⁉︎」

 

「じゃあ、じゃあ! わたしもあなたと会いたくて、会いたくて震えてましたみたいな⁉︎」

 

「もっと愛の言葉を聞かせてよ私だけにみたいな⁉︎」

 

「これからもどうぞ宜しくねみたいな⁉︎」

 

 二人の頭に、三上へ手紙の返事の催促をする選択肢など無かった。一生分程の圧を阿久津から受けた後で、女神の圧にまで晒されてしまったら、二人は精神を正常に保てる自信が無かったのだ。だから思考が定まる筈も無く、自分達が西野カナの歌詞を丸パクリしている事さえ気付かず、返事を書き進めていた。

 

「子供はどのくらい欲しいみたいな⁉︎」

 

「男の子と女の子どっちが欲しいみたいな⁉︎」

 

 手紙を書き終わったと同時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。午後の授業を受けている内に、二人は冷静になっていき、さっき書いた手紙の内容がとんでも無い事に徐々に気付いていった。

 

 授業と授業の空き時間、二人は青褪めた顔で話し合った。

 

「さっき書いた手紙なんなんだよ⁉︎ 絶対おかしいよなぁ⁉︎ さやかどうしちゃったんだよ⁉︎」

 

「晶ちゃんだって同じ様な事言ってたじゃん⁉︎ ウチのせいにだけしないでよ⁉︎」

 

「こういう時はいつもさやかが冷静に対処してくれるじゃん⁉︎ 何を慌てふためいて同じ暴走列車乗車してくれてんだよ⁉︎」

 

「そういう事言うならいつもウチは判断を晶ちゃんに託して来た‼︎ 切符買って手を引いたのはそっちでしょ⁉︎」

 

「あっ、そんな事言ってる間に休み時間が終わっちゃう……」

 

「と、取り敢えず授業が終わったら速攻帰ろう‼︎ ファミレスで手紙書き直そう‼︎」

 

 二人は変な所真面目で、授業を受けずにバックれるという発想が無かった。そうしていれば、阿久津に捕まる事など無かった。

 

 放課後、引き出しの中の物など気にせず走って帰れば良かったのに、二人は変な所真面目で、鞄に教科書やノートを慌てながら詰め込んでいると、突っかかって筆箱を落としたり、それを拾おうとしてお互いの頭をぶつけたり、たっぷりと時間をロスしていた。

 

「晶ちゃーん? さやかちゃーん?」

 

 タイムアップが、来てしまった。

 

「は、はぁーい……」

 

 二人にはもう、選択肢は一つしか残されて無かった。

 

 阿久津の前まで行き、昼休みにトリップしながら書いた手紙を阿久津に渡した。

 

「えっ⁉︎ 返事? 凄いじゃん二人とも! あの子になんて言ったの?」

 

「えっ、別に、阿久津さんが手紙の返事が来なくて、傷付いてるみたいな事言いました」

 

 手紙の返事を偽造したくらいだ。この程度の嘘を吐くのなど、なんの躊躇いも無い。

 

「そしたらなんて言ってた?」

 

「実はもう書き終わってて、恥ずかしくて渡せなかったって言ってました」

 

「えぇっ⁉︎ 嬉しいしィィィイッ‼︎」

 

「アハハ、良かったですね」

 

「昼休みに言った事、あれ全部冗談だからね? 友達に本気であんな事言う訳無いじゃんねぇ? さすがに見透かされちゃってたかなぁ?」

 

「アハハ、そうですね」

 

 阿久津と別れ、二人は一言も会話を交わす事無くゆっくりと帰り道を歩いた。ずっと下を向いて歩いていたおかげか、二人は合計で二百十円の小銭を拾った。

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