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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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八十二頁    女神 玖   『手紙』

 八十二頁

 

 女神 玖

 

『手紙』

 

 久しぶりに、兎咲が学校に登校して来た。佑羽と猫宮と犬養と四人で登校して来たのだが、顔は俯き青褪めてさえいた。その姿を見て、涎が一筋わたしの左の口の端から垂れ落ちた。

 

 意外と良い表情すんじゃん? 傷付いてんのか? でもわたしには、もっと追い込んで欲しいですって顔に見えんだよ。本当は、今のどうしようもなく追い込まれた現状に、快感など覚えているんじゃないのか? 教えてよ? みんなには内緒にするからさぁ? ねぇ兎咲ぃい? わたしにだけ教えてよ? 自分の性癖に気付いたのだったら、わ、わたしが手伝ってやるからさぁあ⁉︎ 痛い事しようよ? いっぱい切って、括って絞めて、痛い傷い事しよぉお? きっと楽しいんだお? で、でも……そんな楽しいプレイしてたら、間違って殺しちゃうかもぉぉぉぉぉお‼︎ ゆ、許してね? へへっ……ゆ、許して……ってまた妄想の果て殺しちゃってるし。マジ、どうにかしてくんないかなこの衝動。

 

「兎咲学校来たじゃん?」

 

 平静を装って、佑羽に話し掛けた。

 

「うん。良かった……とも言ってられないんだよね。二組の鬼釜さんって人に弱味握られてるから、あっちが何して来るか分かんないし」

 

「弱味ってあれだろ? 佑羽の家のゴミ漁ってたやつ。多分このクラスの奴らにはまだ知れ渡って無いけど、時間の問題じゃん?」

 

「そうなの……一応策は考えたんだけど、こっちのカードを切るのは向こうがアクション起こしてからだね」

 

 へぇー。何か、やっぱり少し変わったな、佑羽。

 

「カードって、どんな作戦なの?」

 

「恵理奈ちゃんが、佑羽達にちゃんと協力してくれるって言うんだったら教えてあげる」

 

 はっ? 舐めてんのかよ? わたしと取り引きしようとしてんのか?

 

「じゃあ教えてもらわなくていいよ」

 

「舐めてなんか無いよ。友達を、助けたいから。それにはまだ、足りないモノがいくつかあるんだ」

 

 なんか、あの頃の佑羽に、小学生の頃の、みんなを結び付け様とする佑羽に戻っていってる気がする……いや、それよりも意気地が強く、鋭いモノを感じる。ってか、舐めてんのかよって声に出して言ったっけ?

 

「まぁいいよ。わたしは強要されるの嫌いなんだ。頼みたい事あれば、どうしてもって言うなら聞いてあげるかもよ?」

 

「うん! 恵理奈ちゃん、ありがとう。きっと、どうしてもってお願いする時が来ると思うから!」

 

「まぁ、そんな大袈裟な事になるとは思わないけどね」

 

 つまんねぇスクールライフ。目玉が零れ落ちる程の刺激的な出来事なんてそうそう起こんねぇだろ? いつも通りの午前授業を終え、昼休みを迎えた。

 

 兎咲は佑羽とか犬養とか猫宮とか、猿も来てんな? そいつらと一緒だ。杞憂が過ぎんだよ。問題なんか起こらず、平和に暮らすんだよくだらねぇ。これでわたしにみんなを殺す催眠が掛かれば、別に言う事は無いんだけど、催眠が掛からなくなってしまってる。先週の金曜日、十六文字と猫宮と放課後、わたしに催眠術が掛かる様にいくつか実験をした。

 

 十六文字にチックッタックとやられたり、タックッチックもやられたり、猫宮にマッサージをさせ、リラックス状態にしてチックッタックやったり……色々やっても、催眠に掛かる気配が無かった。チックッタックって、ふざけてんのかな? 殺してやろうかな? とまで思った程だった。

 

 もう、無理なのかな? あの興奮を味わう事は出来ないのかな? 兎咲の臓物を掻き廻し、犬養を削り、猿を沈ませ、鳥を斬って、十六文字をニッパーで千切った。あの興奮を味わう事は出来ないのかな?

 

 昼休みももうすぐ終わる。トイレに行って戻る時、名前も知らない二人組に呼び止められた。

 

「あ、あの、三上……さん」

 

「あれ? お前らどっかで見たな?」

 

「忘れてるんだ……あの、屋上でなかなか衝撃的な場面に出会したんですが?」

 

「あぁ思い出した! で、何か用?」

 

 まぁ、名前までは知らんけどな。

 

「あの、これを……」

 

 眉毛の細い方が手紙らしき物を渡して来た。

 

「はっ? 手紙か? ってか前にわたしの引き出しに手紙入れた奴って、お前らなの?」

 

「いやっ! あの……そ、そうです。二組の、阿久津という子に指示されて……」

 

 眉毛の太い方が言った。

 

「それで指示通りに動くお二人さんな訳ね? ってか呼び出しといて屋上来なかったらしいじゃねぇか? 舐めてんのか?」

 

「え、えぇっ⁉︎ 行きましたよ⁉︎」

 

 眉毛の細い方が必死の形相で言った。

 

「そ、それに、屋上来なかったらしいっていうのは、どういう事?」

 

 眉毛の太い方に質問された。ってか、お前ら交互に喋る事しか出来ないの?

 

「うーん。まぁいいよ。阿久津って奴からだな? 受け取っとくよ」

 

「は、はい!」

 

 二人と別れ、教室まで歩いた。ってかあいつら何処のクラスの奴らなんだ? 敬語使ってたし一年かな?

 

 小鳥の奴、嘘吐いてたのか? 相手来なかったって言ってたからあんまり気にして無かったけど、何か話しが食い違ってたな。

 

 教室へ戻り、自分の席に着いて、手紙を開き読んでみた。

 

 

 三上恵理奈様へ

 

 五月だというのに、まだ寒い日が続きますね?

 暫くの間、私用で忙しかった為に、友達のあなたと交流する場を設ける事が出来ませんでした。ごめんなさい。

 私は、あなたの事がもっと知りたいです。手紙にしたのはまず、あの時あなたと連絡先を交換しなかったから。何故私は、連絡先を交換しなかったのだろう?

 思い当たる節はみっつ、一つは、同じ学校の同級生という事からの怠慢。またいつでも会えるだろうと思っていた。

 二つ、そもそも私は、あまり連絡を取り合う事が得意じゃない。学校で会えるのであれば、それで良いと思ってしまっていた。ごめんなさい。あなたに、私が離れてしまったんじゃないか? と不安にさせてしまったよね?

 三つ、興奮していたの。あの時あなたが話していた心の中の友達、きょうこさんでしたよね? そういう者を生み出す共通点があった事で、私は興奮した。

 目の前のあなたが愛おしくて、輝いて見えた。本当は、喉から出た手であなたの肩を掴み、離したく無かった。でも、初対面の子にそんな事をする事は許されない。でも忘れないで? あの日から私は、あなたの事ばかり考えているの。

 今日の手紙はこのくらいにしておきます。返事、お待ちしていますね?

 

 阿久津真央より

 

 

 ………………何だこの手紙?

 

 気持ち悪っ。お前の事なんか知らねぇし‼︎ 本当にこれわたしに宛てた手紙なのか⁉︎ でも三上恵理奈様って書いてあるし、全然思い当たる節無ぇけど。まぁわたし人の顔と名前覚えるの苦手だからなぁ。手紙渡して来た眉毛の二人も初対面かと思ったくらいだし。

 

 まぁ取り敢えず、こんな気持ち悪ィ手紙はシカトしとくか。

 

 ……きょうこ? 何か、聞き覚えのある名前だな? いや、きょうこなんてありふれた名前、聞き覚えあって当たり前、の筈なのに。忘れちゃいけない様な、思い出しちゃいけない様な、そんな感覚を覚えるんだ。

 

 何だこの気持ち。駄目だ、忘れよう。どうせ思い出せねぇよ。この阿久津って奴と一緒に、忘れてしまおう。

 

 四日後、また地味な眉毛の二人組が話し掛けて来た。

 

「あ、あの、これを……」

 

 また手紙⁉︎ どうなってんだよ⁉︎

 

「次は誰からだよ⁉︎」

 

「阿久津からです……」

 

 呪いの手紙か何かか⁉︎ ラインでもうぜーのに手紙連投してくる奴なんてこの世には居んのか⁉︎

 

 席に着いて、手紙を開いた。

 

 

 三上恵理奈様へ

 

 お変わり無い様で安心しました。お身体にだけは気を付けて下さいね?

 本題に入るね? 私が産みたいのは、男の子です。何故男の子なのかな? とあなたは疑問に持つでしょう。それはね? もしも私が、男の子として産まれて来たら、どう育っていたのかな? と、思うからです。

 だから私は、息子に私が生きて来たままの体験をさせたい。そして、その時どう思ったのか? どう行動したのかを逐一聞きたい。生き写しの様な愛児と、二回目の人生を男の子として歩んで行きたいんだ。

 それから——

 

 

 途中で手紙を閉じた。

 

 何で急に子供の話しし始めた⁉︎ 返事も出してねぇのにヤバ過ぎだろ⁉︎

 

 聞いてらんねぇ。自分の子供が、二回目の人生? はっ、ハハハッ。考えた事も無かった。わたしは、子供なんて産めない。殺人衝動なんてある女が、未来を夢みる事なんて許されない。

 

 ねぇ? わたしに、未来なんてあるのかな? 誰か、教えてよ?

 

 佑羽は今、兎咲の事で手いっぱい。あれ? 佑羽が居なくなったら、誰もわたしを見てくれない。この手紙の主は? いや、こんなイカれた奴わたしは知らない。それじゃあ、誰も、誰もわたしを気に掛けてくれないんじゃん⁉︎

 

 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! そんなの、死んでるのと同じじゃん……

 

 誰か、わたしが居る事に気付いて? 声を掛けて気遣ってよ⁉︎ なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?

 

 なんでみんな、わたしの事知らない振りするの?

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