八十頁 兎 陸 『水玉模様』
八十頁
兎 陸
『水玉模様』
本当は今日、みんなと会うつもりなんて無かった。だけど、犬養君が逃げる僕を追いかけてくれて、そこで話してくれた言葉は忘れない。何より、僕のせいで三人、いや小鳥君も入れて四人を巻き込んでしまった。僕にも、何か出来る事をしたい。風前の灯火ってやつだ! 灰になるまで、僕だって戦ってやる!
……戦うのか? 何故そんな事態に発展している? 来年受験だよ? そんな事してて本当に良いのかな? ……って、僕が言えた義理じゃ無いな。
デリシャス美味まで歩いている時、犬養君が衝撃の事実を告げた。
「そういやお前は知らないだろうけど、天使と猫宮付き合ってるみたいだぞ……」
「はっ?」
何それぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ⁉︎ えっ、えっ? ナニソレ? や、ヤバい。風前の灯火消えかかってる……
「な、何で? 何だよそれ⁉︎ 猫宮君は天羽君に興味無い筈だろ⁉︎ 何でそんな事になってるんだよ⁉︎」
「今日一の圧で捲し立てんじゃねぇよ‼︎ ってか、こっちが聞きてぇよ⁉︎ 何であの二人付き合ってんだよ⁉︎」
「い、いつから?」
「いつからかは知らんけど、聞いたのは蛇喰で鬼釜とかと会ったちょっと前」
「そ、その後に僕は、天羽君に告白してしまったのか……な、何故教えてくれなかったんだ? 告白した僕が馬鹿みたいじゃないか⁉︎」
「いやいや、お前学校休んでたし、それにあの告白で上手く行くとでも思ったのか? ストーカーしてましたって言ったんだぞ? どっちにしろ無理だろ?」
「あ、あぁぁそうだね。とてもはっきり言うんだね? 僕は何を言っているんだ? 僕はストーカーで、その罪を暴露した挙句に告白したんだった……ね、ねぇ? えへへっ、えへへっ! 僕それ相当ヤバくない⁉︎ よく考えたら相当ヤバくない⁉︎ その相手に今から会いに行くのぉ? どの面下げて⁉︎」
「ちょ、お前! 壊れんなよ⁉︎ 怖ぇよ。その相手から誘われてんだからギリセーフだろ」
「セ、セーフかなぁ? 本当にそう思う? だって、ストーカーしてた上に告った相手の恋人が居るんでしょぉ? アウトだよねぇ? 彼氏にしばかれるんだよねぇ⁉︎」
「落ち着けよ兎咲‼︎ 恋人っつったって猫宮だぞ? ごちゃごちゃ言ってくる様だったらぶん殴って黙らせりゃいいだろ?」
「君の家のゴミ漁ってました、君が好きですって言って後日呼び出されて、彼氏に因縁付けられてぶん殴っちゃう奴ってどう思うゥゥゥゥゥゥゥウ⁉︎」
「そ、そりゃお前……激ヤバだよ! 確かに激ヤバだったわそりゃ‼︎ 大丈夫だから! そうはなんないから! ってかさ、お前、何でゴミなんか漁ったの?」
「ちょ、ちょっと、もうちょっと、優しくしてよ……」
「あ、あぁ。まぁ、まだちょっとな?」
よく考えたら、僕激ヤバじゃないか⁉︎ 良いのか? このままデリシャス美味に向かって本当に良いのか⁉︎
「なぁ? ……ゴミの中さ、何入ってた?」
君なに聞いて来てんの⁉︎ ここは黙って付き添ってくれる場面じゃないの⁉︎ これだけの汚名を被って、鬼釜にペットとして扱われ手に入れた情報、何の手も汚して無い君に教える訳が無いだろ⁉︎
僕は、思い詰めている顔を作って、無言を貫いた。
そうこうしている内に、デリシャス美味に着いてしまった。もう、逃げる事は出来ない。犬養君が、デリシャス美味のドアを開け、二人で店内に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ! あっ……」
あっ……って、何? 君、僕の事知ってるの? 見たところ同い年くらいの女の子、首輪繋がれて散歩させられてるの見てた? それとも、ゴミ漁ってる写真見た? いやっ、違う。この子の視線は犬養君に注がれている。知り合いなのかな? 僕も被害妄想強くなってるな。心を、落ち着かせないと。
「あ、あの。先に二人来てると思うんですけど?」
知り合いでは無いんだね? 犬養君がそう言うと、その子は我に返り、笑顔で僕の方も見た。
「えっ⁉︎ あれっ⁉︎」
僕の顔見てめっちゃリアクションした‼︎ この子確実に何か知ってる。もしかして僕の情報は、町中に広まっているのか⁉︎ ……地獄かよ。
「あっ、すいません何でも無いです! どうぞこちらへ」
店員さんに着いて行くと、天羽君と猫宮君が座っている席を見つけた。二人掛けのソファーが向かい合っている席に、天羽君と猫宮君は並んで座っていた。……なんで? 普通先に二人で来たなら、向かい合って座らない? なんで並んで座るの? 手、繋いでるんじゃないの? そんなの、刺激が強すぎるよ……
「美穂ちゃん!」
「あっ、わんちゃん遅いんだよ‼︎ って、兎咲も一緒ではないか?」
天羽君……こんな僕に、そんな心配そうな表情を浮かべてくれるんだね。猫宮君は、何も気にしていない様にも見えるけど、この女はよく分からないからな。警戒しておこう。
「それではごゆっくり」
店員さんが案内を終え、その場を離れ様とした。
「亀水さん、またね!」
「あっ、う、うん」
へっ? 天羽君の、知り合い? そのままその店員さんは、足早に去って行った。
「わんちゃん遅いんだよ! 四十分も遅れているではないか!」
君達もちょっと遅かったけど……それに、犬養君は僕を追いかけたから。ちゃんと、説明しないと!
「あ、あたしは! 店の前で二人を待ってたんだ! そしたら電信柱の影に隠れてる兎咲を見つけて、あたしが声を掛けたら逃げたから追って、捕まえて、帰るとか言うから、また逃げんのかよ! って言って、なんとか説得してここまで連れて来たんだ! だからこんなに遅れたんだよ‼︎」
全部説明してくれたなぁ。オブラートに包む、って発想を除外して自分が良く映る様に全部説明してくれたなぁ。勿論、事実なんだし文句なんか無いけど。
「そうなのか、それじゃあ全部兎咲が悪かったのだな」
そうそう僕が全部悪かったんだよぉぉぉぉぉぉお‼︎ ごめんねみんなを巻き込んで! 僕が全部悪ぅござんしたぁぁぁぁぁあ‼︎
「そんな事より、天使あの店員と知り合いなの?」
そんな事よりって……犬養君の、天羽君の前では他の奴どうでもいいって感じ本当徹底してるな。
「中学一年の時同じクラスだったの! その当時はちょくちょく話したりしてて、同じ高校なのは知ってたけどそんなに話したり出来なくて。でも本を読みたくてたまたま入ったこの喫茶店で働いてる事知ってから通う様になったの!」
そうだったんだ。本? 天羽君の、好きな本……聞きたいけど、聞けないな。この状況で、どの口が聞いてんだってなってしまう。天羽君と猫宮君が並びで座っているので、仕方なく向かいのソファーに座った。本当は天羽君と向かいの席が良かったのだけれど、犬養君の無言の圧力が掛かり、先にソファーに座り奥へ詰め、猫宮君と向かい合わせになった。
「美穂ちゃん? 学校来よう?」
天羽君は……間違いなく天使だ。こんなに迷惑を掛けている僕を、こんな心配した眼差しで見つめてくれている。
「犬養君と、少し話しをしたんだ。僕のせいで、みんなを巻き込んでしまった……」
「えっ。琴子ちゃん……何で傷付いてる美穂ちゃんにそんな話ししたの?」
「ち、違っ‼︎ 兎咲お前⁉︎ お、お前ぇぇぇぇ……」
天羽君の静かな怒りに、犬養君は震え上がった。そして、泣きそうな目で僕を見つめた。
「違うんだ天羽君! みんなを巻き込んでしまった事は僕自身気付いていた。そして、天羽君がみんなの力を借りて、僕を……こんなどうしようも無い僕を、助けてくれようとしている事を知った。だから……何の力も無い僕だけど、君達の為に出来る事があればと思ったんだ」
「それで、ここまで来てくれたの?」
「……うん」
「強いんだね。美穂ちゃんは」
えっ? 僕が、強い……? なんで、何で君はそんなに優しいんだよ。
「僕が、強い訳無い」
「強いよ。佑羽が同じ立場だったら、学校に行くのだって怖いもん。他の人の力になる為に学校に行こうって、なれないと思う」
同じ立場になって、考え無いでもらえるかな? 佑羽が好きな人の家のゴミ漁ってたとして、とか考えてって事だよね? より辛くなるんだよ。そんな事まで考えたのに君は、僕を気持ち悪いとは思わないの?
「まぁとにかく、猫達も巻き込まれている。兎咲も学校来るなら学校来るで、今後の対策を練らねばならないな」
猫宮君が話しを進めてくれた。特に苛立っている様子でも無い。彼女がストーカーされてたんだよ? 目の前で告白したんだよ? 憤りを感じてもおかしく無い筈なのに。あと君、少し前に僕の耳舐めて来たんだよ? 胸揉んで来たんだよ? あっ、考えれば考える程、猫宮君は意味不明だ。君達、本当に付き合ってるの?
そのテーブルの下、今は見えないけど、手を繋いでいるのか? それを知るだけでも、二人の関係の謎に迫れる様な気がする。僕は、目の前に置かれているおしぼりを落とした。
「あっ」
「どうしたの美穂ちゃん?」
「おしぼり落としちゃった」
今だ! 僕は頭までテーブルの下まで屈んで、おしぼりを取りながら二人の左手と右手を凝視した。良かった……その手は繋がれて無かった。ってアァァッ‼︎ あ、天羽君がミニスカでこっちに身体向いてるから、パンツ丸見えじゃないか‼︎ み、水玉の、水玉模様の可愛い可愛いおパンツどのが丸見えですぞォォォォォォォォォォォオッ‼︎




