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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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七十九頁    犬 拾壱   『負ける理由』

 七十九頁

 

 犬 拾壱

 

『負ける理由』

 

 青春してんじゃねぇ‼︎

 

 んだよコレッ⁉︎ なんなんだよコレッ‼︎

 

 金曜日に天使の誘いを受けたあたしは、日曜の午後三時から、二人の別れたのであろう交差点の近くの電信柱の影に隠れて二人を待った。四十分後に天使が現れ、その十分後に猫宮が到着した。ってか、天使を十分も待たせてんじゃねぇ。

 

 その後、ゆっくりと、本当にゆっくりと、デリシャス美味という喫茶店に、向かっているのか? と不安になるほどニタニタ笑って喋りながら歩いていた。

 

 仲良いじゃねぇかよ。付き合ってるって言ったりさ、猫宮にエロい事されそうになって喧嘩したりとかさ、あのさぁ? なんなの? 痴話喧嘩って訳⁉︎ それをずっと見せつけられてんだあたし⁉︎

 

 まぁ、勝手に見てる部分もあるけど。許せねぇ……人の恋心弄びやがって。まぁ、想いを伝えた訳じゃ無いから天使に弄ぶ気など無かったのだろうけど。

 

 流石に声が聞こえる位置までは近寄れない。ってか随分ダラダラ歩いてんなぁ……あれっ? もう五時過ぎてんだけど……あたしを待たせても、何とも思わないんだ?

 

 辛っ。何が一番辛いかって、四時五分。遅れてる癖になおもゆっくり歩く二人の目指す喫茶店は、多分あそこなんだと思う。この道、見覚えあんだよ。前回、あたしが水飲みまくった喫茶店なんだろ? ここかよ⁉︎ 気が動転してて、店名覚えてなかったんだよ。クソユーチューバーで女神の彼氏の様なモノの通う喫茶店は、デリシャス美味だったのかよ⁉︎

 

 天使と猫宮が中に入って行こうとする。現在の時刻は四時十分。ヤバい。このままじゃあたし遅刻したみたいになっちゃう! 駆け足で二人に近寄る。天使……いや、畏れ多いな。猫宮の肩を掴み、「外で待ってたんだ。二人遅刻じゃん? ふーざけんなー」くらいは言ってやろう。自分達のした行いに少しでも背徳感を与えてやらないと気が済まないんだよ。

 

 二人に詰め寄った瞬間、左側からの猟奇的な視線を感じた。咄嗟にその方角を見ると、兎咲が電信柱の影からこちらを見つめていた。兎咲と視線が交わってあたしは固まってしまい、その間に天使と猫宮はデリシャス美味に入って行ってしまった。

 

「えっ?」

 

 あたしのリアクションもよろしく無かった。兎咲はストーカーのレッテルを貼られている。まぁ、事実なんだけど。そんな奴が、電信柱の影からこそこそこちらを見ている姿を見られて、「えっ?」っと言われたら、誰だって逃げたくなる。例に漏れず、兎咲もそう振る舞った。

 

「アッ‼︎ 待てよ兎咲ィ‼︎」

 

 全速力で兎咲の後を追った。ってかめっちゃ速ぇアイツ‼︎ 追い付けねぇよ! このまま捕まえられなくて、連絡出来なきゃあたしがブッチしたみたいにならない⁉︎ 最悪なんだけど⁉︎ いや……それはもう兎咲を犠牲にして、追いかけてたから遅れたって言って、天使の心象だけは守り切ろう。

 

 っと思っていたら、兎咲がこけて追い付いてしまった。

 

「んだテメェこけんなよ⁉︎ こっちゃまだ頭の整理ついてねぇんだよ‼︎」

 

「ぼ、僕は、僕は! もうみんなと関わらないでいたいと思ってたのに、なんで余計な事するんだよ⁉︎」

 

「何の事言ってんだよテメェは⁉︎ 言っとくけどあたしはテメェの悩みなんかどうだっていいんだよ‼︎」

 

 兎咲に、思いの丈をぶつけてやった。

 

「えっ……だって、僕を追いかけて来たじゃないか?」

 

「お前が逃げるからだろ⁉︎ お前が逃げなきゃ追いかけ無かったんだよ‼︎」

 

「えっ……深そうで、よく分からない……」

 

「でも本当に、あそこでお前が逃げなかったら、あたしはあの喫茶店に入ってた。迷ってたんだろ? 行こうか行くまいか? だとしたら、あたしは中に入ってお前を待ってたよ」

 

「じゃあ、なんで……?」

 

「まだ分かんねぇのか? お前が逃げたからだよ‼︎」

 

「ぼ、僕が逃げたから、追いかけたって事?」

 

「だからずっとそう言ってんだろ‼︎」

 

「何で僕が逃げたら、君は追い掛けるんだよ⁉︎」

 

「あたしと目が合った事で、お前が傷付いてると思ったからだよ‼︎ だから、あんなに必死に逃げたんだろ? こける奴ってのは大体踏ん張り過ぎなんだよ。許容範囲超えちゃって足がついて来なくなったんだ」

 

「さらに恥の上塗りをしてしまった様だね。僕はもう、みんなに合わせる顔が無い。放っておいてくれ……」

 

 全て分かってましたみたいな口調が、鼻に付いた。

 

「はぁっ? 言っとくけどお前の心配なんか一ミリもしてねぇかんな?」

 

「……そうなんだ。分かっていたつもりだけど、面と向かって言われるとキツいもんだな」

 

「あたしはな。ってかお前、あたしに心配されてるとか思った事ねぇだろ? 傷付いたフリなんかすんじゃねぇよ。お前が、一番信じて欲しい人は誰だよ⁉︎」

 

「それは……君は、分かってる筈だろ? 意地悪な事、聞くなよ」

 

「言うんだよ。人って、心変わりとかするもんだろ? ちゃんとお前の心は、そのままなのか?」

 

「変わる筈無いだろ? 今でも……でも、そのせいで、迷惑を掛けた」

 

「だから、それなら名前を言って、想いを聞かせろよ‼︎ テメェがそんな中途半端なら、天使は誰の為に体張ってんだよ⁉︎」

 

「えっ? どういう事……?」

 

 あっ、天使が体張ってるって言っちゃった。

 

「さぁ早く、お前の気持ちを聞かせろ! そしたら、どういう事か教えてやる」

 

「ぼ、僕は……天羽君の事が、好きだ」


「天使は今、女神や十六文字の力も借りて、お前を救おうとしてる。そして、今日もお前の為にこの会合を提案したのは天使なんだよ。お前に迷惑掛けられた天使がそこまでしてんだぞ? それでもお前は逃げんのかよ⁉︎ もうお前だけの問題じゃねぇ! 天使も、あたしや猫宮も鬼釜に目付けられてる! お前だけ逃げんのかって聞いてんだよ⁉︎」

 

「そ、そんな大事になるなんて……僕は、僕は……」

 

「トリップすんなよ? 確かに、イマ目をつけられてるみんなで学校辞めれば、逃げ切れるのかもしれない。でも、あたし達は負け無いかもしれない。もう、一人じゃないから。それに負けたって、一人きりにはならないから」

 

「鬼釜は、悪意で満ちてるんだぞ?」

 

「それが、負ける理由になんのか? 言っとくけど、お前が消えてもあたし達は戦う。お前が火種だぞ? 少しくらい役に立ちたいとは思わないのか? 情けねぇ。好きな女の前で、最後くらい格好良い姿見せろよ」

 

「……分かった。戦うよ! ……ありがとう。君とこうやって話せていなかったら、決意出来なかったと思う」

 

 兎咲を唆す為に、戦うとかいうワードやたらと使ったけど、あたし達女子高生なんだけど? 戦うよりも勉学に励んだ方が良いと思う、けど。そのおかげであたしは日曜日にも天使と会える。だから今は、こんな青春も良いなと感じるんだ。

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