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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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七十八頁    猫 拾伍   『桜の花びら』

 七十八頁

 

 猫 拾伍

 

『桜の花びら』

 

 憂鬱なんだよ。何故せっかくの休日に、大して興味の無い奴らと会わなければならないんだよ? 日曜日はいつも、母とスーパーに買い物に行って、一週間分のお菓子をねだる日なんだよ。これは駄目、あれは駄目と言いながらも母は、しょうがないわねと言って大量のお菓子を買ってくれるんだよ。

 

 これから一週間、猫はどう過ごせばいいか⁉︎ 先週買ってもらったお菓子は食べ切ってしまったんだよ! 今日その補充をせねば、猫の風呂上がりの楽しみが無くなってしまうではないか! 全部、天羽が悪いんだよ。

 

「日曜日、佑羽と猫宮さんと琴子ちゃんと美穂ちゃんの四人で集まろう!」

 

 金曜日の放課後、天羽がそんな事を言っていた。

 

「日曜日は用事があるんだよ」

 

「えっ? じゃあ、別日に……」

 

「天使の頼みとその用事、どっちが大事なんだよ⁉︎」

 

 猫が断ると、わんちゃんが突っかかって来た。

 

「うるさいんだよ! いきなりフルボリュームで喚くんじゃ無いんだよ。猫は、お前達の事などどうでも良い。猫抜きで話しすれば良いんだよ」

 

「はっ? お前忘れてんのか? 鬼釜とかいう奴に狙われてんの兎咲だけじゃねぇんだからな? あたしらも、標的になってんだよ」

 

「あっ、そうだった。でも、標的とかそんな事言われても実感湧かないんだよ。よく考えてみて欲しいんだよ。猫達は、女子高生なんだよ? スパイの世界でもあるまいし、大した事して来ないと思うのだけど?」

 

 スパイの世界がどういうものかも猫は知らないけど。

 

「お前あの場に居ただろぉが⁉︎ あいつヤバいって、鬼釜‼︎ 人が自分の悪意で死ぬ事を、喜ぶ様な奴だぞ? 何してくるか分かんねぇんだぞ⁉︎」

 

 まぁ、確かに……恐ろしいのは事実だけど、わんちゃんはどこか、天羽と休日一緒に過ごしたい感が出てるんだよ。予定が無しになってしまわない様に、猫にそんなに強く言ってるだけではないのか?

 

「ま、まぁ。一理あるんだよ。もしかして来れないかもしれないけれど、一応仮で約束しておくんだよ」

 

「そ、それで良い! それじゃあ天使! 日曜日……ね?」

 

 やっぱそうだと思うんだよ! なんなら、猫にドタキャンして欲しい感さえあるんだよ‼︎

 

「猫宮さん、必ず来てね? 美穂ちゃんには佑羽からラインしておくから。それじゃあ日曜日、昼の四時くらいでいいかな? 喫茶店のデリシャス美味で待ち合わせよう」

 

 デリシャス美味だと? 随分と人の味覚に対して押し付けがましい名前の喫茶店なんだよ。

 

「天羽よ? そんな喫茶店知らないんだよ!」

 

「知らなかったか……近所にある喫茶店だから、見た事あるかなって思って。それじゃあ、この間離れた所で、待ち合わせしようか……?」

 

「何を口籠もっている? この間離れた交差点? あっ……あそこか……」

 

 さすがの猫も、思い出して頬を赤らめる。

 

「あの……?」

 

 わんちゃんが置いてけぼりにされていた。さす猫も、あの時の出来事をわんちゃんに口を滑らす様なマヌケでは無い。

 

「琴子ちゃんの家からは遠いもんね。佑羽と猫宮さんと美穂ちゃんの家から近いから、悪いけど、その喫茶店でいいかな?」

 

「う、うん! 大丈夫」

 

 好きな女に甘いんだよ。犬っころが。

 

「携帯のマップでデリシャス美味って入力したらちゃんと地図出るから、ごめんね琴子ちゃん?」

 

「うん。良いんだよ」

 

 猫にもその優しさを少しでも分けて欲しいんだよ。わんちゃんにはほんと、困ったもんなんだよ。

 

 日曜日、ドタキャンしようか迷っていたのだけれど、母と買い物に行って大量のお菓子を買ってもらい、家に帰って来たのが三時十分程で、「間に合うではないか!」と口に出してしまった。母に、「間に合うって何に?」と詰問され、「あっ、大した用じゃ無くて、クラスの子と約束していたのだけれど、断ろうかなと思ってて」と馬鹿正直に答えてしまい、「何言ってんの行って来なさいよ‼︎ あんたはずっとお母さんにばっか着いて来て、もっと同級生の子達と遊びなさい‼︎ 世間を知りなさい!」と言われてしまった。

 

「は、母と、イチカは遊びたいんだよ……イチカは、母が好きなんだよ……」

 

「その言葉が嬉しくない訳じゃ無いけど、いい加減お母さんも心配なんだよ‼︎ 日曜日はいつも買い物終わりにマリオパーティーやる母と娘ってどうなの⁉︎」

 

「い、良いでは無いか⁉︎ は、母は! イチカとのマリオパーティー楽しく無かったか⁉︎」

 

「楽しいに決まってるでしょ⁉︎ 先週なんか八時までやっちゃって、お父さんがひもじそうにこっち見つめる姿なんかアータ! 傑作だったアッハッハ‼︎」

 

 先週の日曜母は、食事の準備を放ったらかして猫とマリオパーティーを楽しんだ。父は、あんまり意見を言うタイプでは無いので、そのまま食事もせずに自分の部屋に閉じこもった。その姿を思い出して、母は高らかに笑った。

 

「ほらぁ! 楽しいのでは無いか! そんなパーティーを主催したイチカに向かって、同級生と遊んで世間を知れとは何事か⁉︎」

 

 一瞬とても不安になったけど、母が楽しいと言ってくれて安心した。母は本当、猫と一緒に居るのが好きなのだからしょうがないんだよぉ。

 

「それとこれとは話しが別‼︎ あんたはちょっと世間知らずな所がある! せっかく誘われたんだったら行って来なさい! あと、自慢気に言ってたけど、パーティーの主催者はマリオでしょ⁉︎ マリオパーティーって言ってんだからアンタが主催者な訳じゃ無いんだよ! 得意気に言うのはやめなさい!」

 

「えっ……で、でも、いつもイチカがやろうって誘うんだよ……」

 

「それでも主催はマリオでしょ? アンタがマップとかミニゲームとか考えた訳? そういうの考えて作った人が主催って呼ばれるのよ! だから主催は、アンタじゃ無くてマリオ‼︎」

 

「そ、その理論でいうと……いや、もう良いんだよ」

 

 マリオはゲーム内の架空のキャラクターであって、意思がある訳じゃ無い。母の理論でいうと、主催者は任天堂の優秀なクリエイター達なんだよ。でも、説明面倒臭いんだよ。多分母は、アップル社のスティーブ・ジョブズとマリオを同じ括りで考えている。誤解を解くには骨が折れるんだよ。

 

「もう良いんだったらさっさと行って来なさい! 友達待たせるんじゃ無いよ‼︎」

 

 三時五十分、あの乱痴気騒ぎのあった交差点で天羽と合流した。「やぁ」と声を掛け合い、二人で少し歩き始めたのだが、気まずい沈黙が続いたので、猫が仕方なく声を掛けてやった。

 

「なぁ天羽よ? 猫達は、もう別れているという事で良いのか?」

 

 あれ? まぁまぁヘビーな質問してしまったんだよ。そういえば、気にはなっていたんだよ。

 

「…………」

 

 喋れよ‼︎ 何故黙るか⁉︎ 言葉には出して無いが、お前が、猫を振ったんだろ?

 

「天羽?」

 

「あ、あの……佑羽達って、付き合ってたんだよね?」

 

「まぁ、そうなんだよ」

 

「下の名前で……イチカって、呼んで良い?」

 

 何だこの女急に⁉︎ まだ脈ありなのか? いや! 猫は何を考えている⁉︎ 脈などあろうと無かろうと、こんな女どうでもいいんだよ。急にそんな事を言い出すものだから、ドキッとしただけなんだよ。

 

「別に……猫はお前の事を呼び捨てにしているのだから、お前も好きな様に呼べば良いんだよ。それに、猫は人からなんと呼ばれ様とあまり気にしないんだよ。わんちゃんには、たまにクソ猫呼ばわりされているのだから」

 

「クスッ、それはひどいね?」

 

 クスッて乙女かお前は⁉︎ そんな笑い方する女、アニメでしか見た事無かったんだよ!

 

「何を笑っているか! 猫は真面目に喋っている!」

 

「ごめんごめん! でも、なんかね? 佑羽は、イチカちゃんと居るの、好きだよ。楽しいんだよ! 最近は予想外の事ばっかしてくるから、先が読めないんだもんなぁ!」

 

「猫はそんなつもりで喋って無い‼︎ そんな、誰かを楽しませようとか、喜ばせ様と思って話しが出来ないんだよ。だって、だって猫は、馬鹿だから……」

 

 幼い頃言われた兄の言葉が、今更蘇って来た。

 

 お前もう来んなよ。お前馬鹿過ぎんだよ。俺が笑われるから、頼むから帰れよ。

 

 猫は、自分が馬鹿な事を自覚してる。だから、人の言葉を信じない。未来に期待などしない。そうやって生きて来たんだよ。

 

「……あのね? 佑羽も馬鹿なんだ」

 

 天羽よ? 何を言っている?

 

「からかっているのか?」

 

「……みんな、馬鹿だよ。悪い事ばっか考えて、思いが行き違って、後悔ばっかしてるんだ」

 

「どうした? 落ち着くんだよ!」

 

「でも、イチカちゃんの前でだと、笑えるよ? 少し前まではこんなじゃ無かった。イチカちゃんの事、怖いと思っていたから」

 

「猫が怖い? そんな事言う奴、お前か兎咲くらいしか居ないんだよ。あっ、だから圧弱いってなってるのか! 天羽お前、猫よりも圧無い様だな?」

 

「圧なんか要らない。佑羽には、佑羽にしか出来ない事があるから。だから、みんなの力を頼って行くんだ。もう、一人でどうにかしようなんて考え無い! なんて、えへっ……格好付けちゃったかな?」

 

 こいつ、変わったな。猫が嫌いだったお前は、もうそこには居ない。

 

「お前、いや、天羽……佑羽にしか出来無い事、それがあるってだけで羨ましいんだよ」

 

「羨ましい? 何言ってるの? 佑羽はイチカちゃんが羨ましい‼︎ だって……」

 

「だって……? とは?」

 

「説明するの難しい。もう少し、気持ちの整理が出来て、時間があって、ここだって場面になったら打ち明けるね?」

 

 話すまでのハードル高すぎ無いか⁉︎ 何の話しか? 良い事言おうとして、考えてみたら無かったパターンか⁉︎

 

「別に無理する必要など無いんだよ。天羽……佑羽も変な奴なんだよ。猫の機嫌など取ってどうする?」

 

「佑羽がイチカちゃんのご機嫌取りしようとしてると思ったの? ざんねーん! 不正解だよー」

 

「なっ、お前キャラ崩壊してないか?」

 

「アハハっ! ……佑羽ね、最近誰と居ても、笑えなかったんだ」

 

「……確かにお前が笑っている所、あんまり見た事無いんだよ」

 

「でも、今笑った! 自然に笑えた!」

 

「そうか、良かったんだよ」

 

「イチカちゃんのおかげで笑えた! 今の佑羽を笑わせてくれたのは、イチカちゃんにしか出来無い事だったんだよ!」

 

 なんなんだこの女。丁度良い位置で猫の目にフレームインして、逆光で輝いて見えるんだよ。やっと分かった。この女は、乙女じゃない。天使なんだ。

 

「……猫にしか? 元カノに慰められるなんて、思っても無かったんだよ」

 

「その響き良いね! じゃあイチカちゃんは元カレだ!」

 

「何故猫が男になるか⁉︎ 猫には父の様な情け無い物など、真ん中にぶら下がってないんだよ!」

 

「なにそれ? オチ○チンの事?」

 

「こら! 声に出すなよバカタレが⁉︎ 恥ずかしいとは思わぬか⁉︎」

 

「馬鹿だもん! ねぇ……もう一回、名前で呼んで?」

 

「はっ? そんな事の何が嬉しい? ……佑羽」

 

「それだけで、嬉しいんだよ? イチカちゃん」

 

 その時、幾つかの桜の花びらが二人の目の前を舞い降りていった。辺りの木々は枯れていて、幻覚かと疑った。でも、佑羽の目を見て分かった。同じ舞い散る桜の花びらを見たのだと気付いた。言葉に出さなくても、分かってしまったんだ。

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