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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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七十五頁    狐 弍   『巡り巡る因果』

 七十五頁

 

 狐 弍

 

『巡り巡る因果』

 

 なんか、阿久津に昼休み一組行くから教室の前で見ててって言われたから見てるんだけど、あの三人何してんの? 何見せられてんの? チャンチャカチャンチャカ言って踊ってるけど、恥ずかしく無いの?

 

 用事を終えたのか? 阿久津が一組から出て来た。

 

「戻ろう? 沙耶ちゃん」

 

「えっ、うん……」

 

 何してたの? とかって、聞かない方が良いんだよね?

 

「何してたのか、聞いてくれないの?」

 

 聞いて欲しかったのかよ⁉︎ あのさぁ? あんた意味分かんないんだよ⁉︎ 難しい乙女心押し付けてくんじゃねぇ!

 

「き、気になってたよ? 聞いちゃ悪いかなって思って……」

 

「友達じゃん? 変な気使わないでよ? 変な気使われたらさ、なんか変だなって思っちゃうじゃない。何か嫌な事あったのかなとか、具合悪いのかなとか、私の事嫌いなのかなとか。友達にさぁ? 変だなって思わせたら駄目なんだよッ⁉︎ その変だなって種、今私の心に植え付けられた! その変だなって種がいつか芽吹いて、変な芽はすくすく育っていって、変な葉っぱを付け、変な花を実らせ、取り返しのつかない事になるんじゃないかなぁ⁉︎」

 

 ヒィィィイッ‼︎ またいつもの怖いの来た……その理論だと、あたしにも新たな変な種植え付けられたんだけど⁉︎

 

「あ、あたしにとっては聞かない事も優しさだと思ってたから‼︎ 悪い意味じゃ無いんだよ! 本当に‼︎ 信じて? 相手を信じてあげる事が、あたしには友達として大切な事であるとも思うけどな?」

 

「……そうね」

 

 良がったぁぁぁぁぁあ! 捲れた。

 

「沙耶からそうやって友達の言葉を貰えると安心する。やっぱり私達、友達なんだって」

 

「だ、だね……」

 

 友達ってなんだっけ? 阿久津はいつも、友達という言葉を使いたがる。その言葉は、言えば言う程安くなる事を知らない。あたしは、阿久津と友達じゃない。その事を阿久津は知らない。友達という言葉を阿久津が無闇に多用する限り、あたし達は友達にはなれない。

 

「放課後、残ってくれない?」

 

「えっ、きょ、今日はちょっと……」

 

 あっ……癖で断ってしまった。どうせ折れるんだから無駄な事なのに。逆に、一度断った理由を考えないといけなくなる。

 

「なんで? また、身内の不幸?」

 

 怪しまれてるか? 流石にそんな頻繁に身内が死ぬ訳無い。逆にそう思ってもらった方が? コイツ呪われてるんじゃない? ってなって距離取ってもらえるかも? ……いや、そんな事でこの女は逃がしてはくれない。

 

「違う違う! 見たいテレビあったんだけど、お母さんに録画してもらうから大丈夫!」

 

「見たいテレビって何?」

 

 逃がしてくれない……ちょっと待って⁉︎ 部活もしてないし、そのまま帰ったら家着くの六時前なんだけど⁉︎ そんな時間にやってるテレビ番組なんか知らないよ⁉︎ いつもは帰ったら夕食まで部屋でユーチューブ見てるわ‼︎ ヤバッ……そんなの聞いてくんなよ⁉︎

 

「あ、あの……」

 

「うん」

 

「……天才テレビくん」

 

 アァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ‼︎

 

「はっ? 天才テレビくん? 子供の頃見てたけど、あれまだやってんの?」

 

 同じ事思いました。だってあれ確か夕方六時くらいにやってたから。他にその時間帯で思い付く番組無かったんだよ!

 

「や、やってるよぉ……知らないのぉ?」

 

 もし終わってるんだとしたら、いつかバレてしまう嘘だけど、今日だけでも穏やかに過ごしたい。

 

「ちょっと調べるね」

 

 阿久津はスマホを取り出し、画面ロックを外して何やら打ち込み始めた。

 

 ネェェェェェェェェェェッ‼︎ なんで目の前で調べるの⁉︎ それあんたの言葉借りるならさ? 疑ってるんだぁ? それって、友達じゃなくない? こうならない⁉︎ 自分の事は棚に上げて人にばっか言ってくんだぁ⁉︎ そういうの、嫌われると思うよ! あっ……阿久津は、元々みんなから嫌われてるんだった。

 

 スマホをイジっていた阿久津の表情が固まった。

 

「阿久津? ど、どうしたのかなぁ?」

 

 さすがにもう終わっていたか……悪いね、天才テレビくん。子供の頃あんなにあたしを楽しませてくれたのに、この歳になってあたしは、そんな君を針のむしろに放り投げてしまった。恨まれるかな? でもごめん。あたしはもう、君がどんな顔をしていたのかさえ忘れてしまっているんだ。

 

「マジか……まだやってたんだ。六時二十分からやってんだね? 放送時間すら覚えて無かった」

 

「はぁっ⁉︎」

 

 まじか⁉︎ まだやってたのか⁉︎ ありがてぇ……首の皮一枚繋がった。

 

「はぁって何? 私が知らない事に驚いたの? そんなみんな見てるのこれ? みやぞん出てんじゃん。進化して子供達の楽しみの中に今も居るんだね。何か感動すら覚えるな。私も、見てみよっかな……」

 

 あたしも、久しぶりに見てみたいと思ったよ。

 

「おすすめだよ」

 

 数年見てないのに、おすすめしてしまった。

 

「いつかさ、私達がもっと大人になって、結婚して子供が産まれて、その子供が天才テレビくんを見るのを、私達も親として一緒に見るのかな?」

 

 急にエモい事言うんじゃないよ‼︎ ついさっきまで存在すら忘れてたのに、何か罪悪感を覚えるよ。

 

「そうかもしれないね……」

 

 優しい声で阿久津に言った。天才テレビくんとは、巡り巡る因果の様な物なのかな? そして、あたしを救ってくれた掛け替えの無いもの……

 

「でもおかしくない? ちょこちょこ放課後残ってくれるのに、何で今日に限って天才テレビくん見たいの? そんなに好きなら毎日見たいんじゃないの?」

 

 はっ? アァァァァァァァァァァァアッ! 確かに……あれ多分、月曜から金曜まで帯でやってるよね……? ボロが出ちまった。何が掛け替えの無いものだよ⁉︎ 上げて落とされると余計キツいわ‼︎ 結婚して子を授かったら、おめぇだけは絶対に見ない様に教育してやんよ‼︎

 

「別に毎日見る訳じゃ無いんだけど、今日はなんだかそんな気分だっただけ。気にしないで!」

 

「まぁ、そんな事もあるか」

 

 なんちゃって! ごめんよ天才テレビくん? おかげさまで切り抜けられそうだよ! もしかして……怒ってたりする?

 

「そんな事もあるよ」

 

「でもなぁ……好きな番組、私なら見逃したりしたくないけどな。やっぱおかしくない?」

 

 天才テレビくんよぉ? 爪が甘いんじゃねぇのかテメェは⁉︎ 阿久津がまたごちゃごちゃ言って来てんじゃねぇか⁉︎

 

「毎日やってるから! 安心感があるんだよね……それって、甘えだよね? なんていうか、まぁ、よく分かんないけど、甘えだよね?」

 

 ほらぁ‼︎ 何も思い浮かばなくて己の甘えのせいにしたじゃねぇかコンチクショ‼︎ お前の罪を庇ってやったんだぞ? 聞こえてんのか天才テレビコラァ⁉︎

 

「そんなもんかぁ。分かった! 今日そんなに天才テレビくん気分なら放課後残らないで帰りなよ!」

 

「へっ? いいの?」

 

「いいのも何も、別に私からの誘いに強制力なんて無いじゃない? 友達の大切なもの、優先して欲しいから」

 

「阿久津……あ、ありがとう」

 

 天才テレビくん……? 

 

 あのっ、なんて言うか……いっ、色々暴言吐いちゃったりとかしたんだけどさ……なんていうか……あのっ……あ、あたしが悪かった‼︎ 本当ごめん‼︎ 謝るから……

 

 今日は寄り道せずに帰って、必ずリアルタイムで見るからね?

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