七十四頁 牛 肆 『ウチらの青春』
七十四頁
牛 肆
『ウチらの青春』
五月のとある日、昼休み、一年一組の教室での出来事。
「阿久津、あの日以来関わって来ないね?」
「そうだね」
牛嶋と嶋牛の言うあの日とは、三上を手紙で呼び出し、阿久津と屋上まで行った日の事を指していた。
「もう、ウチら何もしなくて良いのかな?」
牛嶋が嶋牛に問い掛けた。
「さぁ……ってかさ。もう、良くない? ウチら、充分やったと思うよ?」
嶋牛が牛嶋に問い掛けた。
「充分やったって? ただ阿久津に声掛けただけじゃん!」
「それだけで凄い事だよ。リスクを顧みず良くやったと思うよ?」
「リスクって……そのさやかの言うリスクってやつ、ウチら負ったんだよね? その割にリターン無さすぎないか⁉︎」
「これからあるかもしれないじゃん! ……信じて、待とうよ?」
「それを言うなら、リスクだってこれからあるかもしれないじゃん‼︎ 黙って待ってる事が最善って言い切れるの⁉︎」
「だって……」
嶋牛が牛嶋に意見を言う事は、珍しい事だった。
「なんだよ? スクールカーストの上位に行くんじゃねぇのかよ⁉︎」
「だって、嫌なんだもん‼︎ あの日から、ウチらビクビクして過ごしてる。交わす言葉も、阿久津や鬼釜の事ばっかり……」
「だ、だって……鬼釜と阿久津の存在は、さやかが教えたんだろ⁉︎ 何でお前がヒヨってんだよ⁉︎」
「晶ちゃんだって、声が震えてる」
「なっ⁉︎」
「あれから何キロ痩せた? 頬がこけてるよ?」
「さやかだって! 目の下、隈出来てるよ……」
牛嶋も、大切な何かに気付いた様だ。
「……そうだね。だから……ウチらにとって、鬼釜や阿久津と関わる事は、何の得にもならないって事が分かったね」
「でもこのままじゃ三上が! このクラスでのスクールカーストが。ウチらの、青春が……」
「三上が何? スクールカーストが何? 青春は……ウチは、晶が居てくれれば良い! クラスの覇権なんて面倒臭いもの、三上に押し付けときゃいい! スクールカーストのどの位置に居たって、晶と一緒なら、良い‼︎」
「さやか……」
「晶ちゃん……だから、お願い……」
嶋牛が牛嶋に頭を下げた。
「……さやか? ウチこそごめん。大切なもの、ようやく気付けたよ?」
「晶……」
こうして二人はこの物語から離脱……出来る筈も無く。
「晶ちゃん? さやかちゃん? ちょっと良いかな?」
阿久津真央が、わざわざ一組に入って来て二人に声を掛けた。
「ヒィィィィィィィィイッ‼︎」
「どうしたの? それ、流行ってるの?」
阿久津が二人に近付いた。
「あっ、あの、はい! ウチらの中で流行ってて、へへっ……」
「二度と私の前でやらないでね? 嫌われたと思って、頭おかしくなりそうだから」
「あ、あはっ……勿論です……」
二人の顔は強張っていて、もはやどちらが声を発したのかさえ認識出来なかった。
「ごめんね最近構ってあげられなくて? 私用で忙しかったの」
死ぬまでその私用が続けば良かったのにと、心の中で二人の想いはリンクしていた。
「大丈夫です。お気になさらず」
もう自分達の事は二度とお気になさらないで、と二人の心はシンクロしていた。
「心配掛けたかな? ごめんね、ごめんね……」
「そんな、謝らないで下さい……」
「じゃっじゃーん! そんな二人に、サプライズを用意しましたぁー! デンデンデン、デンデンデン、デンデレデンデンデンデレデーン!」
阿久津は、胸の前で両手をクルクルと回した。
「わ、わぁー、なにかなー?」
二人は、阿久津に早く自分のクラスに帰って欲しかった。
「君達、初めて会った時、私と尚子と仲良くなりたいって言ってたよね? 私とは仲良くなれたから、次は尚子だ! 放課後残る様に伝えておいたから、二組においで!」
「ヒィィィィィィィィィィィィィイッ‼︎」
「またそれやるんだァァァアッ⁉︎ ヤバッ、あ、あ、頭が、頭がホラっ? ホラっ? ホォーラホォーラ⁉︎」
「あ、あっ、あっ‼︎ 違う‼︎ う、嬉しくて、嬉しくて‼︎」
「そうなの⁉︎ 良かったぁ! じゃあ放課後、待ってるからね?」
「は、はい……」
「チャンチャカチャンチャカチャンチャンチャン、チャンチャカチャンチャカチャンチャンチャン……」
阿久津が目の前で謎の踊りを披露し始めた。
「わ、わぁー……」
そう言う事しか二人には出来無かった。
「チャンチャカチャンチャカ……何してんの? 一緒に!」
阿久津は、二人に謎の踊りを強要した。
「へっ? で、でも……」
「チャンチャカチャンチャカチャンチャンチャン……えっ……?」
阿久津の剥けた眼がみるみる内に血走っていく。牛嶋と嶋牛の額から、冷たい汗が大量に浮かび滴った。
「チャンチャカチャンチャカチャンチャンチャン、チャンチャカチャンチャカチャンチャンチャン……」
三人は暫くの間、クラス内の大勢の人達が見守る中、謎の踊りを舞い続けた。




