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スクリーム・ノート II  作者: 藤沢凪
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七十二頁    羊 漆   『質問』

 七十二頁

 

 羊 漆

 

『質問』


「メェちゃん?」

 

 昼休みにお手洗いに向かう途中に、後ろから声を掛けられ振り向いた。

 

 おや、猫宮さんじゃないですか? 話し掛けられるの久しぶりですね。どうかしましたか? わたくし、今トイレに行きたいのですけど?

 

「放課後残って欲しいんだよ」

 

 わたくしが返事をするのも待てませんか? まぁ、いいんですけど。

 

「何故ですか?」

 

「あっ、ちょっと、話しがあって……」

 

「どんな話しですか?」

 

「積もる話しだから、出来れば放課後に……」

 

「わたくしには積もる話しなどありません。放課後、教室に残りたくなどありません」

 

 ……あれっ? わたくし、少しおかしくありませんか? 猫宮さんの事、結構好意的に見てた筈なのに、何か当たり強く無いですか? 心の変化でしょうか? あの別荘での出来事の中で、猫宮さんの株が下がる様な事は無かったのですけど。それどころか、大好きな三上さんの意に背く様な事までして他人を守った事、素晴らしいと思った筈なのに……

 

「くっ……天羽の言う事など当てにならないんだよ」

 

「何の話しですか? 天羽さんに後押しされてわたくしに話し掛けに来たんですか?」

 

「まぁ、そんな所なんだよ」

 

 あらまぁ、悪びれも無く。なんか……普通に話し掛けてくれたりはしてくれないんですね。まぁ別に、わたくしが勝手に好意を寄せていただけで、友達だなんて一言も言ってくれないですもんね。

 

 それに比べて優子さんは……わたくしの事を、友達と言ってくれた。良くない事とは分かっていても、女という生き物は比べてしまうものなんですよ? まぁ、そんな優子さんも全く話し掛けて来てはくれないですけど……わたくしから、話し掛けるべきなのでしょうか? でも、嫌な顔されたら……

 

 トイレに着き、個室へ入り鍵を掛けた。

 

「ねぇメェちゃん? 話し聞いて欲しいんだよぉ……」

 

 横の個室から話し掛けて来やがる‼︎ 恥ずかしいからやめて欲しいんですけど⁉︎

 

「だから! 何の話しなんですか⁉︎」

 

 思わず返事をしてしまった。

 

「あ、あの……メェちゃんには関係無い事なんだけど、兎咲がね? ずっと学校休んでるんだよ……色々問題があって、みんなでなんとかしたいってなってるんだよ……」

 

 めっちゃ良い理由‼︎ 自分が情け無くなりますね。猫宮さんはやっぱり、人の為に動く事の出来る尊い人間なんだ。汚い人間関係を目の当たりにしながら生きて来たわたくしには、猫宮さんが眩しく見える。猫宮さんも、優子さんと同じ様に、他人の為に犠牲を被れる人なのですね。

 

 じゃあなんで話し掛けられた時、冷たくあしらおうとしたんですか? 

 

 それは、久しぶりに話し掛けられたから、かな? これで催眠術に関する用件だったら、わたくしにはそれしか無いのかって、落ち込むでしょ……

 

 今、久しぶりに小鳥優子に話し掛けられたとしたら、同じ態度を取っていましたか?

 

 ……取って……いたでしょうね。

 

 いま、嘘吐きませんでした?

 

 …………

 

 無回答なので質問を変えます。あなたは、あの別荘で小鳥優子と同じベッドで夜を過ごしましたね? 眠れましたか?

 

 …………

 

 無回答なので質問を変えます。ベッドで小鳥優子が猫宮イチカを好きだと言った時、どう思いました?

 

 やめてよ。

 

 質問の意図に沿った答えでは無いのでもう一度問います。小鳥優子が猫宮イチカを好きだと言った時、あなたはどう思いましたか?

 

 分かった。分かったからやめろよ‼︎

 

 それでは、さようなら。

 

 ……わたくしは、嫉妬していたんです。小鳥優子が想いを寄せる猫宮イチカに嫉妬していたんだ。はっ、ハハッ、何浮かれてんだわたくしぃ⁉︎ ちょっと、ちょっと優しくされたからって、なに、好きになってんだよ……話し掛けてもくれないじゃん。それって、友達でも無いじゃん‼︎ それに、優子さんは猫宮さんが好きなんだ。わたくしには、出る幕なんて……

 

「メェちゃん? さっきから何か苦しそうだけど……どうしたんだよ? お腹痛い?」

 

 心が、痛い……

 

「難産なの? 猫が手握っててあげるんだよ」

 

「へっ?」

 

 トイレの隣の個室の下の隙間から、わたくしの居る個室に手が伸びて来た。

 

「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィッ‼︎」

 

「大丈夫なんだよ! 頑張るんだよ! 今はお腹痛くても、全部出ちゃえば痛いの痛いの無くなるんだよ!」

 

 えっ⁉︎ え、え、えぇッ⁉︎ この手なにッ⁉︎ 握れというのかッ⁉︎ 隣の個室でどんな体勢で居るんですかあなたッ⁉︎

 

「へっ、あの……」

 

 あっ……なんか流れで握ってしまいました。

 

「猫も気持ち分かるんだよ! 猫も便秘に悩まされているから、大きな決戦の時はお母さんを連れてトイレに行って、手を握ってもらっているんだよ。それだけで、勇気が出るんだよ!」

 

 あなた家でそんな事してもらってるんですか⁉︎ 用を足してる時に誰か傍に居るの嫌じゃ無いですか⁉︎ 手を繋いでもらっても、勇気は出ても便は出ないんですけど⁉︎ あと、わたくしそんなに便秘気味でも無いです。

 

「あっ、もう大丈夫ですから」

 

 猫宮さんの手を離し言った。

 

「もう出たか⁉︎ 凄いではないか! 猫の手と相性が良いのでは無いか?」

 

 ウキウキ喋ってますけどそれ嬉しいんですか? 相性とかあるんですか? 自分の手と人の便通リンクしてたら気持ち悪くないですか?

 

「助かりましたよ」

 

 トイレを流し個室から出て顔を見合わせ、一応お礼を言っておいた。めちゃくちゃ変な事ずっと言ってたけど、わたくしの為を思ってくれたのは感じたから。

 

「これから出にくくて困ったら、いつでも猫を呼ぶと良いんだよ!」

 

 呼びません。なに誇らしげに言ってるんですか? それ嬉しいですか? 例えばラインとかSNSのDMとかで、ちょっと出にくいから来てくれない? って言われて嬉しいですか⁉︎ ってか三つある個室の一つが閉まってる。こんな変な会話誰かに聞かれてた⁉︎ めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど‼︎

 

「あぁもう……放課後、残れば良いんですね?」

 

「へっ? 良いの? なんで?」

 

 なんで? って……その理由が分からないポンコツな所が、あなたが人を惹きつける魅力なんですかね。

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