七十一頁 犬 拾 『圧よわ三人衆』
七十一頁
犬 拾
『圧よわ三人衆』
兎咲のカミングアウトが終わり、鬼釜は更なる追い討ちを兎咲に掛けた。あたし達は、言葉を失っていた。
「またなぁー」
鬼釜はそう言うと、あたし達を見て不気味な笑みを浮かべ帰って行った。
ってか……鬼釜怖っ……マジ悪意の権化じゃん。厭悪の創造神じゃん! 閻魔王の生まれ変わり……いや、呼び方なんてどうでもいい。あの女、兎咲がもしもじ……自殺を選んだら、大爆笑するって、言ってたよね? ヤバ過ぎだから……自分のせいで誰かが死ぬ事を、楽しいとか思っちゃうんだ……? そんなの、許されてはいけない思想だよ。
確かにあたしも、自分の保身を最優先に考える人間だ。猫宮を踏み台にして地位を得ようとした事だってある。まぁ、さっきも生贄に差し出したけど。
でも……三上もそうだけど、人を殺すなんて事、良く無い事だよ。どんな境遇に陥ったって、生きてさえいれば立ち直れるチャンスはある。なのに、人が死んだ事を喜ぶなんて、あってはいけない事だよ。
だから兎咲? 死ぬなよ? あたしはこれからお前と関わる事は控えようと思っているけど、なんとか、自分の力で踏ん張れ。陰ながら応援してるからな。
あと兎咲? どさくさに紛れて告白しやがったなぁ? やってくれたなぁ? ……まぁ、その後のカミングアウトで天使には確実に気持ち悪がられてるだろうから、許してやるよ。ぶっちゃけ、気持ち悪いぞ? ゴミ漁ってただと? 他の家族の物もあるのに、あんま意味無いだろそれ? まぁ、気持ちが分からんでも無い。前に天使が家に来た時、使用していたコップをこっそり隠しておいた。それはまだ、洗わずに部屋の引き出しの中に入れてある。……距離を置こうと思ったけど、いつか、ゴミの中に何が入ってたか聞いてみようかな?
「帰るよ……」
暫しの沈黙の後、兎咲がみんなに背を向けて歩き出した。
「美穂ちゃん! 話し、しよう?」
天使……優しいなぁ。本当は気持ち悪いのだろうに、社交辞令であってもそんな事を言ってくれるのか。
「僕は、僕は……君に合わせる顔が無い。この場に居るのが、辛い……」
でしょうね。あたしが同じ立場でもそう思うと思うわ……ってか危ねぇ。一歩間違えればあたしが兎咲の立場だったわ。さすがに兎咲の様なストーカー行為はしないだろうけど、想像しただけで一瞬悪寒走ったし。いや、家近かったらヤバくなかった? たまたま天使がマンションから家族で出て来る所見たらあたしも……いや、あっぶねぇぇえ!
「美穂ちゃん⁉︎」
兎咲は、天使の問い掛けにも立ち止まる事無く歩いて行く。
「今週の日曜日、みんなで集まろう? 今日は無理でも、絶対に会いに行くからね‼︎」
兎咲はピクッと反応したものの、そのまま返事もせずに歩き去って行った。
表向きだけだとしても、ここまで言ってくれる人なかなか居ないよ? ……ってか、みんな? それ、あたしも入ってる?
「あ、天羽よ? みんなとはどういう事か?」
あっ、猫宮が代弁して聞いてくれた。
「どっちみち美穂ちゃんと佑羽達四人は、鬼釜さんに目を付けられてしまった。みんなで力を合わせて、鬼釜さんと戦おうよ!」
えっ? 四人って、あたしも入ってる? 目を付けられた? なんであたしまで? ってか、ちょっと記憶飛んでんだよね。鬼釜と兎咲とあたしの三人で喋ってる時の記憶が見当たらないんだけど? 必死だったからかな……あたし、何してたの? でもあたしの事だし、きっと自分にヘイトが向かない様に振る舞っていたんだと思う。うん! きっとそうだ! あたしの事は、あたしが一番分かってる!
「ぜ、全部、わんちゃんのせいなんだよ……」
「はぁっ⁉︎」
何故あたしのせい⁉︎ あたしが何したっつーんだよ⁉︎ あっ⁉︎ またあれか? 猫宮特有の何言ってんのか分かんないやつか?
「確かに、お前が猫ちゃんを戦場に引きずり出してから芋づる式だったな」
小鳥は何をさえずってる? あぁ、ちょっとだけ思い出した。あたしは、怖くなって隠れている猫宮を表舞台に引きずり出してやったんだ。クソ猫の分際でごちゃごちゃうっさいんだよ。お前がコソコソ隠れてんの見つけて思わずやっちゃったんだよ。あれっ? 怖くなった理由って、確か……
「でもそのおかげで、みんなで協力して鬼釜さんに立ち向かう事が出来る! 琴子ちゃんも、あれだけ圧の凄い鬼釜さんに楯突くなんて凄いよ!」
あ、あ、あたしが、あの激ヤバの鬼釜に、楯突いたぁ? お、覚えて無い。天使に褒められたのに、嬉しく無い。い、いや、嘘でしょ? あたしがそんな事する訳……い、嫌、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 嫌だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ‼︎
や、やんや……嫌んやぁ……お、お、思いだした……何故あたしは。何故あたしはあんな事言ったんだ? 何故あたしはあんな何の得にもならない事言ったんだァァァァァァァァァアッ⁉︎
「え、えへっ? えへえへっ?」
天使に何かしら返事をしないとと思って出た言葉がそれだった。
「どうしたわんちゃん? 目がガンギマリなんだけど?」
猫宮お前のせい……じゃ無いな。自分のせいか……いや、元々は兎咲の蒔いた種だ‼︎ な、何故あたしはあんなストーカー野郎の為に危険を被った⁉︎ まぁあの時はストーカー野郎とは知らなかったのだけど。それでも、何であたしはあんな事言ったんだよ⁉︎ わ、分かんねぇ……あ、あたしは、あたしの事が分からねぇ‼︎
「……私、帰るね?」
「えっ?」
小鳥の突然の帰る宣言に、天使が反応した。
ってか、はっ? どうした小鳥? 頼れるのお前しか居ねぇんだぞ⁉︎ 鬼釜の圧に対抗出来るのはお前か女神しか居ねぇだろぉが⁉︎ 頼むから……圧よわ三人衆を残して帰らないで下さい。
「私は……この輪の中に居るべき人間じゃ無い。きっと、望まれて無い筈だから」
小鳥も、こんな哀しい顔すんだな……ってか、どういう理由な訳?
「そんな事無いよ‼︎ ねぇ? 猫宮さん!」
何故猫宮に問い掛けたの?
「ね、猫は……」
「猫ちゃん……私、帰るね?」
「……ぴ……き、気を付けて、帰ると良いんだよ……」
「うん。ありがとう……それじゃあ、さよなら」
えっ、何? めっちゃ悲しい雰囲気に包まれてるんだけど?
小鳥は肩を落とし、後頭部が見えないくらい顔を地面に向け帰って行った。
「あんまりだよ……小鳥さん、可哀想……」
小鳥可哀想だったの? 全然話しに追い付け無いんだけど⁉︎
「何故お前がわざわざ小鳥を慮る? 猫は小鳥が苦手なんだよ! お前に非難される筋合いなど無いんだよ‼︎」
「お前! 別荘で助けてくれた恩忘れたのかよ⁉︎」
「うるさいうるさぁい‼︎ わんちゃんには小鳥の異常性を相談したでは無いか‼︎」
「でも今は、目には目を歯には歯をじゃん? 小鳥くらい圧凄い奴居ないと鬼釜達には太刀打ち出来ないって‼︎」
「鬼釜達? 鬼釜以外にもヤバい奴が居るというのか?」
「阿久津って奴が居るらしいんだよ。二人は鬼、悪魔って呼ばれてて、あたしもよくは知らなかったんだけど、近付かない方が良いって言われてたんだ。その内の一人の鬼釜があのイカれ様だよ‼︎ 阿久津って奴もヤベぇに決まってる。ここに兎咲入ってもまるで相手にならねぇから。小鳥しか頼みの綱居ねぇんだよ!」
「それじゃあ、女神に相談するんだよ!」
はっ? 秒で断られると思うんだけど?




