七十頁 天使 拾 『告白』
七十頁
天使 拾
『告白』
鬼釜尚子の、果てしない悪意が聴こえて来る。
(コイツが天羽か⁉︎ コイツに今、兎の秘密をバラすのは勿体無いよなぁ? もっと先延ばしにして、精神的に追い詰めてやりたい。死ぬかなぁ? 自殺するかなぁ? 逝ってくれよマジで! ここまでやってんだからさぁ‼︎)
この人は、自分のせいで誰かが命を捨てる事を待ち望んでるんだ……
そんなの、おかしいよ。狂ってる。人を傷付けたら、自分の心も痛いと感じるものでしょ? それなのにこの人は……
でも佑羽も、他人の事を非難なんか出来ない。さっき小鳥さんが言った様に、本望じゃ無くても、他人を犠牲にする手段を佑羽は選んでたんだ。だから……どこかで間違ってしまったら、誰でも加害者になってしまう可能性があるんだ。佑羽も、その一人なんだ。
「鬼釜さん……?」
「あっ?」
「佑羽は、美穂ちゃんにどんな秘密があったって何も思わない‼︎ これ以上、美穂ちゃんに付き纏うのはやめて‼︎」
「それが、お前に関係する事だとしてもぉ?」
(そう言われると気になるだろ? 優等生でも気取ってんのかコイツ? 臭ぇんだよ。本性出せよ。苛つくんだよお前みたいな奴)
鬼釜さんは、佑羽が心の声を聴ける事を知らない。佑羽はとっくに、美穂ちゃんの秘密は自分と関係する事だと気付いてるよ。
「だとしても構わない! それで、佑羽が怯むとでも思ったの? そんな事で友情は壊れ無い! あなた、友達居ないんじゃない?」
佑羽も、戦える様になりたいんだ。
「カ、ハハ⁉︎ お前ら、全員名前覚えたからな? なんの張り合いも無くて、この高校生活もつまんねぇと思ってたけど、あるんじゃん? 心の底からムカつく奴らを、全員蹂躙させてやるっていう夢が出来たわ‼︎ 楽しい、愉しいなぁ? カハッ、ガァラ! キャァァァァァァッハッハッハァ‼︎」
……ずっと思ってたけど。笑い方独特過ぎない? あと、そんな事を夢として見据えるの? もっと将来の事とか考えた方が良くない? 有意義な高校生活台無しにしている事に気付かない? 理解が、出来ないよ……
「何する、つもりなの?」
帰ろうと背を向けた鬼釜さんに聞いてみた。
「まずは、兎で遊ぶ。お前はまだわたしのペットだかんな?」
鬼釜さんが美穂ちゃんに目をやった。
「だから……もういいって言っただろ⁉︎」
美穂ちゃんが、鬼釜さんを睨んで怒鳴った。
「終わらせんのか? 出来んのか? お前にそんな事」
「僕は……」
「良いのか? お前は、最高にキモいストーカーなんだぞ?」
「あ、天羽君……僕は……最高にキモいストーカーなんだ。天羽君、聞いてくれ。僕は、君が好きだ」
「えっ?」
好き? 心の声が聴こえないから、悪くは思われていなかったのだろうとは思っていたけど……その好きって、どういう意味の好き?
「君の、住んでいる家を知っている」
急に家の話し⁉︎
「そ、そうなんだ……」
どういう好き? なんて、聞けない。ゆ、佑羽は、そういうの免疫無いからドキドキしちゃうんだよ。猫宮さんにさえドキドキした程だからね!
「たまたま、見掛けたんだ。君が家族とマンションに入って行く姿を……」
「カハハッ……」
ちょっと黙っててくれないかな鬼釜さん? 笑い声気になるんだよ。
「それから……よく、君の住むマンションを眺めていた……」
「……」
「君のお父さんが、朝出勤する時に、ゴミ出しをしている所を見た」
「うん……」
ゴミ出しをするのは、父の役目だった。
「そのゴミを、僕は漁っていたんだ」
……えっ? ……なんで?
「カハハッ‼︎ カァッハッハッハァァァァァァァアッ‼︎ や、ヤバッ。何回聞いてもヤバァァッ」
「鬼釜さん? うるさいんだけど? 佑羽は、美穂ちゃんの話しが聞きたいの」
「話しはそれまでだよ。それをその女に知られて、君に知られたく無いのなら、ペットになれと脅された。僕は、知られたく無かったから、その女に従った」
「その女ってお前、わたしの事だよなぁ? 舐めんなよ? これで終わりとか思ってんのか?」
「はっ? 本人に秘密を暴露したんだ、もう、僕に関わるなよ。僕は、天羽君をストーカーして、ゴミを漁って彼女の生活を覗きたかった。その過ちで、君に脅された。その事を、被害者である天羽君に伝えた。もう、君との縁など切れているじゃないか‼︎」
「これ見ても、同じ事言えんのか?」
鬼釜さんはスマホを指で操作し、こちらに画面を向けた。
「これはっ⁉︎」
佑羽達にも見える様に画面を差し出した。そこには、首輪を付けて、リードを鬼釜尚子に握られ、公道を四足歩行で進む美穂ちゃんの姿が遠くから撮影されていた。
「だ、だから何ッ⁉︎ 佑羽は! こんな事で美穂ちゃんを軽蔑なんてしない‼︎」
「他のクラスメイトは、どうかなぁ?」
「はっ?」
「この動画、拡散してやるからな? その後、天羽の家のゴミ漁ってたストーカー写真もクラスメイトに伝えてやる。それで、いいんだよな?」
「こ、こんな……」
「いいんだよなァァァァァァァァァァァァアッ⁉︎」
鬼釜尚子には、良心という概念が欠けているのだろうか?




