封印に閉ざされた空間 ― 帰還そして
漆黒の裂け目から差し伸べられた手は、友の姿だった。
絶望の底で灯る奇跡。
外界は、午前三時を過ぎた静寂に包まれていた。
私設の外では、二人の巨人が争い、地響きを立てている。
内部では、異界に閉ざされた核燃料プールの中で、三つの命の灯が静かに、幕を閉じかけていた。
通路の冷気が嘘のようにラボの中は熱気に包まれ、揺らいでいる。
朦朧とする意識の中、錆と鉄の燃えたような瘴気が肺に重くのしかかる。
音が、消えていく。
痛みも、消えていく――
そのとき。
「……ナイトコード h-aon」
ウィンドウ越しに、微かに聞こえたような気がした。
目の前の空間が、漆黒に切り裂かれ、大きな円を描き始める。
三名は、思考が追いつかず、ただぼんやりとその光景を見つめていた。
「早く、こちらに!」
聞き覚えのある声。
その声に、意識が現実へと引き戻される。
「セシル!!」
ルクジムとスーマが叫ぶ。
漆黒に開かれた空間から手を伸ばしていたのは――
友、セシルの姿だった。
「さあ、急ごう。ジョーを途中で拾わなければいけません。」
その声には、不思議な温もりがあった。
それは、冷たい死の底でようやく見つけた“生”の響きだった。
懐かしい声に、気力が回復していく。
「よし、エド……もう少しだ、頑張れ!」
ルクジムが最後の力を振り絞り、エドを抱えて空間へと倒れ込む。
抱えられながら、エドはセシルを見つめる。
「お前が…あのプールから…?」
被曝による頭痛の奥で、理屈を超えた奇跡への感謝が湧き上がった。
「……オッサン……」
スーマの電源は、残り1%。
バッテリーの切れかかったスーマを掴み、セシルも漆黒の空間へと戻る。
**h-aon**の軌道が、静かに閉ざされていった。
小動物が怯え、葉陰に身を潜める。
「ズズーンッ」
大きな二つの影のうち、一つが音を立てて崩れ落ちた。
ジョーは肩で大きく息をしながら、疲弊とやり切れない感情の中で、ギリギリの意識を保って立っていた。
「……俺は、カーロスに何もしてやれなかった……」
そう呟くジョーの足元には、倒れたカーロスの姿があった。
――数分前。
激しく交差する攻撃。
「ガンッ! ゴゴンッ! ズガンッ!」
カーロスが悲痛な叫びを上げる。
「お前と俺と……何が違うんだー!!」
ジョーは一瞬、息を呑んだ。
カーロスの攻撃を受け止めながら叫ぶ。
「お前には“出会い”がなかったんだ!友と呼べる相手に、まだ出会えていないだけだ!」
「友を得れば、お前の苦痛は、日常に溶け込んでいく!」
怒り混じりにカーロスが叫ぶ。
「それは……どうすればいいんだー!」
拳が飛ぶ。
「落ち着いて話を聞け!」
ジョーの拳がカウンターで水月に入った。
カーロスが崩れ落ちる。
その瞬間――
聞き覚えのある声が、空間に響いた。
「ジョー!」
黒い裂け目が空間に広がり、ジョーとカーロスを包み込む。
聞こえる声に、ジョーの意識が現実へと引き戻される。
漆黒の空間が静かに閉じていく中、セシルの手が差し伸べられていた。
救いは、まだ終わっていなかった。
そして、異質な空間に残されたのは――
静寂と、消えゆく瘴気だけだった。
「遺跡 ― それぞれの旅立ち」へ続く。




