↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナイトコードΩ 【残響の封印】  作者: 神北 緑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/214

遺跡 ― それぞれの旅立ち

夜明け前の森に、静かな奇跡が芽吹いていく。

物語は、祈りと絆を抱えて、新たな旅立ちへと進む。


どこまでも透き通る夜空に、無数の星々が瞬きを放ち、星座を描いていた。


イングランド郊外、深い霧に閉ざされた山中――

その奥深く、人の目に触れることのない場所に、ひっそりと遺跡が佇んでいた。

かつてリバースたちが人間の目を避け、結界に守られながら暮らしていた聖地。


h-aon(ヘウン)の闇のゲートが開いたのは、まさにその聖なる地だった。


ルクジム、エド、ジョー、カーロス、スーマ、そしてセシル。

一行は、持ち主のいなくなったログハウスで、静かに傷を癒していた。


ウッドデッキで紅茶を飲むセシルに、エドが話しかける。

「アンタが……あの蛇だったとはな。」


一瞬の沈黙。


セシルは静かに微笑んだ。

「エドワード。こうして直接話すのは初めてですね。よろしく。」


そして、セシルはエドの背後に視線を落とす。

「そして、大きなお友達も……よろしくお願いしますよ。」


少し後ろから様子を伺うカーロスの姿があった。

「……あいつ、いつの間にか、いつも俺の後ろをついてくるんだよな。何も言わずに。」

エドがぶきっちょな顔で呟く。


「気に入られたみたいですね。」

セシルがティーカップをソーサーに戻しながら言う。


「あなたには、酷い経験をさせてしまった。何とお詫びをすればよいか……」

セシルの声には、深い悔いが滲んでいた。


「ルクジムも、あんたも……なんでリバースって奴らは、そんなに生真面目なんだ。どっちみち、国に捨てられた命なんだぜ。」

エドが、申し訳なさそうに返す。


そして、ふと真剣な表情で問いかける。

「……でも、被爆した体が、何もなかったかのように元通りになるなんて……あの水は、何なんだい?」


紅茶の咆哮が森に吸い込まれて消えていく中、セシルが静かに語り始める。

「三人が下した判断の、最悪のシナリオへの最後の希望……いや、賭けでした。」


森の奥から、フクロウの鳴き声が響く。


「放射線を打ち消すことなど、理屈では不可能。けれど――あの泉の“祈り”が、奇跡を紡いだのです。」



セシルの言葉に、あの日の記憶が蘇る。

……遺跡へゲートが開かれた直後


「ジョー、友人を小屋の中へ!エドワード、頑張れ、すぐに運ぶからな!ルクジム、動けるか?」

セシルの声が飛ぶ。


「俺は大丈夫だ。スーマを電源へ繋ぎに行く。」

よろめきながらスーマを掴み、部屋へ入るルクジム。


全員が、ギリギリの状態でログハウスに滑り込んだ。



「ルクジム、バックをください!」

セシルの声が、焦りに震えた。


「……ああ。どうするんだ?」

息を切らしながら、ルクジムがバックを差し出す。


「望みは、これしかありません。」

セシルはバックから、結界呪符で包まれたボトルを取り出した。


中には、聖者の刻――そしてそれを満たす、エリシアの泉の聖水。


「我々リバースには、ある程度の放射線耐性がありますが……エドは人間。一刻を争います。」

ボトルを手にしながら、セシルの額には焦りの汗が滲んでいた。


「この聖水は、エリシアを知る者には力を貸してくれる。だが……エドには、何の繋がりもない。加護が現れるかどうか……」

一瞬の躊躇いが、セシルの手を止める。


そのとき、ルクジムが微かに微笑みながら呟いた。

「大丈夫だ。きっと母の水は、エドを助けてくれる。それに……ここ(遺跡)には、母が眠っている。」


ジョーも、重い口を開く。

「……それだけじゃない。この水を使えば、聖者の刻は再び彷徨い、いずれ消失するかもしれない。それでも、いいのか?」


フォン――

スーマの画面が淡く光を放つ。


残り8%。

それでも、確かに“生きて”いた。

「今ここでの現実じゃ、エドは救えねぇ。ワンチャン、それしかねぇだろ!」


スーマは続ける。

「それに、聖者の刻は俺たちが持ってるってことにして、どこか別の場所に移してくれた方が安全かもしれねぇ。」

「“あちら”の予言者がどこまで見えてるか分かんねぇが、全滅して奪われるよりマシだ。」


セシルが静かに頷く。

「もともと、集めることが目的ではなく……奴らに渡さないことが目的ですから。」

そう言って、セシルはボトルを開け、聖水をエドの口元へと運んだ。


「……あとは、運を天に任せましょう。」

そして、セシルはルクジムに向き直る。

「さあ、私たちも残りの水を飲みましょう。我々にも、放射線は染み込んでいる。」

聖者の刻を満たしていた聖水は、静かに失われていく。


ボトルの中には、封印だけが残された。


そのとき――


ジョーがふと視線を落とすと、カーロスが目を開けていた。

「……気づいていたのか、カーロス。」


「……ああ。お前との殴り合いごときで、壊れはしない……」

ぼんやりと天井を見つめながら、カーロスが静かに返した。


夜明け前の森には、小動物たちが目を覚まし始めていた。

霧の中、木々の葉がわずかに揺れ、すきま風が静かに舞う。


ログハウスの中、エドの顔色が徐々に良くなり、荒れていた呼吸が穏やかに整っていく。


「……よかった。もう安心だ。」

セシルの安堵の声に、ルクジム、ジョー、そしてスーマが大きく頷いた。


その瞬間、部屋の空気がふっと軽くなる。

まるで、誰かが見守っていたかのように。


ルクジムがそっとエドの額に手を当てる。

「熱も下がってる。……本当に、助かったんだな。」


そのとき、微かな花の香りと、温かい月の光のような霊気を感じた。

「母さん……ありがとう。」


霧が薄れ、夜が明けていく。

その光の中で、誰もが静かに笑っていた。


スーマの画面が静かに点滅する。

「ふぅ……これで、少しは報われたってもんだな。」


ジョーは黙って窓の外を見つめていた。

その視線の後ろには、まだ眠るカーロスの姿があった。


夜が明ける。

新たな旅立ちの予感と共に――


「遺跡 ― 再始動の夜」へ続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。