核燃料プール ― 紡いだ希望
セシルが飛び込んだのは、死を意味するプール。
波紋は祈りのように広がり、仲間たちの絆を静かに刻む。
色という概念すら吸い取る漆黒。
音も温度もない空間に、わずかな“切断音”が走った。
地獄の中で紡がれた奇跡が、静かに動き出した。
h-aonのコードによって開かれた次元の裂け目へ、セシルが飛び込む。
次の瞬間、蛇の姿をしたセシルは監視塔をすり抜け、プールへとダイブしていた。
映像だけを見れば、薄緑に輝く美しいプールへ飛び込む、ただそれだけのこと。
だがそれは、ウラン鉱石から抽出されたプルトニウムの貯蔵プール。
生物がそこに身を投じるということは、すなわち終焉――死を意味する。
ガラス越しのため、着水音は聞こえない。
水面は、聖油のように蛇を呑み込んだ。
その波紋は、祈りにも似ていた。
蛇の体は水に溶けるようにして、静かに消えていった。
「…おい、お前ら何やってんだよ!」
呆然と見つめていたエドが、我に返って叫ぶ。
その時――
「ガガーッ」
扉が無理やり開けられる音が響いた。
「いいんだ、エド。もともと俺たちは、このためにここへ来たんだ。」
フラつきながら、ルクジムが現れる。
ルクジムの声は掠れていたが、そこには奇妙な安らぎがあった。
「おい、ルクジム!無事だったか!」
エドがよろめきながら駆け寄る。
「ああ、大丈夫だ。それより…エド、お前、鼻血が出てるぞ。」
手で血を拭いながら、エドが答える。
「ちょっと…調子悪くてね。」
言葉の端に、もう笑う力は残っていなかった。
彼は、ここで得た仲間たちとの間に、何があっても壊れない絆が生まれたことを感じていた。
ルクジムはエドの状態を察した。
その顔には、悲しみとも苦しみともつかぬ歪みが浮かんでいた。
「よう、ワン公。やっつけたんだな!」
スーマが画面を青く点灯させながら声をかける。
「もう…立ってるのもやっとだ。」
ルクジムが苦笑する。
スーマはルクジムを見つめながら思った。
(あの契約者ラデムを独力で倒すとはな…しかも消耗はしているが、損傷は少ない。とてつもない成長を遂げてやがる。)
「それより、“これでいい”ってどういう意味だ?もう戻る体力もないぞ。」
エドが問いかける。
ルクジムはゆっくりと答えた。
「俺たちは…セシルをプールに入れるために来た。それだけだ。」
エドが呆れたように顔をしかめる。
「はあ?なんだそれ?…もういいよ。リアクションするのも辛くなってきた。」
「すまないな、エド。こんなことに巻き込んじまって…俺も、もう動けないよ。」
ルクジムもその場に座り込む。
「俺様のバッテリーも、あと5%だぜ。」
スーマも続ける。
「巻き込まれたなんて思ってねえよ。何べんも言わせるな。」
エドが気丈に返す。
「俺たちがリタイヤしても、ジョーがいる。大丈夫だ。」
ルクジムの言葉に、空間の霊気がわずかに揺れた。
消えかけた命が、未来を信じた証のように。
彼が呟いたその言葉には、まだ微かな希望が宿っていた。
三人は力尽き、動けなくなっていく。
意識の灯火が、静かに、しかし確実に消えようとしていた――。
「封印に閉ざされた空間 ― 帰還そして」へ続く。




