イエローナイフ ― ロンドン・ノクターン古書店へ
洞窟の水面が震え、オーロラが空を染める。 それは、希望という舞台が整った合図。
セシルの再生を信じ、仲間たちはロンドンへと向かう。
希望という舞台が整い、歓喜の余韻で泉の水面が小さく震えていた。
洞窟の天井から滴る雫さえ、三人の高鳴る鼓動に拍を合わせるようだ。
「まずはロンドンへ戻ろう! セシルを迎えに行く!」
ルクジムが抑えきれぬ声を張り上げる。
「今回は俺も行こう。封印の護り手が減りすぎる。」
ジョーも低く、だが力強く応じた。
スーマは画面を点滅させながら、何かを計算しているかのように間を置き、やがて短く言った。
「目的地は――ロンドン・ノクターン古書店だ。」
(……蛇の姿から元に戻るのは……?)
胸の奥に小さな棘が刺さる感覚を覚えつつ、スーマは呟きを飲み込んだ。
「ジョーは貨物室だぞ!」
「……わかってる。」
少し不満げに応えるジョーの様子に、場の空気がほぐれかけたその瞬間――
「待て! 俺たちはセシルの幻術で人間に見えているんだ。セシルがいなければ空港どころか、通りに立つだけで騒ぎになる!」
ルクジムの焦燥が一行を凍らせた。
「大丈夫だ。」
スーマがふんぞり返るように画面を揺らす。
「幻術はナイトコードを作るときにコピーしてある。代償は俺様のバッテリーだが、モバイルバッテリーを積めば問題なし。
ジョーの姿も二メートル程度に調整済みだ。近寄られなければ人間だと誤魔化せる。」
ルクジムの顔にわずかな赤みが差した。
「……パウラに、また会えるのか……」
その言葉は独り言のようだったが、その声にはかすかな期待と、彼女の安否を気遣う優しさが滲んでいた。
「おいおいワン公、顔が真っ赤だぞ。発情期か?」
スーマがからかうと、ルクジムは慌てて口をつぐんだ。
「よし! 出発準備だ!」
スーマの声が洞窟に響き、外の空に広がるオーロラがひときわ強く瞬いた。
――希望の光が、彼らの旅路を照らしていた。
パウラの日記
20××年 8月30日(土)
今日は本当に怖かった!
アルバイト先の古書店の地下書庫に行ったら、机の上に真っ黒な蛇がいたの。
怖くて叫びながら一階まで逃げちゃった。
……セシルさん、いつになったら帰ってくるんだろう?
メールの返事もないし、私、あの地下にはもう近づけないよ。
「北アイルランド連合王国 ― 始まりの地」へ続く




