灯は消えず―未来は一秒急ぐ
洞窟の奥、沈黙が波紋のように広がる。 溶けた牙、動かぬ水面、そして焦燥と諦め。
だが、希望はいつも予期せぬ形で訪れる。
静寂に包まれた洞窟の中、淡い光が水面を優しく反射する。
まるで深海に沈められた問いかけのように、動かぬ沈黙がそこにあった。
時は既に数十分も経過している。
「何も起きないのか?」
ルクジムが堪えきれず声を上げる。
ジョーは暗い表情で呟いた。
「ああ……牙は溶けて消えたが、何も起こらない……。」
焦燥と諦めの言葉が重なり合い、波紋のように広がる。
ルクジムは地面を睨みつけ、その怒りに似た表情をジョーが心配そうに見守っていた。
そのとき、スーマが突然動きを見せた。
画面を回転させながら、声を張り上げる。
「なあジョー!ココのお前の端末、衛星回線だよな!」
ジョーは落ち着いた声で答える。
「そうだ。ここは県外で電波も入らない。これが唯一の情報源だ。スピードは出ないがな。」
スーマは勢いよく言葉を続ける。
「なら、俺様をすぐ繋いでくれ!早く!」
ジョーは驚きつつも素早く動いた。
スーマが次々とネット検索を始める。
「……何か? 何でもいい、どこかに、何か!」
スーマの画面は目まぐるしく変化し、検索範囲は広がり続ける。
「SNSでも掲示板でも何でもいい!何か痕跡が残ってねぇか!」
ジョーとルクジムは固唾をのんでその様子を見守る。
その表情には、見えない希望への期待が浮かんでいた。
「ピコン!」
静けさを切り裂く通知音が洞窟内に響き渡った。
「!!」
スーマの画面に、これまでの無機質なデータとは異なる、温かみのある文字が浮かび上がる。
「メール!!」
スーマが叫ぶ。
「キター!」
画面に映し出されたメールに、ジョーとルクジムは目を凝らす。
ルクジムの瞳から一筋の涙が流れ落ちる。
それは悲しみの涙ではなく、セシルが生きているという、信じられないほどの安堵と喜びに満ちたものだった。
―― セシルさん!地下書庫の机の上に真っ黒な蛇がいました!怖くて近づけません!早く帰ってください! ―― パウラ
「パウラ!!」
ルクジムが声を張り上げた。
その叫び声が洞窟内に反響し、言霊のように駆け抜ける。
「おい、これって……!」
ジョーが冷静に問いかける。
「ああ!この蛇、オッサンだ!」
スーマが興奮混じりに言葉を続ける。
「俺様はもともとオッサンのスマホだ。そこにこのメールが届いた!」
スーマはさらに説明を続けた。
「履歴を見ると、二十分ほど前だ。ネットが繋がらねぇから諦めかけてたけど、ジョーの衛星回線を思い出して繋げたら……ビンゴだ!」
スーマは画面を回しながら興奮気味に叫んだ。
「オッサンは……泉の加護で……ロンドンに再生されたんだ!」
ルクジムは深く頷き、力強く拳を握りしめた。
彼らの旅は、まだ終わっていなかった。
「イエローナイフ ― ロンドン・ノクターン古書店へ」へ続く




