屋敷跡地―スマートフォンの悪魔(デビルズ)
瓦礫に沈む静寂を破る、ひとつの着信音。
それは、魔術と契約の世界に、予期せぬ“声”をもたらした。
名もなき存在に名が与えられ、奇妙な旅が始まる。
音と通知と角を携えた“新たな同行者”が加わることで、 魔術師たちの歩みは、少しだけ賑やかに、そして不可思議に変化していく。
これは、魔術と記憶の物語に、デバイスの悪魔が加わる章。
瓦礫と煙の静寂を切り裂くように、突如スマートフォンの着信音が鳴り響いた。
一瞬、ルクジムは指先を伸ばしかけ、セシルは眉をひそめた。
「非通知……だと?」
セシルがためらいながら通話に応じた瞬間――
「オイ、テメーら!俺の、からだをどうしやがった!!」
スピーカー越しに轟く声は、怒気と混乱に満ちていた。 だがその語感には、どこか間の抜けた憎めなさも漂う。
「……俺はさっきテメーらと戦ってた悪魔だよ!」
スマホの画面に浮かび上がる、不可思議な合成画像―― 小さな角、短い尻尾、背面の羽。
どう見ても、悪魔風スマホケース……もしくは“スマホそのものが魔物”になったような外見。
セシルは神経質に低くつぶやいた。
「まさか……伯爵が消えたその瞬間。吸血鬼の本体は元素に還ったが、融合していたデビルズは残存していた…」
「俺様、意味わかんねぇがとにかく動けねぇんだよ!なんなんだこの体!無機物!? データ化!? 数字しかねぇ世界じゃ力が出ねぇ!」
ルクジムは混乱の極みにいた。
「え、スマホって……契約者になれるの……?」
セシルが肩をすくめ、口元に皮肉な笑みを浮かべる。
「おそらく、“伯爵の触媒”が死にかけた瞬間、残留魔術と魔界の匂いに誘われて、私が詠唱に使ったゲートの欠片に流れ込んだ。スマートフォンが、触媒と認識されたのでしょう。」
スマホが怒鳴る。
「マジでどーなってんだよこの世界は!誰か何か説明してくれよ!」
セシルが思いつき、微笑みながら尋ねる。
「そうだ、貴殿の名前は?」
「ナマエ?何だそれは?」
「呼称です。自分を定義する表現。あなたの世界では、そういった“音の記号”はありませんか?」
しばらくの沈黙。
「…そんなもん無ぇ。三層以降の連中は名乗ってる奴もいるが、俺様たち下層には関係ねぇ話よ」
ルクジムが苦笑しながらぽつり。
「じゃあ…スマートフォンの魔物で“スーマ”とでも呼ぼうか」
画面の中で角がぴくりと立ち上がる。
「スーマ? へえ……悪くねぇじゃねーか!」
セシルは腹を抱えて笑った。
「アハハッ、これは珍客ですね。スーマくん、よろしくお願いしますよ」
ルクジムは距離を取りつつ、ちらりとセシルを見る。
「それで良いのか?…これ…仲間になるのか……?」
スーマが得意げに叫ぶ。
「まぁよく分かんねーが、音楽ぐらいは流してやるよ。何聴く?メタルか?ヘヴィか?」
セシルが立ち上がり
「ショパンで結構です。」
外では朝霧が静かに溶け始めていた。
瓦礫の中、セシルとルクジム、そして新たに“デバイスの悪魔”スーマが加わった奇妙な旅の続き。
魔術と契約の物語に、音と通知と角が加わる。
そして、彼らは再び歩き出す―― 記憶の断片と未解決の封印座標を求めて。
「スマホの悪魔 ― スーマの夜語り」へ続く




