表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナイトコードΩ 【残響の封印】  作者: 神北 緑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

152/153

ロンドン ― 古書店事件Ⅱ

理性よりも噂が速く走り、夜の街はただ静かに、取り返しのつかない方へ傾いていった。


ビッグ・ベンが象徴する混沌と洗練が共存する街。

太陽が姿を消し、夜霧が歴史を静かに演出していく。


オメガライン本部では、

スーマとアリアの言葉が計器に反響していた。


「悪りーなドクター。損な役回りを押し付けちまって」

スーマがリリアンに呟く。


「俺様はどうしても、あの子――パウラのことになると感情的になっちまう。

 上手く説明できねぇ……」


過去の記憶を引きずる声は沈んでいた。


「いいのよ。これもセシルやルクジム、みんなのため。

 それにミナ本人のためでもあるわ」

リリアンは柔らかく返す。


「彼らが目を覚ました時、私が緩衝材でいられるなら……嫌われ役でも構わない」


「ドクター……感謝します。

 私の立場で言えば命令に聞こえてしまいます。

 ドクターがいてくれて本当に良かった」

アリアが瞳を潤ませる。


三人の会話は通信されていない――

だが、ミナにはその温度が伝わっていた。


スマホを握る手が、小刻みに震えている。



ノクターン古書店



裏口へ回ったパウラは、凍りついた表情で立ち尽くした。

だが、裏手の窓にもすでにスマホライトの光が差していた。


息が止まる。


「鍵……掛かってる……」


焦りの中で、わずかな冷静さが施錠を確認させた。

その安堵と同時に、膝が崩れ落ちる。


ガンッ!!


扉に鈍い衝撃。


「おい、開けろって言ってんだろ!」


二度目。


ガンッ!!


「やめて……!」


パウラが後ずさる。


三度目。


ガシャァン!!


格子越しのガラスが砕けた。


パリーンッ。


「きゃっ……!」


パウラは思わず声を上げる。


「何で裏から逃げようとしてんだ?

 そこで何してんだよ!」


ライト越しの声が、割れた窓から流れ込む。


ガラス片で手を切り、冷たい感覚が広がる。

恐怖の極限で、妙に冷静な自分に違和感を覚えながらも、

体は動かない。


ガチャガチャガチャ!


『何か起こってんなら時間がねえぞ!』

無責任な書き込みが溢れる。


「こじ開けろ!!」


興奮が暴走を助長し、

止められない狂気へと変貌していく。


外の声は、一人分ではなかった。

ライブ配信のコメントが、誰かの口を借りて増殖していく。


パウラの顔から血の気が引いていく。


指先の感覚が消える、

呼吸が浅くなる、

視界が狭まる。


その刹那――

パウラのスマホが震えた。


画面には一つの名前。


『ミナ』


「ミナ……?」


『パウラ、聞いて。外を見ないで。鍵を開けちゃだめ』

掠れた声の向こうで、機械音が鳴っている。


「な、何が起きてるの……?」


答えより先に、

ガンッ、と硬いものが扉を叩いた。


『パウラ、下がって!』


ガンッガンッ再び衝撃が走る!


『急いで地下室に入って、鍵を閉めて!』


ミナの声が強くなる。


だがパウラは腰が抜け、立ち上がれない。


『ルクジムさんに会えなくなるよ!!』

ミナの指が震えながらも止まらない。

画面を叩くように操作する。


「……っ!」


パウラは息を吸い込んだ。


古書店の紙の匂いは、

舞い上がる埃と緊張の匂いにかき消されていく。


ドガァン!


ついに扉の鍵が壊れた。


外から押し寄せる影。

誰も、自分が加害者だとは思っていなかった。


暴走した“視聴者”たちの靴音が一つ、店内に踏み込んだ。

『中、血出てるぞw』


日常は狂気へと姿を変え、

悲劇の輪郭が静かに形を成していく――。


警察に通報が入ったのは、その十五分後だった。


「ロンドン ― 古書店事件Ⅲ」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ