冷酷な時間 ― それぞれの空
それぞれの空が別々に沈み、世界は同じ現実を共有できないまま黄昏へ落ちていった。
日没を迎えた空は、現実味を失い、
黄昏の色で生と死の境界を曖昧にしていく。
空戦でひりつく空気を、闇が包み隠そうとしているかのようだった。
リックマンの命令を受け、F‑35、MiG‑25、ラファールBが次々と軌道を変え、散開していく。
「……奴ら、戻る気だ!」
「要塞の防衛に回る気だ……ここで阻止するぞ!」
F‑22リーダーの通信が、国連軍機に轟く。
「イギリス領土内で戦争を起こされては、今進行している隠密作戦が失敗する」
リーダーが続ける。
「この連合は、オルド・アークのテロ鎮圧のために集結できたんだ。
同盟国のイギリス領土内で大型武器を使えば、大問題になるぞ」
中国軍リーダーが返す。
「インヴァネス沖モーレイ湾にオルド・アーク要塞があるなんて、
どこにも公表されていない。
そこで大規模戦闘を起こせば……国は全てを認めざるを得ない」
「そんなこと、あり得ない……」
イギリス軍機から悲痛な声が漏れる。
「なんにせよ、ここで奴らを返さなければいいだけの話だ。
個人的な恨みも返したいしな!」
イスラエル軍機が通信に割って入る。
「作戦は続行でいいんだな? 我々はMiG‑25を追う!」
空自リーダーが叫び、散開したMiGを追走する。
その時、スーマが通信に入った。
「連合のみんな、向こう――要塞は今、大事な局面に入ってる。
だからリックマンは部隊を呼び戻したんだろう」
「加勢に行かせたら大惨事だ!
オメガワンはもう飛べねぇ……頼む、何とかしてくれ」
焦りを隠せないスーマの声。
その瞬間、F‑15〈イーグル〉がMiG‑25の後方から、
鼻先をかすめるほどの距離で追い越した。
煽られたMiG‑25は、本能的にF‑15を追う。
「よし、俺たちも行くぞ!」
J‑20〈威龍〉がラファールBをロックオンする。
ユーロファイターが回り込み、敵の進路を塞ぐ。
イスラエルのF‑35がJ‑20に続く。
だが――
魔界結晶〈アビスクリスタル〉が生み出す“生物のような挙動”と、
数百通りの予測から導かれる先読み。
F‑35もJ‑20も、即座に後方を取られた。
日が沈みかけ、視界が悪くなる空間で、
激しい攻防が続いていく。
黄昏は心の不安を映していく。
その頃、ロンドン
SNSに、ある投稿がUPされていた。
#危険人物の潜伏先
#郊外の古書店
『夜しか開いてない古書店て怪しすぎんだr』
『ここんところズット閉まってるみテーよ!』
『オレ近いから突ってみるわ』
『おお勇者!よろ!』
『もう配信してるやついるぞ』
……
#ノクターン古書店
イギリス政府は
「天使はフェイク」「オルド・アークはテロ集団」
と正式発表している。
だが――
大きな声は形を成し、
魔女狩りは静かに続いていた。
何も知らず、
掃除道具を抱えたまま、少女は店の前に立っていた。
ロンドンへ向かうジェットの中
エドとミラはSNSを確認し、顔色を変える。
「まずいぞ……間に合うか……」
エドが額に汗を滲ませる。
「あと一時間はかかるわ……お願い、間に合って」
ミラが祈るように呟く。
——誰も、同じ空を見ていなかった。
焦りと時間が混ざり合い、
ため息だけが零れ落ちていった。
「交点の兆し ― 暗雲」へ続く。




