空 ― 夢の編隊
各国の翼が北空へ集い、希望と破滅の境界だけが薄氷のように震えていた。
冷気が再び支配を強め、日差しが地平線へ沈んでいく。
視界が徐々に奪われていく北の空で、F‑22はなお猛追を受けていた。
「くそ……振り切れない! 離脱もできない……やつら、遊んでやがる!」
F‑22パイロットが悲痛な声を上げる。
「戦力差を理解した上で、わざと甚振っているんだ……
まるで猫が鼠を弄ぶみたいにな!」
別のパイロットが叫ぶ。
その時、通信に割り込む声。
「リーダー機、よく聞け! もう少し踏ん張ってくれ!」
スーマだった。
「どういうことだ?」
リーダーが返す。
「高角レーダーを観ろ」
スーマの声が低く響く。
「……これは!」
「援軍か!?」
「だが、奴らだって気付いているはずだ!」
混乱した声が飛び交う。
「NOAの分析によると、奴らは“レーダーを認識していない”」
スーマが早口で続ける。
「アビスクリスタルはAIじゃない。
自我だ。意思だ。
機体を自分の体のように動かし、互いの意思疎通や情報共有を行う」
スーマは画面越しに指を立てた。
「だがな――“レーダーを見る”という概念が無い。
人間のように情報機器を読み解き、理解し、情報として扱えない」
「つまり、獣の連携はできても……
ハイテクを認識できない“鳥頭”ってわけだ」
さらに続ける。
「先読みだって、生物としての常識からパターンを割り出してるだけだ。
上空からの目と、互いの視界を共有しながらな」
一拍置いて、スーマが言い切る。
「未来予知なんて、そんな都合のいいもんじゃねぇ」
その瞬間――
F‑22を取り囲んでいた編隊が、突然二分された。
コオオオオオ――ッ!
鈍い金属音を響かせながら、静かに、影のように割り込む。
中国の J‑20〈威龍〉。
続いて、もう一つの囲いを両断する正面突破の銃撃。
ドドドドドドドドド――ッ!!
イギリス空軍の ユーロファイター・タイフーン。
そして最後に、F‑22リーダーへ食らいついていたMiG‑25を、
赤いピンポイントホールを背負った機体が撃墜した。
一撃必殺の精密射撃。
ドオオオオ――ン!!
日本航空自衛隊の F‑15〈イーグル〉。
さらにイスラエルのF‑35が空域を制御し、戦線を押し返す。
「こ、これは……こんなことが……」
F‑22リーダーは言葉を失った。
スーマが静かに、しかし誇らしげに言う。
「ああ。イギリス軍が来たってことは、
オルド・アークとの裏のパイプは完全に消滅したってことだ」
「イスラエルにとっては、“無かったことにされた事実”への
直接的な報復にもなってる」
スーマは指を鳴らす。
「それにしても……国連の名のもとに中国まで参戦してくれるとはな。
極めつけは、日本の自衛隊までだ」
画面越しに広がる壮大な編隊を、スーマは息を呑んで見つめた。
「共通の脅威の名のもとに……
世界が初めて手を組んだ瞬間だぜ!」
F‑22リーダーが小さく呟く。
「……助かったのか、俺たちは」
「しかしF‑15とMiG‑25……旧世代最大のライバル対決が、こんな形で拝めるとはな」
だが、獣と化したマシンたちは怯むことも、退くこともない。
不気味に輝くアビスクリスタルの紫光が、空に脈動する。
その奥で――
リックマンからの“帰還命令”が伝わった。
空は静かだった。
大空の戦いは、静かに終焉へ向かい始めていた。
——だが、戦いは終わっていない。
「冷酷な時間 ― それぞれの空」へ続く。




