過去を支配する者①
*この小説はフィクションです。
勇輝は狂の言葉を聞くこともなく飛びかかり、攻撃を始めた。狂は難なく躱したり、攻撃を受け流したりしている。
「落ち着け。お前の願いを叶えてやる」
それでも、勇輝は話を聞こうとしない。今の勇輝は狂をやつけることに必死だ。
狂は勇輝の両親を殺した、そのことが勇輝の頭の中にしっかりと焼きついていた。
だが、それは狂の仕業でもあった。
狂は全てを知っている。そのため、人の記憶をかき乱すことも難しくない。
勇輝は父親の力弥から母親の透子の死のことを聞いた。病気で亡くなったと告げられ、受け入れた。それにも関わらず、今の勇輝はその話を忘れてしまったかのようだ。
少しばかり記憶をかき乱されたと言ってもいいだろう。
それが原因で勇輝の頭の中で色々な感情が入り乱れ、黒い感情が起こってしまった。
突然のことで勇輝は混乱してしまう。元々感情に左右されることもあり、我を忘れるほど体の奥から感情が湧いてきたのだ。
狂に襲いかかるばかり。だが、狂はひょいと躱している。
勇輝の攻撃がどこに来るのか、それもまた知っている。それでも、あと一歩のところで狂を捉えそうだ。
狂の得意げな表情に勇輝は睨みを利かせた。
不意に勇輝は頭痛に襲われる。頭を抱え、しゃがみ込んでしまった。
勇輝の頭の中にある記憶が流れた。それは、荒れてた頃の記憶だ。
馨、寧々、探と風粏、隼人たちと仲良く話している頃の記憶。そこには瞬もいたが、瞬とはよく喧嘩をしていた。
あまりの記憶の多さに勇輝は混乱し、唸る。加えて頭痛が襲いかかり、勇輝の頭の中が混線していた。
「うわああああ」
しゃがみ込んで叫びを放った。狂はただただ勇輝が落ち着くのを待った。
「俺は、母さんの死を、親父から」
狂はその言葉を耳にし、驚いたように振り向いた。不機嫌な表情を見せるもすぐに表情が変わる。
眉間に不快の色を漂わせながら、勇輝をじっと見やる。
「ち、違う。違う違う違う。母さん、を殺した、やつが、いるんだあああ」
「そうだ。オレが殺した。そうだよな?」
突然、勇輝は混乱状態で言葉を叫んだ。その言葉に狂は答えるように返すと、勇輝に問いかけた。
過去の記憶を消し、新たな記憶を焼きつける。
一瞬にして、狂は勇輝の記憶を変えた。勇輝に問いかけたが、勇輝は混乱状態が続いている。
「おい、オレが殺した。そうだよな?」
再び、狂が問いかける。勇輝は狂を睨みつけた。勇輝の額から汗が滴り落ちる。
「お前が、殺した?」
狂の言葉に鋭い目を向け、言葉を投げつけるように問う。そうだと狂が答えると、勇輝の目から黒い光が戻った。
「じゃあ、お前を殺さないといけない」
ぽそりと呟き、すさまじい勢いで狂に向かっていく。狂の前まで来ると、拳を突き出した。そのまま、力を入れて攻撃しようとする。攻撃は狂の手のひらで止められた。
「落ち着け。オレを殺す前にやってもらいたいことがある」
冷静な表情で狂は言った。
彼は変える者。過去を変えるのが主な目的。勇輝にやってもらいたいことなど誰が考えても容易いことだ。
勇輝は力を弱めると、腕を下ろした。狂に話しかけることはないが、狂を見やる。
狂は平然と立っている。勇輝をまっすぐ見返す。
不意に勇輝に変化が起こった。
「なんだ、これ……。お前も誰かを、亡くしたのか?」
狂は勇輝の言葉に我に返る。冷静な態度だったが、動揺を見せている。
「もしかして、家族だったりする? それなら、」
「お前には関係ない。オレには家族はいない」
勇輝の言葉を遮り、言い切る狂だが、勇輝は不審に思ったのか、狂を冷ややかに見据えた。
「違う。妹だな」
勇輝の言葉に狂の眉がぴくりと動いた。その反応に勇輝は険しい表情をする。
勇輝は知っている。家族を失う辛さを。勇輝の父親である力弥が作った組織阻止する者にはそういう境遇の者ばかりだ。その者たちと接してきた。
勇輝自身も母親の透子を亡くして育ってきたが、透子が亡くなったのは物心がつく前のこと。母親がいないことを不思議にも思った。
それでも、他人からしか失う辛さを感じ取ることしかできず、自分が失う辛さを知るのは力弥が亡くなってからだった。
そんな勇輝が狂の目を通して狂の過去を知り得たのだ。その理由は透子の人の心を読む能力にあった。
先天的に能力を持った者の中で親も能力者であれば、稀に遺伝として親の能力が備わることがある。
勇輝がその一人だった。きっかけは生前の力弥から貰ったペンダントから。瞬にペンダントを壊され、覚醒したこともあったが、人の心を読む能力は消えなかった。
「お前は妹のためにこの世界を変える。そう思ってるんだろ?」
再び、狂の眉が動いた。だが、黙っている。
「お前の望みに俺は聞かない」
不意に狂が舌を鳴らす。目つきが変わった。勇輝に危害を加えずに利用しようと考えていた。勇輝の一言で気が変わった。
「分かった。お前がそうするなら乗ってやろうじゃねえか」
直後、狂は姿を消した。勇輝が辺りをきょろきょろと見渡していると、勇輝の横から狂が現れた。
「他所見してるとやっちまうぞ」
不敵な笑みを浮かべて、勇輝に攻撃を与えた。
次話更新は7月30日(木)の予定です。
*時間帯は未定です。




