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離脱と復帰

*この小説はフィクションです。

 御角が来てから十分が過ぎようとしていた。御角の能力に限界が来ている。それなのに、司と隼人の治療が一向に終わりそうにない。その理由は二人とも致命傷を負っていた。

 優秀な医療従事者だった癒維でも一人では時間が掛かってしまい、せっぱ詰まった状況が続いていた。

「ねぇ、もう限界なんだけど。早くして、くれない?」

 御角は癒維の処置の遅さに苛立ちを募らせながら、なんとか持ちこたえている。

 癒維は早く終わらせようと必死になっている。処置を続けていたが、不意に手を止めた。

 司と隼人、二人を同時に治そうと、二人の上にそれぞれ片手をかざした。

「癒維ちゃん、それだけはやめて! あなたの体に負担が、」

「二人を救うには、もう、これしかないんです!」

 癒維は美鶴の言葉を遮り、声を震わせて叫ぶ。美鶴が何度も呼びかけて止めようとしても、癒維は能力を使う手を止めない。

 あっという間に数分が経ち、うっすらと額に汗を浮かべる。

 美鶴は癒維の手を止めようと、這うように進み、動かない体を無理に動かす。

「無駄だよ。もう、時間が、ないんだよ!」

 御角が美鶴の様子に気づき、言葉を投げつける。それでもなお、美鶴は諦めず、這い進む。

 直後のことだった。

 御角の能力によって真っ白な空間だった場所から景色が一変したのだ。

 御角の能力の限界が来てしまった。


 彼らの視界に狂が映る。彼らは唖然として息をのんだ。狂が彼らに攻撃はせず、御角に襲いかかった。

 御角は唾をごくりと飲み込み、目を瞑る。やられる、と思ったのだ。

 だが、やられる感覚が消えたのを感じ、ゆっくりと目をあける。

 次の瞬間、御角の体が宙に浮いた。

 司にお姫さま抱っこのように抱えられていたのだ。

「どうして……」

 唖然とし、小さな声で呟く御角だが、司は何も話さない。司の額に汗が流れている。

「やったつもりだったが、そうか。生きていたか」

 狂は誰に言うともなく呟くと、感嘆したように笑みを目元に浮かべた。

 司は起き上がっている隼人に目で合図を送る。隼人は司の視線に答えた。


 現在、動けるのは司と隼人のみ。二人を治すため、癒維は倒れてしまった。御角は能力の限界まで使い果たしている。動けるが体力が消耗してしまうだろう。美鶴は未だに体に負担が掛かり、完全回復には時間が掛かっている。

 狂と戦っていた勇輝は頭を抱えてうずくまっている。おそらく、その隙を見計らって狂は御角に襲いかかってきたようだ。

 彼らにとって不利な状況。それでも、危機を乗り切るしかない。

「何度やっても同じこと。無駄だ」

 狂は言葉を吐き捨て、電光のはやさで攻撃をしかけようとした。

「司さん!」

 隼人が大声で呼ぶ。隼人の声にものともせず、狂は攻撃をするが、司は攻撃を躱した。二度、三度と次々と来る攻撃も素早く躱わしていく。

 司の動きに狂は舌打ちをし、隼人の方向へ手のひらをかざす。

「消えてもらう」

 一言を呟くと、隼人に攻撃が襲いかかってきた。

「隼人、伏せろ!」

 今度は司が大声を出す。隼人は攻撃をかわしたはずだった。

 腕を掠め、血が滲んだ。

「隼人、大丈夫か!」

「大丈夫です!」

 司の言葉に隼人は大きい声で返事をし、体勢を立て直した。その間にも狂は二人に攻撃を加える。二人は素早く反応し、攻撃を巧みに躱していった。


 一方、美鶴はなるべく使わないようにしていた能力を発動することにした。発動したのは癒維が倒れてしまったことと、頭を抱えている勇輝が心配だったから。

 二人のため、自分の能力を解放し、自分が動けるように最大限の能力を使った。

 動けなくなるほどの攻撃を受けていたせいで代償による体への影響が大きい。

 美鶴は動けるまでに回復することができたが、回復するにつれて徐々に体には痣や傷ができた。

 それでも、美鶴は能力を使うのをやめない。回復すると、真っ先に癒維のところへと駆け寄った。

「癒維ちゃん、聞こえる? 大丈夫?」

 美鶴が声を掛けても返事がない。癒維は気を失っている。

 美鶴は癒維の体の状態を診る。若干だが、呼吸と心拍が乱れている。加えて、体がものすごく熱い。冷やすものは手元にない。

「癒維ちゃん、ごめんね。ちくっとすると思うけど、許してね」

 そう言って、どこからか注射器を取り出し、癒維の腕に注射する。一応、処置を終えた。

 次に美鶴は勇輝の元へと駆け寄ろうとした。

 司と目が合った瞬間、狂の攻撃が美鶴に襲いかかろうとした。

「美鶴さん!」

 司の声が響き渡った。美鶴は難なく躱す。勇輝の元へと寄ると、勇輝をやさしく抱いて声をかける。

「勇輝くん、私よ。大丈夫?」

 勇輝は混乱している。不意に美鶴と視線が合った。

「勇輝く、」

 美鶴が何か言葉を掛けようとしたが、途中で言葉が途切れる。その理由は勇輝の目に宿る黒色を目にしてしまったからだ。

「うるせぇ」

 勇輝は唸り声をあげたかと思えば、美鶴に荒々しい口調で言葉を投げた。

次話更新は7月16日(木)の予定です。

*時間帯は未定です。

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