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陽炎歴乱舞  作者: 朝日菜
炎のアカペラ
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第三話 紅蓮と鴉の構成員Ⅱ

 南雲朔那なぐもさくなは最年少ではないにしろ神馬じんば霜里しもさとよりも二つ年下だが、今では《カラス隊》の上位に入るほど厄介な敵になっているらしい。

 使用する武器は日本刀ではなく忍者刀で、町民に配慮して全員が日本刀を隠し持っているが、朔那はその倍以上の武器を隠し持っているという話もあった。《カラス隊》の基本スタイルを根本から否定する隊員で、《グレン隊》から引き抜かれたイレギュラーな存在。そんな彼を《カラス隊》の隊長がどう受け止めているのかは誰も知らなかった。


 朔那は今のところ表立った活躍はしていないが、頭が良かった彼のことだ。他にも多くの〝武器〟となる知識を《カラス隊》で蓄え続けているのだろう。隊の名前のように鴉を想起させる朔那の隠された今の行動は、《グレン隊》にとっては厄介以外の何物でもなかった。

 そんな男と邂逅した。紫苑しおんはより一層身を引き締め、彼のせいで空いてしまった穴を埋めるように邁進することを決意する。やがて朔那以上の存在になることを夢見て、紫苑は自然と打倒朔那を目標に掲げた。


「ただいま〜」


「今戻りました!」


 睦見むつみと一緒に《グレン隊》の本拠地である《ハリボテの家》に戻ると、リビングにいた全員から「おかえり」の声が返ってくる。

 紫苑は一瞬口を閉ざし、自分が今言うべき言葉が少しだけ違ったことに気がついた。だが、言い直さずにソファに飛び込む。


「ぐぇっ! なんだよ紫苑! おまえ急に!」


 そこにいたはるかに抗議されたが、紫苑は「ただいま」の意味を込めてニカッと笑った。


「え、えぇ……? すっげー笑顔……」


「何かいいことでもあったの?」


「別に何も!」


「え、えぇ……? でも、なんかすっごいハイテンション……」


 アリアでさえ困惑するほどにご機嫌な紫苑は、養護施設に行く前までに感じていたどす黒い感情とストレスが嘘みたいに消え去っているのを感じていた。


「いいことなのかは知らねぇけど、朔那には会ったぜ?」


「さっくんに?」


「……会ったのか?」


 くるりと振り向いて口を開けたアリアと、すぐさま不機嫌そうに唇を尖らす遥。対照的な二人の存在が同時に言葉を漏らすと、睦見は「おう」と相槌を打つ。


「さっくん何してたの?」


「あれはいつものパトロールだなぁ。つーか、町民の気持ちもまぁわかるわ。あいつら何してんだか未だにわかんねぇしな」


「ただのアピールとちゃう? 俺らは今パトロールしてるで〜っちゅう町民へのな」


「……本来の《カラス隊》は、夕方が主な活動時間なのにね」


 ぼそっと呟いたアイラの言葉は、何故か紫苑の心に刺さった。夕方、つまりその時間は黄昏時ということになる……。


(黄昏時?)


 二年前に発足し、黄昏時に活動し、それを人工半妖はんようのアイラが知っているという事実。そして、導き出せるその結論は──。


 《カラス隊》が、妖怪を殺す為に存在しているという事実だった。


 絶縁状態の従兄の陰陽師おんみょうじが、《カラス隊》に所属している。それを知っていたから避けていたが、そんな理由があったなんて。


「…………」


 〝彼〟もまた、妖怪を恨んでいるのだろうか。そうだとしたら、ほんの少しでも〝彼〟のことを許せるだろうか。


「あれ。大人しくなった」


 アリアは急に黙った紫苑を揶揄い、リビングに集まっている全員を見回す。


「あの中学生たちと《カラス隊》、ぶつけるってことになったけど《カラス隊》を全員誘導するのは難しいよねぇ〜」


 そう言ってソファに座り、テーブルの上に乗っていたクッキーをつまんだ。


「一応公務員やし、交代制で休んどる奴もおるやろ」


「応援を呼ぶようなタマがクソガキどもの中にいるようにも思えないっすしね」


「ぶっちゃけ雑魚だもんな」


 その雑魚に一度やられた紫苑は何も言葉を発せない。唇を尖らせ、彼らの会話を黙って聞く。


「捕まえられるとしたら、万引きとかかなぁ?」


「それはしょぼくないか? 更生にもならないだろう」


「暴走族並の暴れっぷりを披露してくれれば面白いんだけどな〜」


「確かになぁ。けど、んな大胆なことができたらとっくのとうに捕まってるぜぇ?」


「……中途半端が一番厄介っスね」


「《カラス隊》にぶつけるのはクソおもしれぇんすけどねぇ。おれらが『あれやれ』って言うわけにもいかねぇっすし、とりあえずクソガキどもを尾行して普段の行いを探ってみますか?」


 提案を出すのはいつだって遥だ。未成年なのに発言力もあり、誰にも臆することなくいつだってぐいぐいと前に出て来る。


「な、る、ほ、ど。よし、やれ言い出しっぺ」


「えぇ?! いいけどおれこの辺だと有名人だぜ?!」


「変装すりゃいーじゃん。なんなら俺がコーディネートするぜぇ?」


「おれで遊ぶなバカしゅう! コーディネートなら愁晴しゅうせいさんに頼むわ!」


 愁晴にずば抜けたセンスがあるようには見えないが、一番遥で遊ばずに真面目に考えそうな信頼感がちゃんとある。センスがある睦見と弥上やがみは遥いじりの筆頭だ。そうなるのは必然だろう。


「えぇ〜……」


 それでも嫌そうな表情で遥を見た愁晴は、紫苑が思っているほど真面目ではなかった。

 今までの会話からなんとなく想像していた性格とは違う隊員たちの反応に混乱しつつ、紫苑は「俺が選びましょうか?」と口を出す。


「えぇ〜……おまえ、オトナのセンスわかるのかよ」


「遥さんはオトナじゃねぇっす」


「うっせ! よく見ろオトナの男のブランドから買ってるだろ!」


 オトナの男のブランドなのかはわからないが、遥は緩めの服が好きなのかそういうものばかり着ているという印象がある。オトナの男というのは、もっとピッチリとした服を好むのではないだろうか。


「好みと目指している方向性が違うんじゃねぇですか……?」


「お前よくわかったな。そうだよこいつむちゃくちゃなんだよなぁ〜」


「ぎゃはは! ショップ行って帰ってくる度に『ピンとこねぇ!』っつってるもんな!」


「うっせー! 今そんな話してねぇだろ! 誰がクソガキどもを尾行するかっては、な、し、だ!」


 いや、どっちにしろこの隊員の中で一番適任なのは遥だろう。紫苑は遥を指差していたが、全員の視線は紫苑を捉えていた。


「えっ」


 あのかがりも、紫苑を見ていた。


「遥と、お前だな」


「俺もですか?!」


「だってお前ど素人だろ? ここで一発経験積んでみろよ」


「……そもそも、そんなお前に任せることが他にないしな」


 睦見と如月きさらぎに背中を押される。


「顔を覚えてんのもお前だけだろ〜? そういう意味でも効率的だぜぇ?」


「現場の空気ってのも感じられるしね」


「……やらない理由は特にないだろ?」


 弥上と卯之原うのはら皐堂さきどうに背中を押される。

 任されるとは思っていなくて驚いたが、断る理由なんて皐堂の言う通りどこにもなかった。


「やります! やります俺! 任せてください!」


「じゃあ、おれにちゃんとついて来いよ〜? 変装グッズ買ってくるからちょっと待ってろ!!」


「えっ、あっ、ちょっ!」


 何かを言う前に置いてけぼりにされた。紫苑は上げていた腰を渋々下ろし、「なんなんですかあの人」と唇を尖らせる。


「単純に年下の新人が入って嬉しいんだろな〜」


「遥は良くも悪くも単純だからな」


「はーちゃんってどっちかって言ったら古参寄りだけど、どっちかって言ったら年下だからあんまり先輩面できてなかったもんね。そういうのすごーく好きそうなのに」


「先輩面したらぶっ殺すからな。俺の方がワル歴は長いぜぇ?」


「集くんは生まれた時からじゃん。チートじゃん」


「……よっぽどの大物じゃない限り無理っスね」


 無茶苦茶なことを話している他の隊員の表情は和やかだ。紫苑は息を吐き、どうしようもないくらいに感情表現が豊かな遥のしたいようにさせておく。


「ちゅーか、最近あいつ元気やなぁ。なんやろ? そんなに紫苑の加入が嬉しかったんか?」


「朔那が抜けてからずっとイライラしてたもんな。爆発寸前の爆弾って感じ?」


「南雲が脱退してから驚くほどに成長したがな。……怪我の功名のようなものか」


「遥さんと南雲朔那って仲良かったんですか?」


 見たところ歳も近そうだし、そうで間違いはないのだろう。


「仲良かったよ。ずっと二人で一人って感じで戦ってたしね」


 視線を移すと、アリアが珍しい微笑みを浮かべていた。それは確かに微笑みだったが、紫苑にはそれが少しだけ寂しそうに見えて──



『朔那は多分、アリアの為に入隊したんだよ』



 ──ふぅん、と声に出したか出してないかの声量で相槌を打った。


「だからってわけじゃないけど、頑張ってね? 紫苑。はーちゃん、すっごく紫苑に期待してると思うから」


「……それってつまり、南雲朔那の代わりになれってことですか?」


「えっ? ううん、そういう意味で言ったんじゃないしはーちゃんもそうは思ってないって! でも、はーちゃんには誰かがついててあげないとダメで、紫苑がそうなってくれたら嬉しいなーって、あ! えっ? 違うよ?!」


 なんでそんなにテンパっているのだろう。紫苑は短くため息をつき、「もういいっすよ」と頬杖をついた。


「俺、誰がなんと言おうと頑張るんで」


 それしかできることがないから。ただ強くなりたいと願うから、紫苑は遥について行く。


「ま、ほどほどにやな」


「むちゃ、しないでね」


 愁晴とアイラからも言葉を貰う。炬は──期待を込めて視線を移すと、彼は興味なさそうに眠っていた。


「…………炬さん、自由ですね」


 そんな人にいつかなりたい。子供故に絡みついた物を全部がむしゃらに投げ捨てて、走り出したい。


「あはは……。かがりんお昼寝大好きだから」


「お前はこんな大将ボスの元に来たってことだが、後悔はしないようにな」


「はい」


 何故だかおかしくて笑みが零れた。欲しいのもがいっぱいだ。それを全部ここで学ぶ。


 朔那が《カラス隊》で武器を蓄え続けるのなら

 自分は《グレン隊》で武器を蓄え続けていく。


 いつか朔那とまた会った時、倒せるように。自分という存在を、見せつける為に。

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