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VRでボロ屋敷買ったら勇者がメイドに魔王が執事として雇用されに来た  作者: 無頼惡兎
第1章  おじさんボロ屋敷で勇者と魔王を雇う

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第2話:おじさんの所有物として、街の食事処へ

 時刻は16時30分をまわり調印も終わって、マオがドカーンと木端微塵に粉砕したリビングの扉の先から、オレンジ色の綺麗な夕日が室内に差し込んでいた。

きれいな直板の上でピシッと体育座りをさせられたマオとユウ。新しく雇い主になったサトウへの畏怖から、小さく身を寄せ合ってカタカタと震えていたが、サトウがリビングの床に大きなパーツをガタゴトと並べ始めたのを見て、再び脳内で大絶叫した。

 ベコベコに歪んだ床を補強するための骨組みの木材と、その上に張るためのソファの分厚い皮素材だ。

「というわけで、今日はこの作成中のソファを並べておくから、二人で仲良くここに雑魚寝しなさい。その方が安全だからね。あ、そこで激しく動いたりしたら大変だよ? 重さで床がバキッと抜けて、その下の、尖った木屑や古い釘が突き出た剣山みたいになってる場所に真っ逆さまに落ちちゃうからね!」

 おじさんが「作成中のソファの周りで暴れたりしたら、床が抜けて床下のガレキに刺さって大怪我しちゃうよ」とDIYの現実的な注意をしてあげただけの一言。

 だが、能力を奪われ『メイド服』にシステムロックされた勇者ユウの脳内は、極限の戦慄に染まった。

(……激しく動いたら床が抜けて、その剣山に真っ逆さま……!? つまり、私たちが少しでも戦闘の気配を見せたり、夜中に隙を見てお互いを急襲しようとした瞬間、重量と振動を感知する即死串刺しトラップが発動して即死する――明確な脅しなのね……っ!?)

 熟睡すら換算に許さぬ残虐なギミックの存在に、ユウは恐怖と焦りのあまり、真隣に座る執事服の魔王マオの方を、ボロボロの涙目でギロリと猛烈に睨みつけた!

『(ちょっと、魔王……っ! まさかあんた、この超越者おじさんと裏で手を組んで、私をその剣山の餌食にするために仕組んだ罠なのね……っ!?)』

 ユウからの刺すような暗黒の眼光を向けられた魔王マオは、脳内で冷や汗を滝のように流して大パニックに陥った。

『(ち、違う! 俺を睨むな勇者……っ! 俺だってさっきサボりに来たばかりで、こんな即死剣山トラップの仕様は今初めて聞いたんだ……っ! というか、お前が少しでも激しく動いて振動を与えたら、レベル1の俺まで巻き添えでその剣山に落ちて串刺しになって死ぬんだぞ……っ!?)』

 おじさんがのんきに笑っている前で、直板の上に体育座りをした二人の間では、お互いを疑い合う命がけの壮絶な脳内心理戦が勃発していた。

 そこに追い打ちをかけるように、二人の視界に危険を示す赤色の『極限の飢餓デバフ』が点滅し始めた。

 ――お腹の虫:『グゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜ッ!!!』

 容赦なくリビングに鳴り響く凶悪なアラート音。最前線で数週間も不眠不休で戦っていた二人の空腹値は、すでに完全にゼロだった。

「お、二人ともお腹ペコペコだね。……それに、見ての通り家はDIYを始めたばかりでキッチンもまだ使えないんだ。よし、それじゃあソファの組み立ての続きは帰ってからにするとして、まずは近くの街の食事処にご飯を食べに行こう! あ、そこ歩く時は、忍び足でゆっくりね! ドタバタ動くと床が抜けちゃうから!」

(――っ! 移動すら、その即死剣山の隙間を縫う死のダンスを強制されるのか……っ!)

 二人は文字通り冷や汗を流しながら、一歩でも踏み外せば床下のガレキに串刺しになるという恐怖のなか、この世で最も慎重な『忍び足』で直板から降り、ベコベコ歪む床の安全な隙間を縫うようにして、粉砕された扉の残骸へと、フリルを埃まみれにし、シックな上着をボロボロにしながら、這うようにして脱出した。

 玄関を抜け、ようやく即死剣山エリアから生還した二人の必死な様子を見つめていたサトウは、大人の余裕が漂う優しい笑顔で微笑んだ。

「おっ、見事な足の運びだね! さすが最前線をバックれてきた仲間だ。事情はそれぞれ違うだろうけど、今日からここで一緒に働くバックれ仲間……いや、『新たな職場の同僚』だね。よし、同僚になったお祝いに、おじさんが美味いもん奢ってあげるよ!」

 おじさんが、二人の慎重な忍び足ステップを見て、最前線を逃げてきた境遇と絡めて「見事なバックれステップだね(笑)」とのんきにダジャレのジョークを飛ばした、その一言。

 だが、即死剣山の間を死に物狂いで縫って出てきた二人の脳内は、それぞれ異なる驚愕と戦慄に染まっていた。

『(……見事な足の運び、バックれ仲間だと……!? 私たちが即死剣山を完全に回避したあの命がけのステップすら、この男にとってはただのダジャレのネタに過ぎんというのか……! なんという底知れない邪悪……これこそ、新魔王軍への強制勧誘なのだな……っ!)』

『(な、何ですって……!? 私たちが一歩間違えれば即死だったあの死のステップを、ただの職場放棄と絡めて笑い飛ばすというの……っ!? なんて恐ろしい男……これこそ、新魔王軍の結成宣言なのね……っ!)』

「あ、そうだ。マオくんもユウちゃんも、今は調印の仕様で僕の『専属スタッフ』扱いになってるから、街ではぐれたら危ないよ。ほら、僕の後ろをピッタリ歩いて付いてくるんだよ」

 おじさんが「はぐれて迷子になったら大変だからね」と親切にルートを指定しただけだった。

 しかし、二人の視界には、サトウと結んだ調印書によって厳かにシステムメッセージが点滅していた。

『役職:サトウなんちゃって魔王城・雇われ執事(調印固定)』

『役職:サトウなんちゃって魔王城・雇われメイド(調印固定)』

(……くっ、この文字表記すら排されたリアルな世界で、システム的に俺の存在を完全に上書きしたというのか……! 永劫にこの男の下僕スタッフとして、魂まで隷属させられる契約を刻まれたのだな……っ!)

(うそ……本当に私の役職ステータスが『雇われメイド』に固定されてる……!? 永久にこのおじさんの配下として、魂までいいように使使役される呪いの契約を括り付けられたというのね……っ!?)

 二人の目には、それが「世界最強の二人に首輪を繋ぎ、衆人環視の街の中を引き回す、冷酷非道な調教」の宣告にしか聞こえなかった。

「「は、ははーー……っ!!」」

 二人はこれ以上おじさんの機嫌を損ねたくない一心で、完全におじさんの覇気に屈し、サトウの後ろをピッタリと歩き始めた。

 はるばる後方の安全なエリアにある、のどかな街の商店街。

 そこを、レベル24のお気楽なおじさんが先頭を歩き、その後ろを、レベル1に弱体化させられた世界最強の二人が「執事服(男)」と「メイド服(女)」姿で、まるで魂を抜かれたイベントスタッフのようにピシッと従いながら大衆食堂へと引き回されていく。

 名前しか表記されない世界だからこそ、そのあまりにも気品がありすぎる美男美女が、ただのおじさんの「お気に入りのスタッフ」として無言で従っている異様な絵面に、すれ違う街のNPC店主や、たまたま居合わせた一般プレイヤーたちが「おい、あのおじさん一体何者だ……!?」と背筋に冷たいものを走らせ、息を呑んで戦慄し始める。

 そんな周囲の勘違いのザワつきの中、サトウは「ここ、安くて美味いんだよ」と、大衆食堂のテーブルへ二人を優しく着席させた。

 サトウはオンボロな台所に立つ店主に手際よく注文を通した。注文してしばらくすると、厨房の奥からパチパチと炭火で魚が焼けるいい匂いが漂い始め、極限の飢餓状態の二人を最高に焦らした後に、焼き上がった3人分の黄金色に輝くアジの開き、豆腐とワカメのお味噌汁、つやつやの白米セットが最高のタイミングで運ばれてきた。

(……くっ、これがこの超越者の『洗脳の儀式』か……! だが、食べねば餓死する……っ!)

 覚割を決めた魔王マオに並び、勇者ユウがおそるおそる箸を伸ばし、アジの身を口に運んだ。

「――っ!?」

 その瞬間、ユウの身体がビクッと跳ね上がった。

 パリッとした皮の香ばしさ、噛むほどに溢れる濃厚な旨味と絶妙な塩加減。そして、味噌汁を一口すすった瞬間、ユウの目から、ただただ温かくて、自然な涙がポロポロとこぼれ落ちた。

「温かい……美味しい……っ。数週間、最前線で冷え切った戦闘用ポーションしか口にしていなかった私の身体に……命の洗濯が染み渡っていくわ……っ」

「おい勇者、そんなに美味いのか……? ――むぐっ!?」

 それを見た魔王マオも、負けじと白米とアジを口に放り込み、猛烈な勢いで絶句した。こちらも目元にジワリと温かい涙を浮かべている。

「な、何だこの白き至高の穀物は……っ!? 毎日魔獣の指揮コスト計算に追われて脳疲労最大だった俺の頭が、一瞬でとろけるようだ……っ!? 飢餓デバフが消滅していく……っ!」

 お互いの正体を知っているからこそ本来なら絶対に相席などありえない二人。しかし、レベル1の貧弱な身体に染み渡る料理の圧倒的な温かさの前に完全に敗北し、気まずさも忘れ、一心不乱にアジの開きを貪り食う。


 サトウは、二人が本当に嬉しそうに、おいしそうに食べる姿を見て、おじさんらしい満足げな笑みを浮かべた。


「はははは、そんなに勢いよく食べてくれて嬉しいよ。初日から扉をドカーンと粉砕されちゃった時はどうしようかと思ったけど、マオくんも良い食べっぷりだ。ユウちゃんも、喉に詰まらせないようにね」


 おじさんののんきの一言に、二人はハッと箸を止めた。


(俺が粉砕した扉の件を、この飯を食わせた上で笑顔で脅してくるとは……! 逆らったら二度とこれが食べられん上に、あの即死剣山に落とされる。大人しく従うほかあるまい……っ)


(マオが、粉砕した扉のことを、こんなに美味しいご飯を食べさせた後で笑顔で持ち出して脅してくるなんて……! 「お前たちスタッフの連帯責任だ」ってことなのね……っ!? 逆らったら二度とこれを食べさせてもらえない上に、あの即死剣山に落とされるのね。大人しく従うしかないわ……っ)

 光と闇のトップの忠誠心という名の恐怖が、夕食の胃袋経由で完全に固定された。

その後、他のプレイヤーに遠目で見られる中、ガクガクと震えながら屋敷へと戻る。

「よし、食べ終わったらさっき配置したソファのパーツの上で、死んだように寝て疲れを取っておいで。レベル1の身体なんだから無理は禁物だ。明日の朝は、マオくんには『粉砕した扉の木屑の片付け』、ユウちゃんには『リビングのお掃除』から手伝ってもらうからね!」


「「は、ははーー……っ!!(※お腹いっぱいで絶対に逆らえない)」」


 こうして、満腹になった二人は、完全にサトウを「世界の裏の支配者」と誤解したまま、激しく動いたら床が抜けて剣山に刺さるという極限の恐怖のなか、ソファの皮素材の上でピキッと硬直したまま、気まずすぎる初めての夜を迎えるのだった。


2話目の作成、完了!チェックしてたらスッテプとバックレのだじゃれが紛れていた。。意図ぜずに何かが生まれる瞬間ヒェってなった。感想、他コメントお願いします。おじさんダジャレ寒いわー

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