86.帰還予定とお茶会
「そういえば、あなたたちいつ王都に戻るの?」
セラと四人でお茶を楽しんでいると、ふと思い出したようにセラが尋ねてきた。
今日は、王都に戻る前にと予定していたお茶会の日だ。ノワール領で過ごし出してからは、ロイドやカイルに訓練場へ連れて行かれたり予定が合わなかったりで、なかなかゆっくりお茶を飲む機会がなくやっと全員が集まる事ができた。
「私は殿下が視察でヴェイロンにいらっしゃるので、殿下達が出立する頃に戻ろうと思ってるわ」
「あら、殿下がヴェイロン領へ?」
「数日ほど滞在されるそうで、私もご案内することになっているの」
「まあ、そうなの!それならおじ様も張り切りそうね!」
「多分今頃、かなり張り切ってると思う」
シャルロットが笑いながら紅茶に口をつける様子を眺めていたエレナの頭に、ふと名案がひらめいた。
「私もそろそろ領地に戻って、数日領地で過ごしてから王都に行く予定」
「私もそろそろ戻って準備をしようと思ってたところ」
リリアナとイザベラがそれぞれの予定を口にするのを聞きながら、エレナは楽しそうにシャルロットへ視線を向けた。
「じゃあ私もシャルと一緒に行こうかな」
「え?ヴェイロン領に?」
「うん!どうせ王都に戻るなら途中だし、久しぶりに遊びに行こうかなって」
「あら、いいわよ!久しぶりに一緒に帰りましょうか」
あっさりと決まった提案に、セラが呆れながら笑う。
「本当に昔から思いつきで決めるわね」
「そんな事ないよ!でも、久しぶりに街に行きたいかな」
「そういえば、女学院を卒業してからは行ってなかったものね」
「あの頃はよく遊びに行ってたよねー!」
エレナの言葉に、シャルロットも懐かしそうに笑った。
「懐かしいねー!また四人で行きたいなぁ!」
「今度、時間が合えば行きましょうよ」
リリアナの言葉にイザベラがそう返すと、エレナも嬉しそうに頷いた。
四人が思い出話に華を咲かせていると、セラが思い出したように口を開いた。
「そういえば、今回も随分賑やかな休暇だったわね」
「……そうだね」
「貴女たちも大変だったわね」
エレナの言葉にセラが他人事のように返すと、シャルロットがすかさず口を挟んだ。
「そういえば、セラ姉様!この前はひどかったじゃない!ロイド兄様に私とベラを連れていかせたでしょ!」
「あら、そんなこともあったわね」
「セラ姉様、あの時私たちまだお茶の途中だったのよ?止めてくれてもよかったじゃない!」
「だって、お兄様がすっかり乗り気だったんだもの」
ベラの訴えにセラが笑いながら答えると、今度はシャルロットが声を上げた。
「だからって、私たちを差し出さなくてもよかったでしょ?!」
「ごめんね」
三人のやりとりを聞いていたエレナは自分とは違う状況だったと知り、すかさず口を挟んだ。
「ちょっと待って!シャルとベラは姉上のところにいたの?!」
「そうよ。三人でお茶していたの」
「えー?!いいなぁ!私なんて廊下で兄上に捕まったんだよ?!」
「私も!エレナが抱えられてるところに出くわしちゃって、そのまま一緒に連れていかれたんだから!」
リリアナまで加わり、今度は四人揃ってあの日の話になる。
「私なんて兄上の顔見た瞬間に嫌な予感がしたから、逃げようとしたんだよ?!でも逃げる前に捕まった!」
「私なんて何が起こってるのか全然わからなかったよ!エレナが逃げてって言うから、びっくりしてたら私まで捕まるんだもん!」
その光景を想像したのか、セラがとうとう声を上げて笑い出した。
「あはは!そうだったのね!」
「姉上!笑い事じゃないよ!!」
エレナが抗議すると、シャルロットも大きく頷いた。
「しかも訓練場に着いたら、今度はおじ様まで張り切り始めるし!」
イザベラの言葉に、リリアナがすかさず続ける。
「そうだよ!最初は少し手合わせするだけって言ってたのに、結局トーナメントまでやらされたんだから!」
「あれは本当にひどかった……。私、しばらく剣なんて見たくなかったもの」
「私も!しかも殿下とルーまで乗り気だったし!」
「そういえば、セドリック様も大変そうだったわね」
イザベラがそう言うと、四人は揃ってあの日のセドリックを思い出した。
「……セドリック様、最後はほとんど動けなくなってたよね」
「そりゃそうだよ!あんなの普通にきついって!」
「でも、殿下たちは最後まで元気だったわよね……」
「父上と兄上たちもね!何なのあの脳筋!!」
エレナが言い切ると、セラは可笑しそうに笑った。
「お父様もお兄様たちも、みんなが揃って嬉しかったんでしょうね」
「嬉しいのはいいけどさぁ!こっちの体力も考えてほしいよ!」
「本当よ。しかも、あれから殿下たちはずっと訓練に参加しているんでしょう?」
「うん。ルーなんてこの前、庭でぐったりしてたよ」
そこまで言って、エレナはふとあの夜のことを思い出してしまい口を閉じる。
「……エレナ?」
「えっ?!あ、いや!相当疲れてたみたいだなーって!」
シャルロットに声をかけられ、慌てて話題を変えた。
「そ、そんなことより!姉上!次に兄上たちが来たらちゃんと止めてよね!」
「私は貴女たちがいない時に義姉様たちと散々振り回されてるから諦めなさい?」
「そこは頑張ってよ!!」
エレナの抗議に、セラは楽しそうに笑う。
「努力はするわ」
「……なんか信用できない」
「エレナ、それは私も同感だわ」
「ちょっと、シャルまで!」
セラの抗議に、四人は顔を見合わせて笑った。
「そういえば、エレナが一緒に来るなら父にも伝えておかないとね」
「あ、そうだね!殿下にも言っておかないと」
「ええ。あとでお伝えしておきましょう」
「よろしくー!」
すっかりシャルロット任せにしているエレナに、イザベラが呆れた視線を向ける。
妹たちの騒がしい光景に、セラが新しいお茶を注ぎながら口を開いた。
「それにしても、みんなが帰ったら寂しくなるわね」
「姉上、今度王都に遊びに来てよ!」
「そうねぇ。時間ができたら顔を出そうかしら」
「来て来て!みんなで遊びに行こうよ!」
「そうね。その時はよろしくね」
エレナの誘いにセラは微笑みながら頷くと、リリアナも嬉しそうに声を上げた。
「じゃあ、その時はみんなで美味しいもの食べに行こうね!」
結局、話題はいつの間にか王都の菓子店の話へと変わり、帰還の予定についての話はそこで終わった。
近いうちに訪れる出立の日を楽しみに思いながら、エレナはどこか晴れやかな心地で残りの紅茶に口をつけるのだった。




