81.賑やかな訓練場
81話清書
ノワール領での滞在にも少し余裕ができた頃、朝食の席で、アレクシスがグレンへ声をかけた。
「ノワール卿、一つ頼みがあるのだが」
「何でしょう、殿下?」
「せっかくこちらに滞在しているんだ。よければ私たちも騎士団の訓練に参加させてもらえないだろうか」
「……おお!もちろんですとも!大歓迎ですぞ!」
アレクシスの申し出に、グレンが嬉しそうに声を上げる。
「ルシアンも参加したいと言っていてな」
「ああ。ぜひお願いしたい」
「いやぁ!それは楽しみですな!ロイド!カイル!殿下とルシアン殿も訓練に参加されるそうだぞ!」
「おお!それはぜひ!」
「いいですね!今日は面白くなりそうだ!」
父の言葉にロイドとカイルも早速今日の訓練について話し始めた。
「せっかくだから実戦形式も取り入れるか!」
「いいですね!人数も増えるし、組み合わせも色々試せますよ!」
「よし!今日はいつもより気合いを入れるぞ!」
そんな三人のやり取りに、アレクシスとルシアンも期待を膨らませ、カイも内心ではかなり楽しみにしている。
ただ一人、セドリックを除いて……
「セドリック殿も、もちろんご一緒ですな!」
「……え?」
「殿下たちが参加されるんだ!皆でやった方が楽しいでしょう!」
「あの、私は……」
「よし!それなら早速準備を進めよう!」
セドリックが何か言いかけた頃には、既に参加することが決まっていて、以前の訓練を思い出し、早くも先行きが不安になっていた。
◇ ◇ ◇
朝食後、騎士団の訓練場ではアレクシスたちが騎士に交じって稽古を行っていた。
普段とは違う訓練内容に、アレクシスもルシアンも楽しそうに参加している。カイも率先して手合わせに加わり、次々と相手を変えながら剣を交えていた。
「殿下!次はこちらへ!」
「ルシアン殿!今度は俺とどうですか?」
ロイドとカイルも張り切っており、訓練場はいつにも増して賑わっている。
「……皆さん、本当にお元気ですね……」
「なかなか面白い訓練だな」
「ああ。普段とは違う動きも多い」
アレクシスとルシアンが訓練について話している横で、セドリックは周りの空気に完全に引いていた。
◇ ◇ ◇
その頃、セラはシャルロットとイザベラを招いてお茶を楽しんでいた。
「それで?二人とも昨日は街へ行ってきたんでしょう?」
「ええ。久しぶりに皆で街歩きを楽しんできたの」
「昔よく行っていた雑貨屋さんにも寄ったのよ」
「あら!懐かしいわね!あのお店、まだあるの?」
そんな話で盛り上がっていると、廊下から声が響いた。
「セラ!いるか?」
「……お兄様?」
セラが返事をすると、ロイドが部屋へ顔を出す。
「おお!シャルとベラもいたのか!ちょうどよかった!」
「お兄様?どうしたの?」
「今、殿下とルシアン殿が訓練に参加されていてな!せっかくだから三人も来ないか?」
その言葉に、シャルロットとイザベラは顔を見合わせる。
「……訓練?」
「……私たちが?」
二人が戸惑っている横で、セラはすぐに口を開いた。
「あら!それならシャルとベラは参加すればいいんじゃないかしら?」
「……え?」
「お兄様、今回は二人のご友人との手合わせでしょう?私まで参加するのは遠慮しておくわ。二人とも、楽しんできてね!」
「おお!確かにそうだな!じゃあセラはまた今度だな!」
あっさり話がまとまり、シャルロットとイザベラは慌ててセラへ向き直る。
「ちょっと、セラ姉様!?」
「私たち、まだ参加するとは……!」
「二人とも、頑張ってね」
セラは二人の抗議を華麗にかわし、優雅に紅茶へ手を伸ばした。
「よし!それじゃあ行こうか!」
「「……えっ!?」」
ロイドはシャルロットとイザベラをそれぞれ両脇に抱え上げる。
「ちょ、ちょっと!ロイド兄様!?」
「待って!せめて歩かせて!」
「ははは!訓練場まではすぐだからな!」
「そういう問題じゃない!!」
二人の抗議もむなしく、そのままロイドは部屋を出ていった。
「「セラ姉様ー!!」」
「……ごめんね、二人とも」
廊下から聞こえる二人の声に、無事に難を逃れたセラは、何事もなかったようにお茶を飲み始めた。
◇ ◇ ◇
一方、屋敷の廊下ではエレナがカイルと対峙していた。
「おっ!エレナ!ちょうどよかった!」
「……何?」
兄の妙に楽しそうな様子に、嫌な予感しかしない。
「今から--」
「嫌だ!!」
「まだ何も言ってないだろ!」
そのまま立ち去ろうとしたエレナを、カイルが抱え上げる。
「ちょっ!兄上!?何してんの!?」
「ほら、行くぞ!」
「行かないってば!下ろして!!」
じたばたと抵抗するエレナを抱えたまま廊下を進んでいると、前からリリアナが歩いてきた。
「あ!カイル兄様!……って、エレナ!?」
「リリ!逃げて!!」
「え?どうしたの?」
「おお!リリもちょうどよかった!」
カイルは空いている方の腕でリリアナも抱え上げると、二人の抗議などまるで聞こえていない様子で、上機嫌のまま訓練場へ向かっていった。
◇ ◇ ◇
その頃、訓練場ではアレクシスとルシアンが一通りの稽古を終えて休憩していた。
「なかなかいい訓練だな」
「ああ。実戦に近い動きが多い」
カイも満足そうに頷いている一方、セドリックは既に疲れ切っていた。
「……皆さん、まだ動けるんですか……」
そんな中、訓練場の入り口が騒がしくなり一斉に顔を向けると、現れたロイドの両脇には、シャルロットとイザベラが抱えられている。
「ロイド兄様!いい加減下ろして!」
「私たち、まだ行くとは言ってない!」
そんなロイドに続き、姿を現したカイルの両脇にはエレナとリリアナが抱えられていた。
「兄上!!下ろしてってば!!」
「カイル兄様ー!!」
アレクシスとルシアンは、目の前の光景に言葉を失う。
ロイドとカイルが四人を下ろすと、彼女らは自分たちが見たことないような剣幕で一斉に抗議を始めた。
「ロイド兄様!いきなり抱えて連れてくるなんてあんまりです!」 「セラ姉様とのお茶の途中だったんですよ!?」 「兄上!!私、嫌だって言ったよね!?」 「私もー!何で連れてこられたのー!?」
しかし、当の兄弟はまったく気にしていなかった。
「いやぁ!皆揃ってよかったな!」 「せっかくだし一緒に訓練しようぜ!」
「「「「しません!!」」」」
「おお!皆来たか!」
「父上!!」 「おじ様!私たち、訓練するなんて聞いておりません!」
「ははは!せっかく殿下たちも参加されているんだ。少しくらい付き合ってくれてもいいだろう!」
「だからって無理やり連れてこなくても!!」
四人の声が訓練場に響く中、やってきたグレンにエレナが抗議するも、楽しそうに笑うだけだ。
「まあまあ!昔はお前たちもよく一緒に稽古していただろう?久しぶりに揃ったんだ。たまにはいいじゃないか!」
「いつの話をしてんの?」
「大丈夫だ!今日は軽く手合わせする程度でいい!」
「……絶対信用できない」 「同感だわ……」
結局、四人は渋々参加することになり、そんなやり取りを見ていたアレクシスが、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば、ノワール卿。以前、王都でエレナ嬢とシャルロット嬢に手合わせをお願いしていてな」
「……え?」
エレナとシャルロットが同時に顔を上げる。
「おお!そうなのですか!」
「ああ。まだ実現していなかったから、せっかくの機会にお願いできればと思うのだが」
「それはいい!ぜひやりましょう!」
グレンが嬉しそうに声を上げる。
「ロイド!カイル!木剣を用意してくれ!」
「「はい!」」
「ちょっと待って、父上!!」
エレナが慌てて止めようとするが、三人は既に準備を始めており全く話を聞いていない。
その横でシャルロットも、何とも言えない顔で準備を進めるグレンたちを眺めている。
「よし!それじゃあ早速始めよう!」
その声に、エレナとシャルロットは揃ってアレクシスを睨んだあと、天を仰いだ。
どうやら今日も、平穏には終わらないらしい。




