78.辺境の武器
*間違えて先に投稿してしまいました。
77話投稿済みです
ノワール領に到着して数日。アレクシスとルシアンは先行組と合流し、順調に領内の視察を重ねていた。街道や防衛施設の点検を終えこの日向かうのは、辺境騎士団の武器庫。実際に使われている武器を見学する予定になっている。
案内を担当するのはグレン、ロイド、カイルの三人で、カイとセドリックは先行視察で一度確認していたため、アレクシスとルシアンにとっては初めて見るものばかりだった。
「こちらが現在、国境付近の防衛で使用している武器になります!」
グレンに案内された施設には、王都の王立騎士団ではあまり見かけない武器が数多く並んでいた。
通常の剣や槍に混じり、大型の弩や用途の分からない器具まで置かれている。中には、王都で使われているものを基に改良したらしい武器もあった。
「……これは?」
ルシアンが足を止めたのは、通常の弩よりも随分と大きなものだった。
「ああ、それは城壁から使うものだな。普通の弩とは少し用途が違う」
ロイドの説明を聞きながら、ルシアンは武器を眺める。
「これほど大きいものを、実際に運用しているのか?」
「ああ。設置する場所は限られるが、状況によっては役に立つ」
隣ではアレクシスも別の武器を手に取っていた。
「王都では見かけない形だな」
「国境では相手の装備も戦い方も違いますからな!こちらも色々試しておりまして!」
グレンの説明に、アレクシスは興味深そうに頷いた。
「なるほど。現地で必要なものを改良しているわけか」
「そういうことです!」
その後もいくつかの武器を見て回り、施設の奥へ進んだところで、アレクシスが足を止めた。
「……これは何だ?」
そこに置かれていたのは、これまで見てきた武器とは明らかに形状の違う、大型の装置だった。
太い筒状の部分が頑丈な台座に固定され、周囲には見慣れない部品が取り付けられている。少なくとも、二人が王都で見たことのある武器ではない。
「おお!それですか!」
アレクシスの声に振り返ったグレンが、嬉しそうに装置の前へやって来た。
「そちらは辺境で使っている破砕用の兵器を改良したものです!主に障害物の排除などに使用しております!」
「……破砕用?」
「実際に見ていただくのが早いですね!」
グレンの言葉に、ロイドとカイルが揃って頷く。
「そういえば父上、そろそろ点検の時期じゃなかったか?」
「ああ!近々、動作確認をする予定だったな!」
「だったらちょうどいいんじゃない?」
カイルが言うと、グレンは何かを思いついたようにアレクシスへ向き直った。
「殿下!よろしければ、実際に試験をご覧になりますか?」
「……いいのか?」
「もちろんです!ちょうど点検も必要でしたので!」
アレクシスがルシアンを見ると、ルシアンもすぐに頷いた。
「……見てみたいな」
「では決まりですな!試験場へご案内しましょう!」
そう言って歩き出したグレンの後ろを、ロイドとカイルが続く。
「……随分乗り気だな」
アレクシスが呟くと、カイが即座に頷いた。
「ああ。あれはなかなか面白いぞ」
「お前はもう見たのか?」
「先日見せてもらった。威力は相当なものだったな」
「……それほどか?」
「ああ。実際に見れば分かる」
ルシアンとカイが話している一方、セドリックは黙って歩いていた。
「……セドリック?」
「はい?」
「お前は随分静かだな」
「いえ。今回は見学ですから」
「……今回は?」
それ以上は何も言わず、セドリックは三人の後ろについていくのだった。
◇ ◇ ◇
施設から少し離れた場所にある試験場では、すでに騎士たちが準備を進めていた。
周囲の立ち入りが制限され、装置の状態を確認した後、グレンがアレクシスたちへ説明する。
「まずは通常の試験からお見せしましょう!」
騎士たちが所定の位置へ下がり、グレンの合図で最初の試験が始まった。
直後、腹の底に響くような轟音が鳴り響き、離れた場所に設置された標的が砕け散る。
「……っ!?」
アレクシスが思わず身を乗り出し、隣にいたルシアンも音が鳴りやんだ後もしばらく標的のあった場所を見つめていた。
「……すごいな」
「ああ。想像以上だ」
二人が顔を見合わせると、グレンが満足そうに告げる。
「なかなかのものでしょう!」
「……これほどの威力があるとはな」
「これは実戦でも使っているのか?」
「ええ。ただし、使う場所は選びますな。何でもこれで片付ければいいというものでもありませんので!」
「なるほど……」
ルシアンが装置へ近づき、改めてその大きさを確認し、アレクシスもグレンへいくつか質問を重ねた。
最初は王太子としての視察だったはずが、いつの間にか二人ともすっかり武器の方へ夢中になっている。
「殿下、ルシアン殿!」
「せっかくですし、お二人も試してみますか?」
「……我々が?」
「はい!担当の騎士もついておりますので」
そんな二人にロイドから声がかかり、アレクシスは一瞬考えたものの、すぐに頷く。
「……では、せっかくだから試してみたい」
「私も構わないだろうか」
「もちろん!」
「いいねえ!そうこなくちゃ!まず殿下から!」
ルシアンまで即座に希望したことで、カイルが嬉しそうに笑う。
こうして始まった試験は、予定していた動作確認から、いつの間にか参加者が順番に装置を試す流れへと変わっていった。
最初に試したアレクシスは、先ほどとは違う位置に設置された標的が砕けるのを見て驚き、続いて試したルシアンも、その威力に感心していた。
「……面白いな、これ」
「だろう?」
ルシアンの言葉に、カイが頷く。
「王都でも使えそうだが……いや、場所を選ぶか」
「そうだな。威力がありすぎる」
「まだ他にも試せますよ!」
「……まだあるのか?」
そんな会話の途中、カイルの言葉にアレクシスとルシアンが揃って振り返ると、今度はロイドが別の標的を指さした。
「次はあちらで試してみましょうか」
先ほどまで静かに見学していたカイも、いつの間にか二人の横に並んでいる。
「俺も参加していいだろうか」
「もちろんだ!カイ殿も遠慮なく!」
次々に行われる試験を眺めていたセドリックは、しばらく様子を見ていたものの、ロイドから声をかけられる。勧められるまま試す頃には、アレクシスとルシアンの関心はすでに次の標的へ向かっていた。
「さっきより距離があるが、あちらにも届くのか?」
「ええ、あちらは少し頑丈な作りですが届きますよ!」
グレンの返答にアレクシスとロイドが意欲を見せると、カイルが素早く準備を始め、カイも興味津々で標的を見つめている。
気づけば、誰もが当初の目的を忘れ、目の前の武器に夢中になっていた。
◇ ◇ ◇
「いやー!殿下方にも気に入っていただけたようで何よりです!」
一通り終わったところで、グレンは満足そうに装置を眺めた。
アレクシスとルシアンも、王都では経験できない貴重な機会にすっかり満足していた。
「実に興味深かった。今回の視察でも特に印象に残るものになりそうだ」
「……ああ。これほどのものがあるとは思わなかった」
二人の言葉を聞き、グレンが大きく頷く。
「そうでしょう!実はこれ、まだ別の使い方もできるんですよ!」
「……別の使い方?」
「ええ!せっかくですし、最後に一つお見せしましょう!」
グレンがそう言うと、ロイドとカイルがすぐに反応する。
「ああ、あれか!」
「いいね!久しぶりにやる?」
「……何をするんだ?」
「まあ、見てのお楽しみです!」
そう言ってグレンが騎士たちへ指示を出すと、試験場の奥にある古い防壁の一角が示された。
「あそこなら問題ないだろう!」
「そうだな。元々補修予定の場所だし」
「よし!じゃあ父上、頼んだ!」
ロイドとカイルの言葉に、グレンは意気揚々と準備を進める。
その横で、セドリックだけが何とも言えない顔をしている。
アレクシスもルシアンも、これからおこることに興味津々だ。
「では、いきますぞ!」
グレンの合図とともに、これまでとは比べものにならない轟音が響き渡る。
「……っ!?」
激しい音とともに土煙が上がり、しばらくして視界が晴れると、先ほどまで防壁の一部だった場所に大きな穴が開いていた。
「…………」
全員の視線が、その穴へと集まる。
「……父上」
最初に口を開いたのはロイドだった。
「……ちょっと広がりすぎじゃないか?」
「……そうだな」
「いやー、思ったよりいったね!」
グレンが頷く横で、カイルが防壁を眺める。
アレクシスとルシアンが呆気にとられている横で、カイは感心したように壁を見る。
「……あなた」
背後から聞こえた低い声にその場にいた全員が振り返った。
いつの間に来たのか、試験場の入口にはクラリスが立っていた。
「……クラリス!いや、これはだな!今な――」
「グレン?」
「……」
先ほどまでの勢いはどこへやら。名前を呼ばれた瞬間グレンがぴたりと口を閉じる。心なしか姿勢も良くなっている。
クラリスは防壁に開いた穴へ視線を向け、それからその場に並ぶ面々を見渡した。
「……これは、どういうことでしょうか?」
「いや、その……元々補修予定の場所だったからーー」
「それで?補修する場所を増やしたのですか?」
「…………」
グレンが何も言えずにいると、ロイドが口を開いた。
「母上、一応安全は確認していたんだが――」
「ロイド」
「……」
「カイルも、随分楽しそうだったようですね?」
「……いや、俺は別に――」
「カイル」
「……」
次々に黙っていく親子を見て、アレクシスも無意識に姿勢を正した。
「殿下方も、ご一緒だったのですね」
「……ああ。私も参加させてもらった」
「そうでしたか。楽しんでいただけたのなら何よりでございます」
そう言ってから、クラリスはもう一度防壁の穴を見る。
「ですが、皆様。当初の予定を忘れてしまうのはいかがなものでしょうか?私は試験だと伺っていたのですが?」
「……ごもっともです」
「……申し訳ありません」
アレクシスが答えると、カイも姿勢を正し、ルシアンとセドリックは共に頭を下げる。
結局、七人全員がクラリスからお説教を受けた。穴を開けた防壁についてはグレンが責任を持って修復することとなり、ロイドとカイルに至ってはグレンに擦りつけようとしていたが、無駄に終わっていた。
クラリスが去った後、しばらく誰も口を開かず微妙な空気が流れる。
「……父上が言っていたのは、こういうことか」
アレクシスがぽつりと漏らした言葉に、ルシアンも出発前に父から聞いた忠告を思い出していた。
――誰かが面白そうだと言い出したら、絶対に話に乗るな。
……気づいた時には、すでに自分たちも夢中になっていたのだ。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
屋敷へ戻ったルシアンが廊下を歩いていると、正面からエレナがやって来た。
「あ、ルー!今日、武器の試験したんだって?」
「……ああ」
「どうだった?」
「……すごかったな。見たことのない武器もあった」
「へえ!ルーがそこまで言うなら、結構楽しめたんだ?」
「……ああ」
その返事にエレナは笑う。
「そういえば、最後に父上が壁に穴開けたって聞いたけど、ルーたちも一緒だったの?」
「……ああ」
「やっぱり!あれ、昔父上が王立騎士団の訓練場の壁に穴開けたんだって!父上、あれ気に入ってるんだよね」
「…………」
「……ルー?」
「……あれか!!」
珍しく声を張り上げたルシアンに、エレナは驚いて目を丸くする。
「え!?何!?」
「……いや」
ルシアンは、父が苦々しい顔で話していた昔話を思い出していた。
大型化され、遠くへ飛ばせるように改造された発破用の火薬壺。
王立騎士団の訓練場の壁に穴を開けた代物。
まさか、今日自分たちが夢中になっていた武器がそれだったとは。
「……何でもない」
「えー!絶対何かあるじゃん!」
そう言って詰め寄ってくるエレナを前に、ルシアンは改めて思った。
……父上の忠告は、もう少し真剣に聞いておくべきだったかもしれない。
*いくつになっても、男の子は武器が好きですね




