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73.予定…とは?


晩餐には、父と兄たちも無事に戻ってきた。久しぶりの再会を喜んだのも束の間、三人揃ってカイたちが来る話でまた盛り上がり、結局母上に睨まれて大人しくなっていた。


……本当に反省したのかは怪しい。


そんな賑やかな夜を過ごした翌朝、長旅の疲れもほとんどなく、朝食を終えたエレナは久しぶりの自室で何をしようか考えていた。


王都へ行く前によく立ち寄っていた店にも行きたいし、領内をぶらつくのもいい。エドガーやアデルとも遊びたいし、何もしないでのんびりするのも悪くない。


今日の予定を考えながら部屋を出ると、廊下の先からセラが歩いてきた。


「エレナ、今日何か予定ある?」

「特にないよ。街にでも行こうかなって思ってたけど」

「じゃあ午後、お茶しない? 久しぶりだし、ゆっくり話したいわ」

「いいよ」


久しぶりに姉と二人でゆっくり過ごすのもいい。すぐに了承すると、そこへ聞き慣れた声が飛んできた。


「エレナ、ちょうどいい。行くぞ」

「……どこに?」


振り返ると、ロイドとカイルが揃ってこちらへ歩いてくる。


「訓練場」

「行かない」

「何でだよ」

「何で行くと思ったの?昨日帰ってきたばっかりなんだけど」

「だからだろ。何日も馬車に乗ってたんだから身体鈍ってるぞ」

「別に鈍ってても困らないし」

「困るだろ」

「何で?」


……話が噛み合わない。


「エレナは今日は私とお茶するの。訓練なら別の日にして」

「午後だろ?」

「だから?」

「午前だけ借りる」

「借りるって何よ。エレナは物じゃないのよ」


見かねて口を挟んできたセラにもっともなことを言われているのに、ロイドは特に気にした様子もない。


「午前訓練して午後お茶すればいいだろ」

「何でお兄様がエレナの予定決めるの?」

「効率いいじゃん」

「よくない!今日は久しぶりに姉妹でゆっくりしようと思ってたの!」

「じゃあセラも来ればいいだろ」


カイルの一言に、今度はセラが訳がわからないと表情を歪める。


「ちょうどいいじゃん。久しぶりに兄妹で手合わせしようぜ!」

「「絶対行かない!!」」

「二人とも昔は普通にやってただろ」

「昔の話でしょう!」

「私は今も時々やらされてるけどね……」


エレナの言葉にセラが信じられないとばかりに顔を向ける。


「え?今でもやらされてるの?」

「大体この二人に捕まる」

「ちょうど今日もその日だな!」

「嬉しくない!」


そのまま話し合いになるはずもなく、そもそも兄二人は話し合う気など最初からなかったらしい。


「じゃあ行くぞ」

「行かないって言ってるでしょ」

「聞こえてる」

「じゃあ何で――ちょっと!」


ロイドがエレナを担ぎ上げた。


「ロイド兄! 降ろして!」

「暴れるな。落ちるぞ」

「誰のせいよ!」


隣ではカイルがセラを同じように担ぎ上げている。


「カイル!何してるの!降ろしなさい!」

「いいからいいから」

「何がいいのよ!」

「久しぶりの家族団欒」

「どこが?!」


さっきまでエレナの取り合いをしていたはずなのに、気づけば兄二人に姉妹で連行されるはめになっている。


「母上!」

「お母様、止めてください!」

「……無茶だけはさせないでね」

「母上、そこは助けるところじゃないの?!」

「止めても無駄でしょう。帰ってきたらお風呂に入って、ちゃんと休みなさい」

「行く前提になってる……」


途中で会った母に助けを求めてみたものの、息子二人が簡単に引き下がらないことくらい分かっているのか、母には早々に諦められた。


結局、エレナとセラはそのまま兄二人に担がれた状態で訓練場まで連れていかれることになった。

屋敷を出たところで使用人たちとすれ違ったが、誰一人として驚かず、それどころか「お気をつけて」と普通に頭を下げられる始末だ。


「誰か助けてくれてもよくない?」

「いつものことだからじゃない?」

「姉上まで諦めないでよ」


訓練場へ近づくにつれて、剣を打ち合う音や掛け声が聞こえてくる。到着すると、訓練中だった騎士たちが一斉にこちら振り返る。


「お嬢、お帰りなさい!」

「エレナ様、また捕まりましたか?」

「セラ様まで一緒なのは珍しいですね」

「見れば分かるでしょ。助けてよ」

「いやあ、ロイド様とカイル様相手じゃ無理です」

「即答しないで」


誰も助けてくれないどころか、妙に楽しそうだ。


「おお!エレナ!それにセラまで来たのか!」


騒ぎを聞きつけて訓練場の奥からやってきた父を見てセラとエレナは二人揃って絶望した。

「「来たんじゃない!連れて来られたの!!」」

「細かいことはいいじゃないか!久しぶりに四人揃ったな!」

「父上まで喜ばないでください!」

「せっかくだ。今日は兄妹で手合わせするか!」

「「しません!!」」


流石親子。父も兄二人も全くセラとエレナの話は聞いていない。


「まず軽く身体動かしてからだな」

「セラはどれくらい動ける?」

「久しぶりだから軽めでいいだろ」

「エレナはいつも通りで大丈夫だな」

「セラ様が訓練場にいるの久しぶりだな!」

「お嬢と二人揃うの珍しいぞ!」

「今日は見ものだ!」


周囲の騎士たちまで妙に盛り上がり、父と兄と騎士たちだけが楽しそうだ。


「……姉上」

「何?」

「何でこの人たち話を聞かないの?」

「脳筋だからでしょ……」

「……」


その後、久しぶりだからと木剣を持たされ、準備運動だけと言われたはずが気づけば手合わせが始まり、一本終われば次が待っている。セラは昔ほど身体を動かしていないと言っているのに、ロイドとカイルは「まだ動ける」と勝手に判断し、エレナもエレナで兄二人から交互に相手をさせられた。


昼を過ぎる頃には、二人ともすっかり気力を使い果たしていた。


「……姉上…午後のお茶……」

「今日はもういいわ……」


結局、セラとエレナは父と兄たちに散々振り回され、午後に予定していたお茶会はそのままなくなったのだった

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